「プロがすすめるベストセラー経営書」 日本経済新聞社 2018年 日経文庫

 移動時間の暇潰しに、と思ったら、コンパクトにまとまっていて、講義にも使える内容でした。ありがとうございました。 以下はこの本の要約と引用です。

■「戦略プロフェッショナル」 三枝匡著 清水勝彦解説
 基本理論を習得し、応用します。原理原則は古くなりません。良い戦略は単純明快である。単純だから応用力がある。
・改革のシナリオ(3枚)
 現実の直視と、問題の本質
 その問題を解決する筋道と戦略
 解決の実行計画
 「現実の社会では、戦略は単純なものだ。方向性を決めて、死に物狂いで実践する」ジャックウェルチ。
 「業績の悪い企業は内部が不安定だと思われがちだが、むしろ逆のことが多い。低いレベルで社内が落ち着いている」「企業改革は意識改革からは嘘」意識改革ができれば、企業改革は終わったようなものだ」。「企業の業績悪化と社内の危機感は相関しない。むしろ逆相関する」。
 本当の危機感とは「自分が何かをしなくてはいけない」という気持ちです。意識改革の前提は、現実を直視することです。「不安を感じる、社内がガタガタする。それは変化の第一歩です」「真実が語られない理由うぃ若い社員たちは見抜いている。そして白けた気持ちで黙々と、言われたことだけをやっている」。
 「運が良い」企業は、その運を活かす努力をした企業です。
 「当たり前のことを、当たり前にやっただけ」。何をもって「当たり前」とするかこそが、大きな違いを生み出します。

■「ワークシフト」 リンダ・グラットン著 岸田雅裕解説
 日本政府も、企業が就業規則を定める際に参照する厚生労働省の「モデル就業規則」を改訂しました。労働者の順守項目の「許可なく他の会社などの業務に従事しないこと」の規定を削除し、副業・兼業についての規定を新設しました。
 先進国に住みながらもグローバル化する人材市場から取り残された新たな下層階級の一員となってしまった米国の若者は「新しい貧困層」の象徴となしました。
 高い労働の流動性。見知らぬ同士の関係では、社会的な地位や評価が果たす役割が大きくなります。
 日本の25〜54歳の女性就業率は7割。2016年のOECD加盟国34か国中23位。

■「採用基準」 伊賀泰代著 大海太郎解説
 マッキンゼーの採用基準は、1)リーダーシップがある、2)地頭が良い、3)英語ができる。
 課題解決にあたっては、リーダーシップが不可欠。人間関係を構築し、強靭な精神力が求められます。知識があることと、考えることは異なります。日本国内で、外資系企業が雇う人材が、日本語と英語ができるアジア人ばかりになる可能性があります。
 全員がリーダーシップを持つ組織は、高い成果を達成します。欧米の企業では、リーダーシップを社員が持つべき資質と考えています。高い成果目標がチームに課されたとき、リーダーシップが必要とされます。成果が厳しく求められない日本では、リーダーシップが問われないのです。目標を達成するためんは、他者を巻き込んで物事を変えていく必要があります。
 労働時間ではなく、働き方=「生産性」が問題なのです。やっていることが、所属する組織の成果にどう結び付くかという意識の問題です。そもそも目指すべき成果が不明確なこともあります。結果として、日本企業では、長時間労働が価値創造に結び着いていません。
・リーダーがなすべきこと
 目標を掲げる:成果目標を定義し、メンバーを鼓舞する
 先頭を走る
 決める:検討する人でも考える人でもなく、責任がとれる人
 伝える:コミュケーションで人を動かす
 常に成果を問われる環境で働いていると、「今やっていることは、どのような価値を生むのか」を意識するようになります。
 求められるのは、変化を起こす力のある人。変化に対応する人ではありません。
 決めない会議。「持ち帰って検討します」。十分な情報が揃い「間違いの無い決定」でない限り決めないのは、責任を取りたくないからです。リスクを取らない作業では、報酬は得られません。

■「ストーリーとしての競争戦略」 楠木建著 小川進解説
 顧客価値の定義から、利益を出す論理を描く戦略のストーリー化を作ります。
 利益源泉を理解する。1)業界の競争構造、2)ポジショニング、3)組織能力。組織能力は簡単に模倣できず、市場で容易に手に入りません。組織が日々の活動の中で蓄積するものです。良い例がトヨタのかんばん方式。模倣してもトヨタを超えられません。
 7-11ジャパンは多くの競合に参考にされ模倣されてきました。7-11のポジショニングは、時間価値。大規模小売店法によって大型店舗の深夜営業が制限されていたのは幸運でした。
 7-11の強みは「売り逃しが少ない」こと。お客が来店したとき、買おうと思った商品があるかどうか。それが買上点数の差になります。7-11は消費者の要求(ニーズ)を需要(具体商品への需要)にする商品があるかないかも問われます。7-11は消費者の望むものを品切れなく並べる「単品管理」の能力に磨きをかけてきました。
 7-11の強みは、売り逃しの損失を極小化する単品管理。売り逃しは、既存商品、新商品、要求商品の三つがあります。
 7-11は店舗が商品を発注します。本部は、発注を支援する情報を提供します。近くの予備校で模擬テストがある日にはサンドイッチが売れます。近隣のイベント情報を発注に生かす事例も、SVが伝えます。
 新製品は既存商品より発注が難しい。CVSでは、発売された週が最も売上が高くなります。テレビ広告の出稿量などを参考に店舗の担当者が発注します。売れ行き情報はその日のうちに共有され、陳列や発注に反映されます。
 7-11は、全ての商品を店の担当者が発注することをかたくなに守ります。一品一品について仮説を持って発注する仕事(仮説検証)は、時間と手間がかかります。オーナーだけでなく、パートにも発注を任せます。
 商品発注は、情報が集約される本部の方が適切で手間も省ける。素人のパートに任せるのは疑問だ、と競合は考えました。そして、自動発注の仕組みを導入しました。
 「自動発注駄目です。店の人は商品が売れなかった時、本部のシステムのせいにします。商品の動きを感じて発注できるのは店頭です。結果に対して店員が責任を感じ、お客様を観察します」鈴木敏文。
 自動発注は店舗作業の手間を省きましたが、店の人たちの知恵は活かされません。7-11の仮説検証を超えることはできません。不合理に見える店舗発注だからこそ、追従を許さない戦略の核心になり得たのです。
 7-11のクリティカル・コアは店頭発注による仮説検証です。短い発注リードタイム、多頻度小口物流、エリア集中出店、取引先を絞った共同物流、週二回のSV巡回、毎週の本社全体会議は、店舗発注を中心に構築されています。
 競合が店舗発注を導入したのは、ファミリーマートで7年、ローソンは10年かかりました。7-11は事業の核心である仮説検証型の店舗発注を全店-全商品で行い、組織能力を構築しました。
 「先見の明」は、やがて追随の招きます。クリティカル・コア(核心)を組み込んだ戦略は、簡単に模倣できません。

■「サーバントリーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著 森洋之進解説
 サーバントリーダーシップは仲間に奉仕するリーダー。自らの志を追求し、献身的に働くことを通じてリーダーとなる人です。
 本田宗一郎氏は、社長を辞めた時に国内外の事業所を全て回って、2年かけて社員全員と握手しました。「俺は社長を辞めてやっと人間らしいものにいきあったよ」。「同僚であるという感覚で接しない限り、協力は得られないし能力も発揮されない」。
 問題が発生すると「強力なリーダーシップ」が求められます。その結果、問題は悪化します。トップはなかなか決断できないからです。
 サーバントリーダーシップの原点は「良心」。
 Googleのモットーは「悪役になるな」。基本理念は、
 ユーザーの利便性が第一
 検索結果には、その内容と関係ない広告は掲載しない
 広告はユーザーが必要としている情報と関連性がある場合にのみ役立つ
 ポップアップ広告はユーザーの閲覧の邪魔になるので許可しない
 検索結果に手を加えない(PageRankは金で買えない)

■「ハード・シングス」ベン・ホロウィッツ著 佐々木靖
 経営書は、対処法が無い問題に対処法を教えようとするところに問題があります。
 CEOは、孤独と圧力の中で異常な心理状態に陥ります。投げ出したいと何度も思います。困難な状況でも自分を制御する力が求められます。ビジョンを活き活きと描写し、正しい野心を持ち、ビジョンを実現する能力が必要です。
 CEOになる訓練は存在しません。実際にCEOになる以外にはないのです。事業運営の経験は会社運営には役に立ちません。
 知性の高い人間は必要です。頭のいい人間が最悪の社員になることも事実です。
 過度のレイオフは会社の文化を壊します。残った社員が会社再生に必要な犠牲を払おうとはしなくなります。なぜレイオフをしなければならないかという事実をストレートに伝えます。失敗したのは会社で、個人ではない。CEOが失敗を皆の前で認めることが必要です。
 良い会社であることそれ自体が企業の目的であり、そうすることが企業の継続する成長を支えます。事業の歯車が狂ったときに、優秀な社員を会社にとどまらせる唯一の理由は、その会社と仕事が好きだということなのです。
 組織が大きくなるにつれて、大切な仕事は見過ごされます。熱心に仕事をする人が、社内政治に秀でた人に追い抜かれます。
 企業の存在意義は、社員と顧客の要求を満たすものでなければなりません。企業の目的に基づいて、戦略・制度・資産の全てを構築します。
 会社の目的を、社員に継続的にコミュケーションします。同じことを3回聞いて、ようやく理解が始まります。
 失敗した会社の社員は、会社を死に至らしめるずっと前から致命的な問題を知っています。問題を自由に語れる会社は、問題を解決できます。

■「イノベーションと起業家精神」ピーター・ドラッカー著 森下幸典解説
 グローバル化により業務の24時間対応が求められています。ロボティック・プロセス・オートメーションが注目されています。ソフトウェアロボットは、定められた規則に従った処理を自動化します。
 イノベーションを模倣し市場を奪うことも戦略の一つ。

■「経営戦略の思考法」沼上幹著 平井孝志解説
 社員が「うちの会社って戦略が無い」と口にした時、メンバーが同じ認識を持っていなければ、同じ方向性で動くことはできません。
・戦略の側面
 計画:企業が辿る道筋を描く
事前に決定要因を明らかにし、障害を乗り越える方法を考えます
 創発:事前に想定できない物事に対する指針を与える
あるべき姿に至るために自由に行動できるよう組織や人材を育成する
 ポジショニング:事業の立ち位置
業界の買い手、供給業者、代替品、参入者、競争者の圧力を理解する
 リソース:必要な資源を明らかにし、コアコンピタンスを定める
 ゲーム:競争と協調に着目する
 リーダー企業は、イノベーションを模倣します。文具通販のアスクルの成功は、コクヨの緩慢な対応を抜きにしては語れません。既存の強みに配慮すればするほど、新しい取り組みは遅れます。内向きの論理に囚われてなりません。敵失を見逃すべきではありません。
 未来を展望し、逆算して今何をすべきかを導き出します。
 英断と暴走を見分けることは困難です。過去の成功体験によって、多くの暴走が引き起こされます。シャープの液晶テレビがその典型例。過去の成功から抜け出るのは難しいことです。
 「現象」ではなく、その背後にある「構造」に見つめます。
 インテルは、プロセッサに集中し、占拠率を上げたから、パソコンメーカーに価格交渉力を持てる。だから“Intel Inside”キャンペーンが成功し、ブランド・イメージが高くなる。それが利益率をさらに向上させる。時間と共に各要因が相互作用し、発展する構造が重要です。
  アマゾンはサービスに焦点を定めました。物流と情報の仕組みに大きな投資を行いました。結果、利益はマイナスの状況が続きました。ビジネスモデルの確立を優先し、利益を後回しにしました。結果=利益は後からついてくるものっです。未来の成功のために必用となるものに焦点を当てなければなりません。