「ロボットとは何か」 石黒浩 2009年 講談社現代新書

 また、同じ本を買ってしまった … と後悔すると思いきや、今回はボケていて良かった〜。読み直してみると、一回目とは印象が全く違う。1度読んだことで、理解の下地が出来ていたのか、今回はかなりの部分が受け止められました。1回目は、反発していた部分も、自分自身が仕事を通してAI(生成AIはAIなんぞと言えるものではありません)を使い込んできたせいか、素直に受け入れられたのかも知れません。 以下は、この本の要約と引用です。

《プロローグ》
 「人に心はなく、人は互いに心を持っていると信じているだけである」。内部から自分をみているときよりも、外から他人の様子を見ているときの方が、「心の存在」を感じ取ることができる。ゆえに、「ロボットも心を持つことができる」。

《1.なぜ人間型ロボットを作るのか》
 人間は体を使って物を認識するために、画像に映し出される形だけにとらわれないで認識できる。
 全方位視覚は、環境を広く見渡す。能動視覚は、関心をもったものを注視する。
 椅子に座るという目的を持ってはじめて、目に映るものの中から椅子を見つけて、それを認識するという機能が芽生える。
 技術は、人間に関する完全な知識なしに、設計され、普及する。製品の改良と人間に関する理解が同時に進行する。
 認知科学や神経科学や心理学には、断片的な知識はあるが、その全体の仕組みについての知識はほとんど無い。
 人間は、対話の対象を擬人化する。擬人化し易い人間型ロボットは、親しみやすいメディアとなる。

《2.人間とロボットの基本問題》
 人間に酷似した見かけを持つロボットをアンドロイドと呼ぶ。ロボットが人間に似ていると、動きも人間と同じでないと不気味になる。
 ロボットのメカニックが複雑になると、制御するソフトが作れなくなる。人間は、生まれてから1〜2年で自らの体を制御できるようになる。ロボットも発達するプログラムにすればよいのだ。
 生体と機械の違いは、ノイズ(揺らぎ)を利用することにある。

《3.子供と女性のアンドロイド》
 アクチュエータ=効果器は、人間では筋肉、ロボットではモーターなど、体を動かす装置。
 娘のアンドロイドに近づくと、娘の匂いがした。一つの感覚が刺激されると、関連する感覚も刺激を受けたように感じるのである。人間は、人間らしい見かけに敏感である。
 見かけが人間らしいと、その動きが人間と異なる場合に、強烈に人間ではないという感覚に襲われる。
 人間の全身の筋肉は、主要なものだけで200本。人間はじっと座っている時も、目や体の動きを止めない。呼吸に伴って胸や肩も動く(無意識微小動作)。人間の動作のモデルとしてセントラルパターンジェネレーター(CPG)を試用。周期的な信号を生成するパターン生成器である。無意識微小動作を作るとより人間らしく見える。
 感情機能がアンドロイドには無い。人が「このアンドロイドは感情を持っている」と思えば、そのプログラムは人間の心のモデルになる(構成論アプローチ)。
 人と話しているときに、たいていはその人の目を見るが、じっと見続けない。物を見るときには、目をそらせることはしない、
 アンドロイドを初めて見た人は、平気で触ることができない。ロボットには、たいていの人が平気で触る。人間の脳は、人間を認識する様々な情報処理が行われている。
 ロボットが実装される環境には、センサーやICタグが埋め込まれ、ロボットには人と関わる機能だけが実装されるだろう。
 認知科学や神経科学は、人間全体を説明するものではなく、限られた機能に絞ってその機能を明らかにしようとする。ロボットを作るには工学者の直感や経験をもとに補う必要がある。

《4.自分のアンドロイドを作る》
 コンピュータでも、分からないときは曖昧な返事を返すというような工夫をすれば、対話が成り立つ。
 2m程度の距離で複数の人が話している状況では、認識したい人の声を分離することができない。
 人は自分に対する行為(反応)を観察することで、自分を認識する。自分を観察することは容易ではない。例えば、自分の耳に入る声と、喋る声では伝達経路が異なる。人間は、自分の声を聴きながら喋る。
 人はどのくらい自分のことを知っているべきか?は難しい問題。
 我々は、情報を整理して、世界はこう見えるはずだと解釈した結果を見ている。
 ジェミノイド(遠隔操作型のアンドロイド)には、まわりの環境についての多様なセンサー情報に対する反射動作を取り込んでいる。

《5.ジェミノイドに人々はどう反応し、適応したか》
 人間の体と感覚は密につながっていない。全ての感覚を脳で認識しながら行動しているわけではない。脳には、体全体の感覚が得られていると錯覚する機能がある。自分の体は自分の思い通りに動いていると錯覚する。自分の脳とジェミノイドの感覚が繋がっていると錯覚することもできる。
 見かけも人間に見えるものを対象にしたチューリングテストは、トータルチューリングテストと呼ばれる。
 化粧を変えたり、体型が変わったりすると、人格まで変わる。ジェミノイドでそのことを試すことができる。

《6.ロボット演劇》
 ロボットが次にどのような動作をするか、動作をプログラムした開発者でさえ予想できなくなる。ロボットが実体を持って、自律的で社会的な行動をとると、生々しく見える。
 人がロボットに感じる感情は主観的である。人間は、相手の表情や仕草や口調から感情を想像しているだけである。
 自分は自分の感情を理解しているのか?は怪しい。「悲しい」は、心臓の付近が痛くて胸がじいんとなり、その現象が脳によって悲しい記憶と結びつけられることにより、悲しいと感じる。怒りは、体温が上がり、イライラした気持ちがつのるという体の反応と、怒りにつながる記憶が統合されて怒りになる。自分の体の反応を解釈するのは、他人の表情を見て、他人の感情を推察するのと似ている。自分のことを、他人を観察するように、観察しているのである。自分の心も、他人の心も、観察を通して感じることでその存在に気づく。
 舞台の演出者は、心があるように見える動作を指示する。
 人間は自分に心があるかどうかは分からないが、他社は心を持つと信じることによって、自らにも心があると思い込むことができる。
 「意識」は、人間が感覚器を通して、自分を説明しようとしたときに、そういうものがあるとするなら説明しやすいので作り出したものだろう。実感を抱くということと、機能として実在することは別のことである。

《7.ロボットを情動》
 人間が他人と関わりたいと思うのは、性情動に起因すると考えている。
 人間は集団で食事をして個別に性交する。猿は集団で性交して、個別に食事をする。
 人間が人間に期待するレベルのサービスを提供するには、音声認識の精度が問題になる。自立型の機能だけでは実用水準に到達しない。

《8.発達する子供ロボットと生体の原理》
 ロボットのメカニズムを思い通りに動かすには、体全体を制御しなければならない。人間の赤ちゃんは、生まれて1〜2年の内に、無数の筋肉と感覚器からなる体を制御できるようになる。もぞもぞと動きながら、自分の体の構造を知り、自分の体や感覚を使えるようになる。
 アンドロイドは、アシモのように歩かせることはできない。
 200の皮膚センサーを備えたロボットは、皮膚センサーの場所をどう覚えるのか?、自分が触ったのと、他人が触ったのをどうやって区別しているのか?
 赤ちゃんは自分でもぞもぞ動きながら、体を触ってもらいながら、どういった場合に、どの皮膚感覚器が反応するかを記憶する。ロボットも同様に、自分の触覚感覚を学習する。
 人間やロボットが立って歩くには、人の助けが必要になる。人間の主要な筋肉200本をどう動かせばいいかを、経験の無い子供が自分で探し出すのは難しい。
 ロボットも、無理やり手を引くような介助者ではなかなか学習できない。ロボットにも良い親が必要なのである。全ての感覚、全ての動作が、人との関りを通して同時に発達する。
 一つ一つの感覚を組み合わせていくよりも、複数の感覚を同時に学習した方が習得が早い。人間もロボットも同じである。
 人間社会がどのように成り立っているについては、社会学や経済学などは、不特定多数の人間を扱う。特定の人間関係を扱うモデルは殆ど提案されていない。フリッツ・ハイダーの「バランス理論」は三者関係モデルである。AとBが親しくて、AとCが親しければ、BとCも親しくなる。AがBを嫌っているときに、CもBを嫌えば、AとCは親しくなる。
 人間の脳は1ワットしかエネルギーを消費しないのに対して、スーパーコンピュータは5万ワットのエネルギーを消費する。この差はノイズの利用にある。ノイズとは、ここではランダムな信号や動きである。
 コンピュータはゼロボルトと5ボルトの状態を作りながら、0と1を表現し、その組み合わせによって計算を行う。ゼロボルトと5ボルトの安定した状態を作るために、大きなエネルギーが必要となる。
 生体の筋肉の分子レベルでは、アクチンという分子のレール上を、ミオシンという分子が移動することによって、筋肉が動いている。その分子の移動は、熱ゆらぎに少しのエネルギーを加えるだけ発生する。
 大腸菌は、環境が変化すると、その遺伝子の発現パターンを変化させて、環境に適応する。その遺伝子の発現パターンの変化は、ゆらぎによって引き起こされる。
 分子-細胞-脳-生体の現象を統一して説明するゆらぎ方程式
 (制御モデル)+(アクティビティ)+ ノイズ
 アクティビティとは、目標に近づいたことを示すセンサ。目標に近づいているときは、アクティビティは大きくなる。目標に近づかないときは、アクティビティは小さくなり、ノイズが大きくなる。例えば、昆虫ロボット。アクティビティは、餌の匂い。

《9.ロボットと人間の未来》
 必要不可欠な道具となった携帯電話は、個人の都合で電源を切れなくなっている。
 人間は他の人間のことを深く考えることなく、単なる情報交換ばかりするようになった。
 ロボット三原則は、今日のロボット技術から見ると、抽象的で意味が無い。
 ロボットと人間の、一番の違いは「ロボットはスィッチが切れる」ことである。スィッチを切ってしまうと、社会的な関係まで失う可能性があるとすれば … それは人間の側の問題である。ロボットは新しいメディアになる。ロボットは人と人を結びつける。
 情報化社会の先には、ロボット化社会が来る。

《エピローグ》
 技術は世の中を変える。良い使い方も悪い使い方もできる。自らが作り出すものが悪い影響を与えるかもしれないという覚悟が無ければ、研究はできない。人間は、唯一自殺する動物である。理性と本能が内面で闘う動物である。