「会社がなくなる」 丹羽宇一郎 2021年 講談社現代新書
不良資産の一括処理を発表し、無配当を決断した伊藤忠商事の「あの」丹羽氏の著作です。読まなくちゃ!です。勿論、読んでよかった〜〜〜。理屈じゃなく、実体験に裏づけられた箴言は刺さります。以下はこの本の要約と引用です。
《はじめに》
日本国のあるゆる指標が国力の衰えを示しています。資本主義の変遷、米中新冷戦 … 課題は山積です。
《序章 すぐそこにある危機》
ワクチンの開発・供給も金次第。全て巨額の金が絡んできます。
景気が悪くなると自殺者が増えると、感染による死亡者の増加を同列に論じることはできません。
国際通貨基金(IMF)は、2021年の世界経済見通しで、広がる格差を問題視しています。以前から続く格差拡大が、コロナ危機で加速したことを指摘しています。
国境を越えた人と物の移動が減少し、経済活動は地球規模で縮小しました。人々の分断と偏見。様々な問題を顕在化させました。
火山噴火による寒冷化、淡水の枯渇、感染爆発 …、未知の事態に臨んで万全の備えをすることは不可能です。我々は常に不確実な危険とともに生きています。
人間が変わらなければ、社会は変わりません。
《1. SDGsの看板に騙されるな》
日本銀行が上場投資信託の買入を通じて株価を支えています。こんな馬鹿げたことをしているのは日本だけです。コロナによって職を失っている人がたくさんいるのに、株だけは上がっている。
2000年以降、配当金が増えています。利益の多くの部分が株主に回されます。配当金が増えても経済成長には何の役にも立ちません。こんな状況が20年以上続いているのです。
会社を成長させるには社員の給料を増やすことです。需要を掘り起こし、お金を回す。2018年の名目賃金上昇率は、日本だけがマイナスになっています。2019年、日本の平均年収は韓国に抜き去られました。
米国の大手企業経営者で作る最大の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)」は、2019年に「企業の目的に関する声明」を発表し、株主第一主義を見直すことを宣言しました。株主第一主義は、新自由主義を掲げたミルトン・フリードマンが提唱しました。企業の経営者は雇い主たる株主の代理人として、その利益に奉仕する責任以外には持たなくていい。以後、企業経営者の使命は、株主利益の最大化。1980年代から規制緩和と市場原理主義を特徴とする「新自由主義」は世界を席巻しています。日本では、2000年以降、社員の待遇が急速に低下しました。
BTRが指している株主は、長期間株を保有して支援している株主のことです。株売買で儲ける株主は、ここでいう株主ではありません。
会社のものは法人のものです。株主は、会社の資本の一部を所有しているだけです。会社は法人として資産を持っています。株主は、自分の持っている資産の運用を経営者に託しています。
日本で最初の株式会社は、渋沢栄一が1873年に設立した第一国立銀行(現みずほ銀行)です。
フリードマンが新自由主義を宣言した1970年当時、米国社会は中間層が台頭し、社会と企業の利益が一致していました。
2016年、18~29歳の米国人の51%が「資本主義を支持しない」と答えました。2019年、18~34歳の米国人の52%が、「社会主義は好ましい」と回答しました。株高によって富裕層の資産が増え、格差は拡大しています。経済格差が深刻化し、反資本主義が噴き出しています。
行き過ぎた経済活動の反省から、様々な目標が掲げられています。その多くはお題目だけです。
《2. GAFAも長くは続かない》
スマホの上位は、iPoneのアップル、ギャラクシーのサムスン電子、中国のシャオミ・OPPO・ファーウェイ。自動車販売台数は、トヨタ、フォルクスワーゲン、ルノー・日産・三菱、GM、現代自動車、上海汽車。
ギグ・エコノミーは、インターネットで短期で仕事を請け負う労働環境です。国境を越えて展開します。
日本はメンバーシップ型雇用ですが、欧米ではジョブ型雇用が一般的です。スキルや成果で給与が変わり、評価が明確です。ジョブ型雇用では、仕事に対して人を割り当てます。
非正規社員の社員の増加は、やがて教育格差をもたらして、経済格差をさらに拡大させ、社会の分断が深刻になります。
《3. いつまで上座・下座に拘っているのか》
進化論や地球が丸いことを否定する福音派が、共和党の支持母体として大きな影響を持っています。日本でも根柢は何も変わっていません。上下関係や前例を優先するタテ型社会の弊害はそのままです。
協調主義を旨とするタテ型社会の長所は、内部の意思統一が図られやすく、動員力が高いこと。チーム経営が日本企業の強みです。DXを進めても日本のタテ型社会を変えることはできません。
人間を変えない限り、組織の構造は変わらない。権限と責任の曖昧さは、様々な改革努力にも拘らず成果は得られませんでした。
《4. アメリカと中国、覇権国はどっち》
中国が2028年にも名目GDPで米国を超えると予測する専門家もいます。2020年に、自然科学分野の論文数で、中国が世界一になりました。中国の人口は2028年の14億4千万人をピークに減少に転じます。
トランプ時代のフェイクニュース。嘘でも感情に訴えることで世の中は動きます。白人至上主義は、白人貧困層の焦燥感を拾い上げましした。トランプ支持者の20%以上が、奴隷解放は間違いだったと答えています。一方、左翼過激派は、奴隷所有者だったワシントンやジェファーソンの銅像を引き倒しました。米国の民主主義は左右の双方から攻撃されています。貧富の格差による分断と人種差別による分断は、米国の発展を阻害します。
中国の夢とは、漢民族の夢です。56もの民族からなる中国を漢民族の下に統一し、併合することです。中国の同化政策は、中国が長い歴史の中で身に着けた少数民族の統治方法です。漢民族に溶け込むウィグル族は多く、モンゴル族のように漢民族との融合を進めていくでしょう。欧米と同じような民主主義体制では、14憶の民を統治することはできません。
電子商取引のアリババのような中国政府の意向に必ずしも従わない民間企業が力を増してきています。2021年には、土泉禁止法違反で182憶元の行政制裁金をアリババに科し、時価総額が急落しました。
一人当たりのGDPが1万ドルに近づいたとき、韓国や台湾では政治改革がもたらされました。民意を反映しない政治体制は、いずれ改革を余儀なくされます。
中国の34の行政区は、同じ国とは思えないほど、文化や風土や環境が異なります。異文化衝突など様々な危険を分散させながら、中央が一定の支配をするためには、連邦制が適していると思われます。権力を分散すれば、それだけ集権を強めないといけません。
米国にはドルという世界最強の基軸通貨があります。中国はドルの呪縛から逃れようとしています。国際ルールをひっくり返す国は、世界から信頼を得ることはできません。
戦争に近づかないという日本の国是の後ろ盾は、言うまでもなく平和憲法です。
《終章 中小企業が世界を翔ける》
日本のGDPが世界全体に占める割合は、1995年の18%から2020年の6%に急落しました。世界競争力センター(IMD)の2020年版では、世界主要63ヵ国の中で日本は34位。平均賃金の下落も止まりません。
日本の科学技術の凋落は目を覆うものがあります。教育の公的支出のGDPに占める割合は2.86%。世界の最低水準です。日本は未来に投資していません。
信なくして国立たず。信用される人になることが最も大切なことです。
《おわりに》
オスヴァルト・シュペングラーは、デモクラシーは終わると予言しました。デモクラシーが失われても人は生きていけます。人自体は変わらないからです。