「ソーシャルメディア・マーケティング」 水越康介 2018年 日経文庫
SNSなどのソーシャルメディア用いたマーケティングについての本。よくまとまっていて講義の参考になります。有難うございました。
以下にこの本を読んで「思い出した」ことを、書き残しておきます。
私は、学生時代に「マーケットCO-OP」という概念を提唱しました。それは、現在の生活者との共創や協働に近い概念でした。大学院の指導教員だった小林太三郎氏は「空想的」と一刀両断にされました。大学院時代の学友は「理解できない」というところだったでしょうか。時代を先駆けすぎた考えだったようです。
しかし現在の私は、「マーケットCO-OP」という概念をほぼ放棄しています。生産者と消費者が協働する。発注者と受注者の対話によって生産-消費が行われる。それは、マーケットの否定なのではないでしょうか?
私が、約半世紀前に「マーケットCO-OP」を提唱した背景には、社会学のマックス・ウェーバーの指摘「生産と消費の分離=分業によって全人格性が喪失している」が原点でした。消費の場から離れた生産は分別を失う。生産の場から離れた消費は節度を失う。まさに、アダム・スミスが主張するように「市場は倫理によって支えられている」のです。大衆消費社会は、全人格性と倫理観の危機を孕んでいます。
その危険を乗り越えるために、生産者と消費者を出会わせ、究極では人工知能と通信網によって、受注生産体制への回帰を模索したのです。それは、私が目指した「地球上の全ての人々が王様の生活をする」という目標にも合致したものでした。
なのですが、人間が格差を嗜好する存在であること。直接の出会いは、支配関係を生み出す傾向があること、人類学の知見によって気づかされました。受注生産は太古の昔から存在します。共創だの協働だのと言っているマーケティング学者は、考えが浅いのでそこまで思い当たってはいませんが。
互いに力の及ばない(脅したり騙したりできない)ところで、社会経済の厚生を実現する仕組みが「市場」です。これは、人間が生産者であることを前提にしています。人工知能とロボットが生産するとしたら、倫理を保証する仕組みとしての「市場」は不必要になります。勿論、マーケティングも無用になります。
実際に「地球上の全ての人々が王様に生活をする」ことが可能かどうかは不明です。ですが、技術の問題としては、その可能性はあると信じています。私は現在もそこに向かって歩んで行きます。
もう一つ思い出したことがあります。それは、「ブランド」と「のれん」の違いです。私の定義によれば、「ブランドとは、その銘柄を所有する企業が消滅しても社会に存続するもの」のみを指します。企業とは独立して、社会価値として共有された失体と象徴がブランドなのです。私自身の経験としては、仕事として関わった、倒産してから「博多明太子」という「暖簾」を作り、その代表銘柄として確立した「ふくや明太子」。ユーザーとしてその行くすえを見つめた「コカのストロボ」は、倒産後のメンテナンスを望むユーザーの声によって、日立コンデンサーがコカを引き継ぎ、ヒタコンのストロボとして製品を供給保守し続けました。もう一つは海外のものですが、「タンノイの同軸スピーカー」です(今も我が家にあります)。タンノイ公爵の残した設計図にオーディオマニアたちは惚れ込み、その発売を心待ちにしていましたが、開発費が嵩んで倒産。惜しんだ人々が資金を出し合ってタンノイを救済し、遂に完成したのがタンノイ=ダブルコキュアルです。
かつて、日韓共催のワールドカップ。代々木で行われたナイキのイベントに、殆どの中学-高校-大学-社会人のサッカーアスリートが集結しました。これを見て、ナイキの担当者が「もうナイキは、ナイキの自由になるブランドではなくなった」「ナイキはブランドとしての道を歩み始めた」と言ったのを覚えています。
欧米では製品のブランドが社会価値として残ります。ですが、日本では「博多明太子」のように「明太子作りの技能を伝承したもの」として「暖簾」がまず作られ、その頂点=家元/元祖≒象徴として「ふくや」が存在します。そしてこの「暖簾」は所有権は発生せず、技能を継承した証として店舗などに掲げられます。現在の日本でも「カンバン方式」は「暖簾」であり、トヨタが所有する知財ではありません。この違いを認識しないと、ブランド論は、空虚なものとなりおます。
以下はこの本の要約と引用です。*印は私の見解です。
《まえがき》
ソーシャルメディアとは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画サイトやウィキペディアやカスタマーレビューや口コミサイトなど、インターネット上でインタラクションする場です。
《1. ソーシャルメディア・マーケティングとは何か》
今日のインターネット上のサービスは、スマホでアクセスすることを前提に構築されています。最近の学生は、スマホの画面で教科書を読みます。レポートもスマホで作成します。家にテレビがないという学生も少なくありません。
ソーシャルメディア・マーケティングは、1)顧客を知り、2)顧客に伝え、3)顧客と繋がり、4)顧客と共に価値を創る、一連の過程です。企業のHPはソーシャルメディアには含みません。
スナップチャットは、共有した写真や動画がある期間だけ表示されるSNS。消えてしまうことを前提にして、これまで送りにくかったものを共有する楽しさが支持されています。すトリーズは、インスタグラムのスナップチャット。また、フェイスブックとインスタグラムは同じ会社です。
UGC:ユーザーが投稿したコンテンツ。ヤマハが開発した音声合成技術VOCALOIDは、クリプトン・フューチャー・メディア社による初音ミクが歌う動画を配信するユーザーを生み出しました。
ブランドの価値は、企業の自由になるものではありません。顧客に支持された銘柄は、企業の手から離れていきます。ブランドは、顧客とともに作り上げられていきます。
《2. 計画し実行する》
・STPと4P
セグメンテーション:どのような顧客とニーズが存在しているか
ターゲティング:誰を主要な顧客とするか
ポジショニング:どのような価値を提供するか
マーケティング・ミックス:価値の提供のし方を組み立てる
・フェイスブック
個人名を明らかにして、真面目な会話を行う 年齢層は高い
カスタマージャーニーに沿って、複数のメディアとアカウントを配置します。フォロワーが多くても、購買顧客とズレていたら失敗です。製品開発に参加するユーザーは、開発に参加したいだけで、彼ら自身は購買しません。
・ターゲティング
1)ソーシャルメディア上では、ヴァーチャル・アイデンティティを作り出している人々もいます。ヴァーチャル・アイデンティティは、ネット上での購買に結びついています。
2)スマホを使っている人は、位置情報を利用でき可能性があります。
3)行動履歴を利用でき、レコメンデーションなどが可能です。
・ソーシャル・メディアの分類
ソーシャルグラフは、人々の繋がりを前提にしています。
インタレストグラフは、特定の関心に基づいて集まります。
フェイスブックはソーシャルグラフ、ツイッターはインタレストグラフが強いと言われます。
フェイスブックやツイッターで、企業アカウントやブランドアカウントから情報をすれば、それらのアカウントには独自のパーソナリティが形成されます。
ソーシャルメディアの運用を丸投するようでは、ソーシャルメディアを利用する意味がありません。顧客と自社が繋がることが難しくなるからです。直接に顧客と繋がる必要が無いのであれば、既存メディアの方が有用です。
デジタル・マーケティングでは、[計画-実行-評価]のプロセスよりも[実行-評価-改善]する方が重要です。
顧客との相互作用(インタラクション)は、終わりの無い継続活動です。ソーシャルメディアの担当者は、運用のし方と提供する情報について話し合い共有します。既存メディアと連携し、開発部門からの情報も提供されます。顧客との相互作用の「質の担保」は、AIを利用することで可能性が引き出せます。
《3. 顧客を知る》
ソーシャル・メディアには、個人に関する情報が存在します。友人・知人関係や行動履歴を捉えることができます。
ソーシャル・メディア上のコミュニケーションは、私たちの日常がそうであるように、最初から嘘も真もありません。
ソーシャル・メディア・リスニング=ソーシャルメディアの観察は、明確な答えを持たない顧客に対する調査方法の一つです。ソーシャルメディアでは、商品を選んだり使用する場面は殆ど見えません。
リスニングは、キーワードを見つけ出し、キーワードの使われ方を分析します。モニタリングは、短時間の観察と、兆候を掴むための恒常的な監視があります。自社に関する投稿を検知し、必要が投稿者に接触します。
エスノグラフィー(民族誌)のソーシャルメディアへの適用。1)調査目的に適合するサイトを特定する、2)コミュニティの特性を学ぶ、3)データをダウンロードし、分析する。誰々がどのような会話をしているかを分類し、傾向を把握します。分析の結果を、コミュニティのメンバーに開示し、その内容について話し合い、分析を深めていきます。
センチメンタル分析(ネガポジ分析)。テキストマイニング手法で自動抽出します。数は少ないですが、ネガティブな投稿は目につきやすく、影響力も強くなります。炎上に参加する人は、ネットワークユーザーの0.5%だそぅです。数よりも攻撃する人間の粘着的な性格な性格が問題です。
リツイートされた投稿の内容や属性を調べて、どのような要因がリツイートの要因なのかを考えることができます。
ソーシャル・メディア上では、投稿された意見が主流であるかのように受け止められます。ネットと対面では、人々が話す内容も異なります。
《4. 顧客に伝える》
オピニオンリーダーと呼ばれる人は、その分野の情報源へのよく接触していて情報通であるだけでなく、社交的で活動的で革新的で自信に満ちています。
ネットワーク分析では、たくさんの人に繋がっていることを次数中心性と呼びます。集団間の繋がりを示すのは媒介中心性です。特定のノードを省いた場合に、無くなる繋がりの数で表されます。新しい情報を得るという点では、媒介中心性の方が有用です。次数中心性と媒介中心性の高い人が両方いてはじめて、より多くの人に伝わります。
情報が伝わるためには、その情報に意味や価値を見出す人々が必要です。ネット上の情報伝達は、制御不能です。
アマゾンのレビューでは。投稿者のアイデンティティに関する記述を含む投稿の方が高く評価され、購買行動にも影響を与えます。また、レビューの数が多いほど影響が強くなります。評価得点については、その影響は明確になっていません。
ネガティブな情報は、信憑性が高いと受け取られる傾向があります。LLビーンズでは、ネガティブなレビューが6つ投稿されると、1)価格を変更する、2)在庫をチャリティで配る、3)廃棄する、の3つの対応のいずれかを行います。顧客(とのネット上での相互作用)を大切にするのならば、顧客の表明(書き込まれたレビュー)に対応しなければなりません。
《5. 顧客と繋がる》
インタレストグラフ中心のコミュニティの場合は、その興味の中にブランドが入り込めれば、ブランドに関するコミュニケーションが生まれます。ソーシャルグラフの繋がりにブランドが入り込むことは容易ではありません。
ブランド・コミュニティ構築の試みは、多くの場合、成功しません。コミュニティは、そこにいる人々のためにあり、自社のために存在するツールではありません。主体は顧客であり、企業は協力するだけです(社員が参加していても)。ホンダに対するハーレー、ウィンドウズに対するマックのように、対抗意識と同類意識は高められます。そこでは、伝統と儀式が生まれ行われます。
複数の企業アカウントをフォローしている人も少なくありません。商品領域に対する関心が強い人は、特定の企業が囲い込むことは困難です。
伊藤ハムの「ハム課長」は、ソーセージの調理法やハムの食べ方などを中心に紹介しています。
スターバックスやナイキに対しては、爪に批判コメントが投稿されていました。企業アカウントはその都度コメントを返していました。批判が無くなるということはありません。
《6. 顧客と創る》
製品開発に興味を持っていたとしても、特定の企業のために何かをしたいわけではありません。彼らは社員ではないのです。彼らは顧客であることを忘れてはいけません。
ユーザーの声を集め開発に活かす仕組み。ユーザーの声を元に開発されたことを示す方法、が必要です。ユーザー発の表示は、売上を高めます。
動画中心のサイトはブランドを通じた自己表現の傾向が強くなります。旅行会社が、インスタグラムに投稿された写真を用いることで効果を高めています。投稿者は採用してもらったことを嬉しいと思うかもしれません。ハッシュタグをつけて投稿してもらうことで、投稿をシェアし易くなります。シェアが了解された投稿だけを集めることができます。
《7. 成果を測る》
成果を評価するためには、目標が明確でなければなりません。
[購買行動率=購買数/認知数][銘柄推奨率=推薦数/認知数]
企業のアカウントの認知は、企業ロイヤリティとは相関がありません。キャンペーンを通じてアカウント数を増やしても意味はありません。閲覧回数が増えないと成果は出ません。
馴染みのある銘柄では、フレンドリーな投稿の方が信用を高める傾向があります。馴染みのない銘柄では、形式ばった投稿の方が信用を高めます。
ソーシャル・メディアでは、フォロワー数、ツイート数、いいね数、クリック数が定番の指標となります。エンゲージメントは、ブランドとの絆のこと。エンゲージメントは、ユーザーからのリアクションの程度で捉えます。投稿の内容を分析することでブランドに対する評価を捉えます。ブランドを口コミしたり、推奨しているかでエンゲージメントの程度を捉えます。コンテンツが面白いという評価は、ブランドの評価には直結しません。
アマゾンはA/Bテストを得意としています。結果は、クリックされたされなかったの理由まで考えなければなりません。AIが出した解答が妥当かどうかを確認するとともに、どうしてその結果になったのかを考え、共有して、新しい価値を見つけます。