「多様体の基礎」 松本幸夫 1988年 東京大学出版会

 理論物理学を学ぶために避けて通れないのが微分幾何学。多様体の基礎からきちんと学ぶために読んみました。この分野の入門書としては多くの人々に支持されて、30刷を数える定評のある本です。流石に解り易く、目から鱗もいくつか。ありがとう御座いました。

 なのですが、仮想の/抽象の数学上の空間は、実在しない構造です。究極の言い方をすれば、長さが無い点の集まりが面だと言われても … となりますが、そこまでいかなくても「狐につままれたような」「言われてみればそうも言えるが本当か?」というところが山積なんのです。物理は実体を扱います。数学と物理の空間は「違うもの」と言われますが、何がどう違うのか具体説明を見たことがありません。人間の知覚自体が実体の写像であり、仮想なのだから … とりあえず数学を受け入れてみよう!そう思わざるを得ません。疑問は残るのですが、とにかく前に進みましょう。深く考えるのは、それからでも遅くはないのでしょう。

以下はこの本の要約と引用です。*印は、この本の内容を理解するために調べた内容と、生禿の見解です。


《1. 準備》

 幾何学の対象は、理想化された数学的空間である。まっすぐな/曲がったm次元空間を考えることができる。そのような空間が多様体である。

 球面上に曲がった「局面座標系」を描くことができる。空間の限られた範囲に描かれた座標系を「局所座標系」と言う。多様体とは、どこにでも局所座標系が描けるような空間である。

 写像[f:U → V]が全単射で、逆写像も連続写像のなら、同相写像である。UとVは位相同形である。

 m個の複素数を並べた組の全体をm次元複素空間と呼ぶ(複素空間:C)。

 現代数学は集合の言葉で組み立てられている。空間の概念も集合論で定式化される。現代数学の空間は「位相空間」である。

*位相集合とは、集合にある種の情報=位相を付加したもの。位相とは、部分集合の内部/外部/境界/近傍などの情報。

 直積[X×Y]は、Xの点pとYの点qの対(p,q)全体の集合である。

 ハウスドルフ空間とは、「変な空間」を取り除いた空間。多様体の空間は全てハウスドルフ空間である
*数学はいかようにも都合のよい仮想の中で議論を進められます。多様体についてはず〜とそうでし、そういうところを、この本は「隠さずに」正面から説明してくれるのです。だから、素直に読み進めることができました、ありがたい限りです。

《2. C^r級多様体と C^r級写像》

 「座標近傍」の定義は、「天下り的」である。同相写像[ψ:U → U']があるとき、(U,ψ)を座標近傍、ψを局所座標系と言う。ψにより歪められ、曲線座標になる。位相空間Mに、座標近傍が存在するとき、Mを位相多様体と言う。多様体はどこにでも局所座標系が描ける空間である。

 二つの座標近傍が交わってとき、共通部分の点は二組の局所座標で表される。座標変換は、この両者の関係を記述する。

 位相空間Mが座標近傍により被覆であり、座標変換がC^r級写像であるとき、C^r微分可能多様体と言う。

《3. 接ベクトル空間》

 曲線cのベクトルを、局所座標系のとり方に無関係な“実体”として定式化する方法は、「抽象的な」印象を与えるだろう。点pでMに接するベクトルを考えると、接ベクトル空間は、局所座標系に無関係なものとなる。

《4. はめ込みと埋め込み》

 多様体は座標近傍系で被覆される。 ← *被覆とは、開集合族で覆い尽くすことができるということ。

 位相空間がコンパクトであるとは、任意の開被覆から有限部分被覆が取り出せることである。コンパクト空間の連続関数は、最大値と最小値を持つ。

 臨界値の測度は零である。測度とは、面積や体積の拡張概念である。

《5. ベクトル場》

 座標近傍U上のm個のベクトル場を使うと、U上の局所座標表示することができる。

 Mの各点の接ベクトル空間に内積の与えられている多様体を、リーマン多様体と言う。リーマン多様体M上では、与えられた関数fに対しgradf(勾配)が定義できる。
*なんてご都合主義なんだ!と思ってはみても、こうしないと話は前に進まない。変だと思うのは当然だ。それでも、有用ならば、それを「信じる」しかないのだろう。

 Xの積分曲線の定義域がいくらでも延長できるとき、Xを完備なベクトル場と言う。つまり、極大積分曲線の定義域はRである。コンパクトな多様体M上の任意のベクトル場は完備である。

《6. 微分形式》

 C^∞級多様体M上の二次の対象テンソル場ωが、M上の各点pにおいて正定数であるときωをM上のリーマン計量と言う。リーマン計量[ω(X・Y)=X・Y]は、接ベクトル空間の内積を与えるようなもの。リーマン計量が与えられた多様体をリーマン多様体と呼ぶ。

 従って、曲線cが与えられたとき、各時刻での速度ベクトルの長さ(速さ)が考えられる。これを積分することによって、曲線cの長さが定義できる。リーマン計量が与えられていない多様体上では、長さを測る単位も存在しない。接ベクトル空間をm次元数空間と同一視できる。
*リーマン計量によって、リーマン多様体に距離が与えられ、絶対座標系となる。狐につままれたような話だが、丁寧に流れを追うとフムフムとなるのだが … 腑には落ない。

 ストークスの定理によって、境界を持つm次元部分多様体が定義される。
*スケールが小さく、流れが遅い流れは非線形項を無視でき、重ね合わせの原理を用いて解を求めることができる。