「経営戦略」 奥村昭博 1989年 日経文庫
インクリメンタリズム(incrementalism:漸進主義)に基づく経営戦略の入門書。古い本ですが、版を重ねて「古典」となっているテキストです。大学の講義の基礎資料にする目的で読みました。当たり!です。ありがとうございました (^O^)。
以下はこの本の要約と引用です。*印は私の所見です。
《序 経営戦略とは》
かつての日本国は、規模拡大の時代でした。日本企業の意思決定はボトムアップの性格が強く、経営は現場主義・行動主義で、TQCがそのまま経営戦略となっていました。
《1. 経営戦略論の課題》
欧米の経営戦略は、代替案を列挙し、最も費用対効果の高い代替案を選択する、経済合理性に基づくものでした。分析型の戦略論は、1)環境が分析可能(環境が安定している=不確実性が低い)、2)社員が計画通りに動く、3)代替案が列挙でき、成果予測が決定できる、を前提しています。意思決定は組織化され手順化しました。
不確実性な環境下では、1)ラフなシナリオを描き、その上で、2)行動の結果から計画を具体化します(プロセス戦略意思決定)。日本企業も「行動を通じた学習」を行ってきました。
*戦略シナリオは、分岐点と判断基準の設定による意思決定の筋道を想定したものです。シナリオを描いた上で、経営者は何時-誰が-何を決めるのかを決めます。
《2. 経営戦略の本質》
事業戦略×機能別(マーケティング/財務/人事/開発/情報)戦略×資源戦略
事業展望(ビジョン)に基いて、[何をなすべきか-何がが出来るか]を考え、そのギャップを埋める方法を考えます。展望を実現するには創造が要求されます。展望無き経営は現状肯定=停滞します。事業には揺るがぬ理念が必要です。
*理念無き事業には存在理由(レーゾンデートル)がありません。
《3. 分析型経営戦略論》
経験曲線とPPMモデルから、市場占拠率優先の高品質・低価格戦略が導かれます。PIMSは、市場占拠率と投資収益性(ROI)の関係を実証しました。
GEはマッキンゼーのPPMを導入し、SBU(事業単位)を導入しました。しかし、成熟市場は革新によって変動します。結果として、収穫戦略により競争力を失いました。
経済合理性に基づく経営戦略はリスク最小のものとなります。問題の立て方によって解は変わります。
《4. 戦略と組織の相互浸透》
事業展望の合意を組織に取り込み、組織を戦略に従うものとします。組織は知の創造・運用・蓄積の場です(学習する組織)。経営戦略は、知識の蓄積の結果でもあります。過去の成功体験が教条となり、意思決定が硬直します。
「蟻の軌跡」は乱歩(ランダムウォーク)しているように見えますが、結局は目標地点に到着します。蟻は鳥ではありません(認知限界)。蟻は地図は持っていませんが、方向(戦略)は知っています。具体-無知の状況では、意思決定を道標毎に行い満足解(≠最適解)に到達します。漸進-意思決定(プロセス型戦略形成)は、「場当たり」ではありません。
HOYAは、光学ガラス → クリスタル・ガラス → 眼鏡用レンズ(トップシェア)→ 半導体フォトマスク基板(16kビット以上のサブストレートでシェア60%)と、事業分野を拡大。鈴木社長の方針は「競争相手が弱く、トップシェアを獲得できる分野に進出する」でした。
《5. プロセス型戦略論》
現場の情報(提案)を取り込んで、事業理念を具体化する過程。事業展望を目指した行動が情報をもたらします。現場の合意無き戦略は現実性がありません。現場の失敗によって知識を得ます。失敗の隠蔽は経営組織を沈滞させます。
*事業領域(ドメイン)の宣言により、「何をするか」「何をしないか」を明確にします。
緊急時対応計画は、事業の活動と予算を柔軟にします。
*コンティジェンシー・プラン(緊急時対応計画)は、緊急事態への対応。事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)は、事業理念を貫き続けられる戦略筋道の設計。
闇研(非公式研究開発)ではなく、創発を促す社内起業(ベンチャー)などの仕組みが必要です。
組織は知識(衆智)を、1)ルール・制度・手続き、2)行動様式(経験の制度化)、として蓄積します。一方で、前提条件が変化してしまった知識を棄却します。
環境を自ら創造する積極対応により、環境変化=不確実性を超えます(エナクトメント)。プロセス型戦略は、イノベーション創発(ブレークスルー)を狙うものです。事業展望に向かって、人々が理念に関与し、具体の創発を繰り返します。