「在庫管理の実際」 平野裕之 1991年 日経文庫

版を重ねる日経文庫の一冊です。やっぱり、日経文庫は信頼できます。基礎知識をキチンと教えてくれる。知識の抜け漏れを埋めてくれる、とても有り難い存在です。しかも、電車の行き帰りでも手軽に読めて、本当に助かります。

最近は、最新の知識より基礎を学び直すことに心がけています。このような時代だからこそ、基礎をキチンと身につけていることを、何度でも確認するべきです。浮かれて頑張れば結果が出る時代ではないのですから。

さて、著者は工場内「マテハン」臭のプンプンするプロです。工場しか見えていないなど、視野が狭いのでは?と思われる部分もありますが、一筋縄ではいかない物流業務ですから、これぐらいでないと説得力はありません。


《まえがき》

本書は、『在庫』を、[仕入 − 生産 − 販売]の流れの問題に対処した結果として、その問題を覆い隠す形で出現する、という立場をとります。そして、在庫に頼れば頼るほど真の問題が解決されず、弱い体質になっていくとして、『在庫ゼロ』を目指すことを薦めています。

《1.在庫管理とは》

在庫の問題点〜どのような時に在庫が発生するのかについて、著者は以下のような要因を列挙しています。
・顧客の要求納期についていけない
 組立品や半組立品で在庫し、注文を受けたら払い出して製品にする
・顧客の注文変更についていけない
・不良が発生する
 不良が出ても後工程へ迷惑をかけないための在庫
・設備故障が頻発する
 設備故障が発生しても欠品しないようにための在庫
・設備レイアウトが悪い / 大型設備に依存している
 運搬/運送するために在庫が溜まる
・前工程と後工程のバランスが悪い
・段取り替えの負荷が大きい
・納期が厳守されない
 外注や納入業者の納期遅れによる欠品を防ぐ

生禿が見落としていたのは以下の「適正在庫を求める式」です。考えてみれば「白い白馬に跨った」式です。確かにコレでは、何が「適正」なのかは不明ですね。

適正在庫=年間売上高 / 商品回転率

著者は、本来の適正在庫は「ゼロ」であり、在庫が「何故、発生しているのか?」を見つめて改善を続けることを、訴え続けます。「仕掛品を取り除けば、生産のまずさが見えてきます。だから在庫をゼロにするのです。そして、噴出した問題を解決していきます」。「在庫が無ければ、在庫管理もなくなります。『最も優れた管理は、管理をしないこと』です」。

《2.すでにある在庫を管理する》

「購買と製造の波間、製造の工程の隙間、生産と販売の谷間に、在庫は溜まります」。仕掛在庫の回転を上げるには、「製造部門を、押し込み型から(売れたら造る)引取り型に切り替える」「ロット生産を流れ生産に切り替える」「構成部品の生産を同期させる」などを提案しています。

《3.統計的在庫管理手法の実際》

「過去の実績を基に標準を設定する」のが、統計的在庫管理で、「生産計画を基に部品展開をして所要量を計算する」のが、部品展開手法だとしています。

定量発注方式は、「発注点と発注量を決めておけばよいので、管理の手間も費用もあまりかかりません」。「需要変動が激しく変化する品目には耐えられません」が、かんばん方式などによって「自動発注システムにすることが可能です」。

定期発注方式では、発注量は以下の式で算出されます。
発注量 = (発注サイクル+リードタイム)の予定消費量

但し、「長期の需要予測や生産計画を基にした発注方式は、時代にそぐわないと言えます
」。

また、安全在庫量は、「過去数ヶ月の中で、需要の推定値と実績値の差が最も大きな値」を採ります。

《5.段階的在庫管理の進め方》

「帳簿在庫と実在庫が一致するという企業は、よほど管理体制がしっかりしているか、それとも、辻褄あわせがうまい企業のどちらかで、大方の企業は後者です」。なるほど!と言う指摘ですね。

在庫が合わない要因は、「入出庫や移動のルール化が明確でなかったり、ルールを守るための社内体制が整っていない」などが考えられます。

著者は、体制を整えながら在庫管理の精度を上げていく手順を紹介しています。

手順1 工場を物流拠点(資材倉庫)と考える
 〜 入りと出を把握することから始めます

工場の仕入れと出荷だけで在庫を管理します
経理上の伝票だけで在庫がつかめます
 − 入庫伝票=仕入伝票(納品伝票)と、出庫伝票=売上伝票
工場内の物の動きは考慮しません
 − 在庫数には、仕掛っている部品も含まれます
製品構成台帳によって、製品が資材や部品に展開され引き落とします
構成台帳の留意点
 − 単位変換に注意
 − 歩留りを考慮して引き落とします
  歩留り率(=1−ロス率)を登録します

手順2 資材倉庫と製品倉庫に分ける
 〜 資材の補充や受注への引合に対応する基礎ができ上がります

受注・引合時に製品在庫の有無を即答し、引き当てることができます

入庫情報
 資材:仕入伝票
 製品:完成伝票(完成報告書、製造報告書、生産日報、作業日報)
出庫伝票
 資材:完成伝票
 製品:出荷伝票(売上伝票)

仕入返品、検収不良を考慮します
サービス部品の出荷も製造して扱います

サービス部品や半製品に対して、出荷伝票から資材倉庫の引き落としを行います

手順3 仕掛在庫を資材倉庫から分離する

製造現場からデータが正確に集まらないためにこのステップを設定します
各工程ごとの仕掛を掴むのではなく、工場内の工程を一つにまとめて管理します
各工程からの伝票をあげる必要はありません

入庫情報
 資材:仕入伝票
 仕掛:出庫伝票
 製品:完成伝票
出庫伝票
 資材:出庫伝票
 仕掛:完成伝票
 製品:出荷伝票

資材倉庫から工程へ物が移動する時に、製造部門からの出庫伝票(出庫依頼表)を起票し、払い出しを行います
MRPを導入すれば、生産計画に基づき自動的に出庫指示書を出力します

資材置場を確保し、受払担当者を配置します
出庫依頼票の無いものは、出荷してはいけません
余った資材は、戻り入れ伝票を起票して入庫します

手順4 工場の外の仕掛品も管理する
 〜 仕掛在庫を社内と社外に分けて、外注先に支給されている支給品の外注先別の在庫を掴みます

外注先に対する資材の支給伝票によって入庫し、納入時の検収伝票によって引き落とします

入庫情報
 資材    :仕入伝票
 社内仕掛  :出庫伝票
 外注先別仕掛:支給伝票
 製品    :完成伝票
出庫伝票
 資材    :出庫伝票
 社内仕掛  :完成伝票
 外注先別仕掛:検収伝票
 製品    :売上伝票

有償支給の場合、経理上では売上げます(その後、完成納入品と相殺する)
在庫管理上は外注仕掛として扱います

棚卸は、無償支給の場合は、預り票を出力し、実棚数を書き込んで貰います
有償部品の場合は、外注先が支給部品を転売していないかなどをチェックし、調整します

手順5 工程別仕掛在庫の管理
 〜 工場内をいくつかの工程に分け、工程ごとの仕掛在庫を把握します

作業日報によって工程間の移動を行います
作業日報は、一品一葉の伝票形式
作業指示書が作業日報を兼ね、工程進捗管理にも利用します

入庫情報
 資材    :仕入伝票
 工程別仕掛 :出庫伝票 / 作業日報
 外注先別仕掛:支給伝票
 製品    :完成伝票
出庫伝票
 資材    :出庫伝票
 工程別仕掛 :作業日報 / 完成伝票
 外注先別仕掛:検収伝票
 製品    :売上伝票

工程移動票が機能するためには、次にどの工程に行くのかが分っている必要があります
 − 工程の順序を示した「工順マスター」
 − 工程の段取工数、加工工数、着手手番、仕掛在庫を登録した「工程マスター」

「組立工程は、必要部品を入手する時に、出荷伝票を起票して前工程に取りに行かねばなりません」「MRPが稼動していれば、出庫指示書が自動的に発行されます」。

《6.MRPの実際》

MRP(資材所要量計画)とは、資材管理の日程計画のことで、1971年、アメリカ生産・在庫管理協会の提唱により誕生します。「生産計画を基に、必要なものを、必要なときに、必要なだけ手配する」もので、「計画中心の生産管理システムです」。そして、「情報の流れとしての生産管理システムでは、MRPが中心となって展開されます」。

図:生産管理システムの機能関連
生産管理システムの機能関連

MRPの機能

手順1 部品展開
生産計画表と部品表を見比べて、生産計画表にある製品を組立品に分解します
計画品目を構成する下位品目の洗い出しと、原単位を参照して下位品目の所要量を算出します

手順2 総所要量算出
組立品、部品、原材料の必要日を基に、数量のまとめをします

手順3 正味所要量算出
部品や原材料の総所要量から発注残や在庫を割り当て(引き当て)、不足となる所要量を求めます

手順4 リードタイム計算
品目の製造予定日もしくは発注予定日を決めます
 − 品目毎に設定されているリードタイムを品目納期から差し引きます
製造予定日は、手順1の部品展開で洗い出される下位品目の納期となります

手順5 オーダー作成
品目が内作品であれば作業指示書を、購買品であれば注文書を作成します

必要な情報として、生産計画、部品表(構成部品の原単位と納期)、在庫(在高、発注残)の三つがあります

「MRPが成功するかどうかは、在庫や注算の正確な把握に半分はかかっています」。ですから「サイクルカウンティング(循環棚卸)が必要になります」。

《7.在庫ゼロ生産の実際》

「製造や購買のリードタイムの長さは、在庫の大きさに比例します」。「製品在庫量を二分の一にしたければ、リードタイムを半分にしなければなりません。このためには、出荷ロットを二分の一にして、出荷回数を倍にするのです」。

「一個ずつ完成品にする造り方を“流れ生産”と言います」。「流れ生産では、一つの工程で一加工を施したら次工程の加工をします。工程間に停滞はありません」。「流れ生産では、工程間に仕掛在庫は持ちません」。

「欠品、不良、機械故障、部品などの納期遅延、販売との調整不足。このような問題を、在庫は隠します。在庫ゼロでモノを造るということは、問題を表面化します」。「このことが、造り過ぎの無駄、手持ちの無駄、在庫の無駄の排除に繋がります」。

目で見る整理・整頓について、著者は「(整理とは、)要る物と要らない物を分けて、要らない物を捨てること」。「(整頓とは、)居る物を使い易いようにキチンと置き、誰にでも分るよう明示すること」「誰が見ても、一目で何処に、何が幾つあるか、はっきり分るように整頓します」、と述べています。

引き取り生産は、「後工程が前工程から物を引き込む(引き取り生産)」は、「後工程に主体性を持たせ、必要なものを、必要な時に、必要なだけ、引き取る」ことで、引き取る道具が「かんばん」になります。