「ロジスティックス4.0」 小野塚征志 2019年 日経文庫
ロジスティックに関する日経文庫ですから、読まなきゃ。なんですが、ちょっと期待外れかな?それでも最近の物流の動向について簡潔にまとめてくれていて、助かります。ありがとうございました。 以下はこの本の要約と引用です。*印は、“Bard”などで検索した情報です。
《はじめに》
「省人化」と「標準化」による「物流の装置産業化」が起きつつあります。物流は無人のインフラ機構となります。
《0.ロジスティックスにおける革新の変遷》
大量・長距離輸送は、船舶に委ねられてきました。広大な大陸を制した統治者は、運河を整備しました。
蒸気機関の発明により、内陸輸送は鉄道網、海運は蒸気船に転換します。天候に左右されない輸送が可能になりました。
1950年代からは荷役の自動化。フォークリフトとパレットが普及しました。港にはコンテナとガントリークレーンが整備されます。欧米諸国のように海上コンテナと鉄道コンテナが共通化している地域では、船舶と鉄道・トレーナーを組み合わせて海陸一貫輸送が行われます。マテハン機器による倉庫内の荷役作業の自動化が始まりました。
1970年代からはシステム化が始まります。WMS(倉庫管理システム)は、在庫管理だけでなく、入庫・格納・ピッキング・検品・梱包までの作業状況や荷物のロケーションも管理するシステムになりました。TMS(輸配送管理システム)は、トラックの台数や輸配送管理(配車計画と実車率や積載率の算出)、荷物の数量と輸配送先の情報管理を行います。気象情報や渋滞情報も加味した配送ルートも計画してくれます。輸出入情報処理システムも導入されています。
《1.省人化による革新》
国内の貨物輸送の90%以上はトラック輸送が分担いています。トラック輸送の運用費の約半分はドライバーの人件費です。先進諸国では、長距離トラックのドライバー不足が深刻です。
トラックの自動運転技術は、乗用車よりも重く、かつ、荷物の積載状況に応じてブレーキングやハンドリングを変える必要があります。
*国内のトラックの隊列走行の実施状況はどうなっていますか?
国内におけるトラックの隊列走行の実施状況は、2023年現在、まだ実用化段階になっていません。2018年には、国土交通省が「自動運転トラック隊列走行技術開発プロジェクト」を立ち上げ、2019年には、トヨタ自動車、日野自動車、いすゞ自動車、デンソー、ソフトバンク、NTTドコモの6社が共同で、高速道路での実証実験を行いました。実験では、最大4台のトラックが隊列走行を行い、安全性や効率性の検証が行われました。
実験の結果、隊列走行は安全かつ効率的に実施できることが確認されました。しかし、まだいくつか課題が残っており、完全な実用化には至っていません。課題としては、隊列走行を妨げる可能性がある悪天候や渋滞への対応、隊列走行時の事故発生時の責任の所在などが挙げられます。
国土交通省は、2024年度までに隊列走行の技術開発を完了させ、2025年度に実用化を目指しています。
宅配業界でも人出不足と長時間労働が社会問題となっています。ドローンを活用した「アマゾン・プライム・エア」、自動走行配達ロボット「スターシップ・ロボット」などの試験運用が行われています。自動運航船も開発されています。
日本の海運会社が運航する外航貨物船の大半は、フィリピンなどアジア諸国の外国人船員によって支えられています。
*自動運航船はもう就航していますか?
自動運航船はすでに就航しています。2022年には、フィンランドの自動運航フェリー「Aurora Botnia」が、オウル島とヘルシンキを結ぶ航路で就航しました。このフェリーは、レーダーやカメラなどのセンサーを使用して周囲の状況を認識し、自動で航行します。また、人間の船長が乗船していますが、緊急時には介入することができます。
自動倉庫には難点があります。入出庫の場所が限定され、荷受作業が機械に委ねられているために、取扱量の大幅な増加には対応できません。荷物の大きさの変化にも対応できません。自動倉庫に適しているのは、工場に隣接する出荷センターなどです。
ECや店舗出荷用の物流センターは、パートやアルバイトを確保しやすい住宅地に配置しています。
倉庫ロボットは、自動倉庫に比べて、汎用性があります。アマゾンのキバは棚搬送型ロボット。ローカス・ボットなどの協調型ロボットは、既存の倉庫設備のままで、荷物の移動を担います。無人フォークリフトも上市され、冷凍倉庫や金属加工工場のように労働環境が苛酷な現場では投資効果があります。
三次元の画像認識の精度と速度の向上は、物流のキーイノベーションの一つです。
《2.標準化による革新》
サプライチェーンの垂直統合による標準化。関与する組織が少なく、取引関係が安定しているため、機能と情報をつなぎやすいからです。
ドイツのシーメンスやボッシュのRFIDタグによるデータ管理は、デジタル化されたジャスト・インタイムです。
花王の需要予測は、新製品であっても一週間後には既存製品並みの精度を確保っできるようになりました。
アマゾンの予想出荷システムは、在庫拠点を増やすことなく、当日配送の範囲を拡大しています。アマゾン・エコーの人工知能アレクサやアマゾン・ゴーは、消費者行動を集積し、デマンドチェーン型のプラットフォームをシステムの目指していると考えられます。
通常のアパレルの企画から販売までの期間は半年以上。プロパー消化率(定価販売率)は半分を下回ります。ザラの企画から販売までの期間は2週間。シーズン前の店頭在庫を20%以下に抑制。シーズン開始後、トレンドに即して企画し店舗に投入します。空輸による物流コストは、85%のプロパー消化率で相殺され、営業利益率15%の高収益を実現しています。ザラは購買動向を捉える様々な仕組みを導入しています。
水平統合=共同配送。朝日新聞の配達員は出前館の宅配も行っています。かつては、求貨と求車をマッチングする水屋が数千も存在していました。物流会社のトランコムは複雑な条件の電話によるマッチングサービスを提供しています。
日本と海外では、荷物の取扱や定時性に対する考え方や許認可に大きな差があります。ライドシェアサービスにように「日本だけ普及しない」可能性があります。
フォワダーは荷主に代わって手続を代行する旅行代理店のような存在。デジタルフォワダー(フレックスポートなど)もマッチングサービスを提供しています。
DHLは統合ロジスティックマネジメントシステムを開発しています。
《3.物流の装置産業化》
物流の基本オペレーションは、AIやロボットが得意とする領域です。
2000年に連結決算に移行し、物流会社の切離しが進みました。標準化が進めば、物流機能を外部化し、標準の物流管理を受け入れることのコストメリットが高まります。
日本通運と三井倉庫は、家電業界の物流子会社をグループ化しました。三菱倉庫と日立物流とスズケン(医薬品卸)は、3PL事業者として薬品物流のシェアを高めました。食品では味の素物流を核とした統合、飲料の共同物流、化学の共同物流、各業界の物流統合も進んでいます。
RFIDの実用化で世界をリードする大日本印刷は、2025年には1円のRFIDタグを実現する計画。RFIDは複数のタグを非接触で読み取れます。自動清算ができ、万引きも防止できます。段ボールの中の商品の棚卸や検品も開封する必要はありません。
画像認識システムは完全ではないもののRFIDを代替できます。アマゾン・ゴーは画像認識でレジレスを実現しています。
人の作業をそのまま機械に置き換えることは不適切です。客先の要望に対応するのではなく、特定の大きさと形状の荷物だけを扱うという発想もある筈です。
未来を「想像」してもその通りになる可能性はありません。自ら目指す未来を「創造」します。
《4.物流会社の勝ち残りの方向性》
「生き残る種は、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」チャールズ・ダーウィン。
資本集約ビジネスに転換し、プラットフォーマーとしての地位を獲得する。物流の装置産業化が進めば、定型化・定額化が進みます。特定のサービスの価値で特定領域の寡占会社になる。高品質な物流サービスを提供します。いずれにしても、サプライチェンの全体最適を実現することが軸となります。
山九は、プラント建設のコーディネイト〜保守。鴻池運輸は、製造。近鉄エクスプレスは、輸出入の商流サービスを提供して高付加価値化しています。フェデックス・サプライチェーンは、返品商品の事務代行や、売残り商品の中国での販売などを行っています。ヤマト・ロジスティックスは医療機器のメンテナンスなどの管理業務にもワンストップで対応しています。物流会社から、オペレーション・アウトサイダーに進化しています。
2016年、日立物流はSGホールディングス(佐川急便グループの持ち株会社)と資本業務提携を発表。海外では、ファンドが複数の物流会社を買収し、事業規模を拡大し、経営資源を統合して企業価値を高め、多大な売却益を得ています。
*日立物流はSGホールディングスと資本業務提携はその後どうなっていますか?
その後、両社は資本業務提携関係を継続していますが、その内容は限定的なものとなっています。具体的には、営業活動の連携や拠点・車両のシェアリングなど、協業を行う分野を限定し、それ以外の分野では各社が独自に事業を展開していく方針です。
日立物流とSGホールディングスの資本業務提携は、当初は経営統合を視野に入れていたものの、最終的には見送られることとなりました。しかし、両社は今後も協業を継続し、物流業界の競争力を高めていくことを目指しています。
《5.物流ビジネスでのビジネスの新たな事業機会》
アマゾンはAWSを利益の源泉としています。EC事業は赤字です。アマゾンの物流ネットワークも自前です。高効率な倉庫オペレーション、米国での数千台のトラック、40機の貨物機の運用。2015年から宅配業務¥アマゾンフレックス」を開始しました。EC事業の為に投資された物流ネットワークの外販は、AWS同様に、高いコスト競争力を持ちます。ジェフ・ベゾスは「アマゾンはロジスティックス・カンパニーである」と公言しています。サバ―システムと物流ネットワークによるサプライチェーン全体の統合運用。そして、アマゾン・エコーとアマゾン・ゴーなども含めた、客先と顧客の情報。データプラットフォームが構築されます。
アスクルは、マーケティングラボを通じてデータを共有しています。配車計画では日立製作所の人工知能を活用しています。物流センターではハコブやムジンのシステムを導入する、オープンプラットフォームです。
物流サービスは、効率や品質の数値化が容易なため、価値を訴求しやすいという特徴があります。
トラックメーカーは配送サービス会社に。自動運転中の事故は「運転者=メーカー」の責任になります。レンタルで提供し、返却時に整備すれば事故リスクを最小化できます。ディーラーの利益源泉であるアフターサービスを囲い込めます。傭車を「ドライバー+トラック」と捉えれば、レンタルは傭車に他なりません。傭車を利用している元請物流会社にすれば、委託先がトラックメーカーに代わるだけです。
MaaS(Mobility as a Service)時代が訪れれば、多くの人は自家用車を所有せずに自動運転タクシーを利用するでしょう。ロボットも「買うもの」ではなく「利用するもの」になるでしょう。
物流施設のデベロッパーによる、所有と利用の分離。マルチテナント型の大型物流施設が、新設物流センターの過半を占めています。
HISは、世界初のロボットホテル「変なホテル」を開設し、高収益を実現しました。
AI開発で後れをとる日本企業は、ロボット技術と結びつけたAIロボットに集中するのも一つの方向です。
《6. 未来のロジスティックス》
物流は、様々な形で情報も運んでいます。ロジスティックスは「デマンドチェーン」を支える存在です。
日本の物流会社は世界屈指の品質=個別対応力を実現していますが、コストは割高です。欧米の物流会社はオプティマイゼーション(最適化)を重視します。
《あとがき》
ヤマト運輸は50%近いシェアを有し、高い品質を持つにも拘らず、送料は他社と同水準。欧米の感覚では、値上げをしない経営陣は、あるべき意思決定を下していないと認識されています。無料の再配達も、彼らにとっては異常なものです。日本のガラパゴス物流を、世界のロジスティックス・プラットフォームの世界標準にすべきです。