先日、ドラッグストアを回って店頭観察しました。

円安の影響で原価高になり、簡単に安売りができなくなりました。これまで、エンドや島陳などの特売で売りを稼いできたメーカーは、売上の確保が難しくなっています。そこで「商品の価値を高める」コミュニケーションを目指しますが、日本ではそのノウハウを持っているメーカーは少なく、一朝一夕にどうなるものでもありません。


高付加価値のマーケティングを得意としている生禿は、経験で断言できることがあります。それは、付加価値を目指すなら、まず原価優位性を確保しなければならない、ということです。その理由は2つあります。

1)価値に対する価格がお買い得でなければならない

高付加価値な商品は、絶対価格は高価格になります。その高い価格を受容させるのは、価値に対して低価格でなければなりません。ですから、高付加価値商品であるほど原価企画は、低価格商品とは異なった次元で、厳しくなるのです。原価企画により、競合に対して原価優位性を持たない企業は高付加価値商品を生み出すことはできません。

2)価格も原価も高いのでは身動きがとれない

価格も高い、原価も高いというのでは、マーケティング展開の幅が無くなります。高付加価値商品は、低価格商品のような「力づく」の展開ではなく、感性に溢れたコミュニケーションで柔軟に訴求しなければなりません。なので、原価も価格も高いのでは、多くの施策を赤字覚悟で実行することになり、やがて行き詰まってしまいます。

「原価高だから実勢価格を上げたい」そのために「商品の価値を訴求して、高くても売れるようにしたい」という企業は、倒産の危機が心配されます。「商品イメージを高めて、高級感を演出すれば高く売れます」という詐欺を働く広告代理店のカモにされ、倒産の時期を早める可能性もあります。日本の広告代理店で高付加価値のマーケティング筋道に習熟する代理店を生禿は知りません。勿論、電通や博報堂は論外です。

高付加価値なマーケティングには、原価企画、商品企画、製品開発、物流設計、販路開発、コミュニケーション設計、全てのマーケティング要素を統合する長期事業計画が基盤になります。その高付加価値な基盤を構築できない企業が、目先の高付加価値を目指せば、倒産時機を早めることになります。


さて、円安下の流通、特に小売店舗も混乱しています。先日、主要なドラッグストアを視察して感じたのは、売場の状況はさらに悪化しているということです。

1)扱う製品領域を増やして、売場を混乱させ、お客様を困らせている

商品と価格での顧客吸引力を失った店舗が、買上点数を増やす手段として、扱い製品領域の拡大を行っています。マイバスケットのような、広い製品分類と絞り込んだSKUを持つ利便性の高いスーパーレット(あるいは、100円ローソンのような大きめのコンビニエンス・ストア)が、買物時間が縮小し買物難民化した人々から支持されています。この好調を見て、ドラッグストアが食品や百均の扱いを増やしています。ですが、食品の品揃えはグロッサリーとせいぜい冷凍食品で、お客様が欲しい生鮮食品はありません。ワンストップ・ショッピングとは程遠く、「だったらコンビニエンス・ストアで間に合う」という店舗になってしまいます。

扱う製品領域を増やしたのに、品揃えが絞れていないので、店舗は商品の売場ではなく、乱雑な物置になっています。しかも、新しい製品領域についての知識やノウハウは不足しています。狭い店舗面積の中で、商品が未整理ですから、売場が混乱するのは当然です。さらに、特定の製品領域に割り当てられている面積は狭くなりますから、商品SKUを絞り込まなければならないのに、SKU数は絞り込まれていません。狭い陳列スペースに、商品を詰め込んだだけ。これでは、お客様が商品を探せない、選べない、買えない売場になってしまいます。日本では、補充発注や商品陳列が専門技能と考えられていないために、最低限の品揃えや陳列の知識と技能さえ確保されないことが少なくありません。

女性の就業率の上昇などによって、お客様の買物の時間帯は限られ、お買物に費やされる時間も減少しています。これに対応する店舗は、多くの領域の商品をまとめて、探し易く-選び易く提示するCVSやスーパーレットになるのは当然です。しかし、そのノウハウを持たないドラッグストアなどが、その真似事をしても、売場構成-商品陳列が崩壊し、何も買えない店舗になるのは必至です。

お客様の滞在時間は増えても、それは欲しいものが見つからなくて困っている時間が増えているだけです。滞在時間が増えて、困り果て疲れ果てたお客様の買上点数は減る。店舗が赤字を垂れ流して消えていく。お客様は、コンビニエンスストアで買えないものは、遠くの店舗まで出掛けなければ買えない。だから、ネットショップでの買物が増える。この悪循環は留まるところを知りません。

日本のドラッグストアの多くが、末期状態に陥っています。店舗運用能力の高い流通グループへの吸収合併がさらに進行することは避けられません。

2)人件費削減による店頭作業工数の不足

スーパーでもドラッグストアでも、売場が荒れています。商品が補充されていない、フェイシングができていない陳列棚を見ることが増えました。それ以前の問題として、商品構成が出鱈目で、「開いているところに突っ込みました」式の陳列すら見掛ることがあります。

売れている店舗は、売場面積当たりの人件費が高い傾向があります。勿論、一人当りの販売額はそれだけ大きく、売上に占める人件費の割合は、逆に低くなります。儲けは元にあり。投入無くして算出無し。こんな当たり前のことも、小売業者は忘れてしまっています。

人件費の削減は、商品チェックや商品補充、フェイシングなどの店頭作業工数の低下をもたらしています。埃を被った期限切れの商品が並んでいる。閉店後に野菜を冷蔵庫に収納する工数が無くて、売場に置きっぱなしにし、芯が腐ったキャベツを平気で売る。そんな店が生禿の周囲にも増えています。

手が足りなくてどうしようも無くなると、アルバイトなどを雇いますが、知識も経験も不足した臨時雇いの作業で埋め合わせることなどできません。ますます、売場は荒れていきます。

収益を上げて伸びている小売は、品揃えを絞込み、六次産業を標榜する企業があるように、原材料仕入-加工-物流の全ての段階で、徹底した業務の合理性を追求しています。その中で設計された店頭作業は高効率です。その効率は「仕組み」で達成されています。無策な小売企業が、現場の「頑張り」で達成できる次元のものではありません。


現在の日本は、生産企業も流通企業も円安=原価高で苦しんでいます。過去の日本は円高を乗り越えることができました。であれば現在の円安も乗り越えることができるでしょうか。その答えは“ノー”です。円高は原価圧縮、経費削減で乗り越えることができます。ですが、円安は、原価をどうにかする範囲の戦略で乗り越えることはできないからです。ヨーロッパの企業は、付加価値向上の戦略に長けていますが、日本の企業はその種の戦略性を持たないのです。

ですが、生禿はマーケッターです。関わった企業については、[価値を作り-価値を運び-価値を売る]=[価値の完結]のお手伝いをし、それを実現しなければなりません。

やり方は?簡単です。日本のメーカーは「在庫を生産する」だけで、「売る物を売る時に売る場所を目指して作る」ことができません。理屈ではなく体質として、できないのです。売りを完結する現場のイメージが無い人間に、売るための物は作れません。ですから、数年間は工場の生産指示の権限をお預かりします。

次に、営業や広告、販促を含むコミュニケーションです。日本には、広告賞を取るなどの「伝える技術」に優れた企業が少なくありません。ですが、お客様に「伝わるとはどういうことか」を知り、「伝わる」コミュニケーション能力を持った企業は数えるほどしかありません。お客様の買と使いの現場を生きていない人間には、「伝わる」ということが肌で感じとれせん。ですから、数年間は、少なくとも販売に関するコミュニケーションの計画-実施をお任せ頂きます。具体策として、生禿が販売会社となって、販売活動の全てを統括することもあります。

こうして、生産と販売の統合計画を立案し、[価値を作り-価値を運び-価値を売る]体制と仕組を作っていきます。作り上げた体制と仕組は、客先に「納品」することになります。そして、多くの場合、生禿の配下の人間が数千万のヘッドハンティング料を頂いて、客先に移籍することになります。

生禿には目標があります。事業の仕組を開発した結果としての、配下のスタッフのヘッドハンティング料の最高金額は2千5百万円でした。それを超える3千万円のヘッドハンティングを実現したいのです。価値を作り価値を売る。その水準のが高ければ、客先にとっては、それを手にいれる対価が高くなります。それが、生禿がより高い価値の仕事をしたということです。

自己ベストの更新。生涯現役を決めた以上、過去の自分を超える。その高みを目指すのは当然です。