「ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ」
近藤大介 2021年 講談社現代新書
面白そうだから手に取ったのですが、何のことはない、右翼っぽい扇動本でした。そう思って読めば、それなりには面白い本でしたよ。 以下はこの本の要約と引用です。
■ 米中、七つの戦争
トランプ時代の欧米分断は、中国に有利に働いてきました。バイデン政権になって中国包囲網は強まりました。
中国共産党は、2と7の年に共産党大会を開きます。中央委員が198人、候補が166人、計364人が、5中全の参加者です。
中国共産党の2013年の3つの目標。共産党創建100周年の2021年までに日本を追い越す。2035年までに一帯一路を完成し、ユーラシア大陸No1になる。2049年の建国100周年までに、米国を抜いて世界No1の国家になる、です。
習近平は常に軍歴を兼任してきました。台湾統一は、毛沢東が成しえなかった最大の事業。これを達成して、毛主席を超えることが習近平の悲願です。
ファーウェイは、中国共産党から最も遠くにある企業。国内で相手にされなかったから、海外に活路を見出してきたのです。ファーウェイの本社には自由闊達な雰囲気があります。米国のファーウェイ潰しの結果、共産党との距離が縮まりました。ファーウェイが研究しているのは、6Gや7Gの世界。6Gではスマホの機能が眼鏡に搭載され、7Gでは脳にチップを埋め込むのだそうです。
2020年、米中冷戦の中で、中国は東アジアを中心とする自由貿易協定RCEPを締結し、TPPへの参加を表明しました。
中国は2008年のリーマンショック以来、人民元の国際化を進めてきました。世界銀行やアジア開発銀行の牙城を崩せないため、2016年にアジアインフラ投資銀行(AIIB)を創設します。
中国国内で現金を持ち歩いている人はほぼ皆無。ほぼスマホ決済で済ませています。デジタル人民元に移行すれば、誰がいつどこで何を買ったの記録、全ての法人の売買の記録を、国家が把握できます。社会主義監視システムとデジタル通貨は親和性が高いのです。
2020年、デジタル人民元の試行を行いました。デジタル人民元を一帯一路に乗せて、世界に浸透させます。ライバルはSWIFTです。アリペイとウィーチャットペイのキャッシュれる決済を、中国人民銀行主導に変えます。
ファーウェイのテクノロジーを支えているのはTSMC。5ナノメートルの極小半導体の技術を持ち、3ナノ、2ナノまでの開発が予定されています。米国は、TSMCと中国の取引を禁止しました。技術に関する米中対立は、台湾のTSMCやホンハイをどちらが抑えるかという競争です。台湾人の意識が変化したのは、2019年以降の香港のデモです。
■ コロナ対応の東アジア比較
日本では、感染者数の把握は、電話とファックスを用いている実態も明らかになりました。このニュースは各国で報じられ、唖然とされたのです。
中国では、スマホのアプリ「健康コード」が導入されました。身分証番号、健康状態を入力すると、位置情報をはじめ様々なデータベースの情報と照合し、感染リスクを判断。感染リスク有と判断されたら、検査を受けねばなりません。マンションの門、コンビニやスーパー、レストラン、そして職場の入口の読み取り機にスキャンして「安全」を確認しないと中に入れません。従業員の誰かに「危険性有り」が表示されたら、事業所の全員がPCR検査を受けます。
台湾には中国大陸在住のビジネスマンが80万人。中国との往来は盛んです。中国からの生物兵器による攻撃も想定しています。新型コロナウィルスの特別条例も早期に成立し、検疫措置への違反には罰金が科されます。民進党政権下の台湾では、デジタル技術を民主を強化するために使われます。
コロナ対策の矛盾。感染防止と経済振興。個人情報の尊重と統制。東アジア各国は、個人情報の管理を優先しました。日本ではマイナンバーカードも普及しておらず、スマホ決済も進んでいない。かつ、政府の方針が曖昧。国民は平和ボケ。危機管理能力は無に等しいことを露呈してしまいました。
■ 韓国と台湾を見ると5年後の日本が分かる
韓国と台湾で起こったことは、5年から10年くらいで日本でも起こります。日本よりも規模が小さいので、様々な現象が日本より先に起こるのです。
2020年、BTSがビルボードの1位に、「パラサイト」がアカデミー賞を獲得。
韓国では大企業が政府を助成。その結果社会全体の景気が良くなるという考え方です。アベノミクスやトランプとも共通する右派の発想です。
対して、文在寅政権は、最低賃金の引き上げを公約し、前年比10%以上の最低賃金引き上げを続けました。結果は、スタグフレーション(不況下の物価上昇)でした。中小企業の倒産が相次ぎました。文大統領は公約を撤回しました。その反動で、もともと格差社会だった韓国は、超格差社会になってしまいました。
マーク・ザッカーバーグらの経営者が、ベーシック・インカムを支持するのは、「このままではサービスを買ってくれる人がいなくなる」から。消費を促すベーシック・インカムは、企業にも有益です。
シャープは深刻な「日本病」に陥り、ホンハイに買収されました。失敗しないためには、挑戦はしない方が良い。原点方式に日本では、それが出世の早道です。「最も強い部分に特化する」のは、リスク回避です。ホンハイ傘下のシャープは、2020年には高速黒字化を達成します。新社長は、トップダウン経営を断行。社長室は大部屋の一角。住むのは社員寮です。
世界のスマホの2020年のシェアトップ3は、ファーウェイ、サムスン、アップル。心臓部の5ナノ半導体を作れるのは、TSMCとサムスンだけです。
■ 日本は中国とどう付き合うか
インドのナレンドラ・モディ首相は、ヒンドゥ民族主義の強硬派に支えられています。中国との対抗姿勢を強めています。
東南アジアのリーダーたちは、日本を「年老いた金メダリスト」と軽蔑しています。日本には米中対立の仲立ちを期待していますが、日本はその責任を放棄しています。
東アジアでは、古代から「中国」を中心とした華夷秩序が築かれてきました。例外は、インドと日本です。習近平政権のスローガンは「中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現」です。「抗日戦争に勝利して建国した」ことが、共産党政権の正統性。国家にも義勇軍行進曲という抗日映画の主題歌を採用しています。
「憲法9条がある限り、自衛隊は尖閣諸島を防衛できない」自衛隊幹部。第二次世界大戦から一度も憲法を改正していない国は日本だけ。
多くの国が、軍事では米国に、経済では社会主義市場経済の中国に依存しています。ASEAN諸国の多くが「戦略的曖昧性」という戦略を採用しています。日韓の連携が今まで以上に必要です。