「はやぶさ2の真実 − どうなる日本の宇宙探査」
松浦晋也 2014年 講談社現代新書

 生禿も、はやぶさ2に関心を持つ者の一人です。宇宙研からJAXAへ。プロジェクトの主体が変わって「神業」が否定され、人間の確実な業に成り下がった?はやぶさ。予算も体制も貧弱な日本の宇宙探査が、世界に伍していける可能性はあるのか?その回答のヒントがこの本にあります。

 現在、はやぶさ2は、地球スイングバイ(2015年12月3日)の後、第2期イオンエンジン連続運転が終了(2017年4月26日)。第3期(今冬)のイオンエンジン連続運転後は、いよいよ地球近傍小惑星リュウグウ到着になります。(JAXAのHPより)

 はやぶさ2の帰還予定は2020年。なにはともあれ、宇宙研時代の名前「はやぶさ」を冠い、その技を継承する「はやぶさ2」の健闘に期待しましょう。

 以下は、この本の要約と引用です。


《プロローグ》

 宇宙探査になによりも必要なのは人材だ。人材は経験を積むことによってのみ育成することができる。大切なのは、宇宙探査という、人類が未知の領域に挑む事業を、継続していくことなのだ。

1.大いなる賭けであった初代はやぶさ

 地球近傍小惑星は、往復飛行に必要なエネルギーが小さくてすむ。M-Vロケットで打ち上げ可能な重量の探査機でも、往復飛行が可能だ。小惑星なら、降りていくにも、サンプルを採取して上がってくるにも必要なエネルギーは僅かだ。しかも、小惑星には、太陽系ができた時、どんな状態だったかという情報が残っているかもしれない。

 打上から半年後の2003年11月。はやぶさは、強力な太陽フレアを浴びてしまう。太陽表面での大規模爆発のことを太陽フレアという。それに伴い電子や陽子などの荷電粒子が噴出して、宇宙空間に広がっていく。過去に太陽フレアが地球に到達した時には、無線通信が不可能になったり、送電線が損害を受けて大規模停電が起きたりしている。

 2011年の「サイエンス」の2回目の特集は、「はやぶさ、イトカワからの微粒子」。微粒子が地球に落ちる隕石の中でも、「普通コンドライト」に類似していること、イトカワを構成する物質は一度800℃以上に熱せられてその後ゆっくりと冷えた跡が残っていることが判明した。これは、イトカワを構成する物質が、いったんある程度の大きさになった星由来であることを示している。大きくなった星の内部の温度が放射性同位体の発する熱で上昇した後、星同士の衝突が発生。砕けた破片が集積してイトカワが生成した。

2.宇宙大航海時代

 人類が持つロケットエンジンは、まだ太陽の重力に逆らって真っ直ぐ目的の星へ向かえるほど強力ではない。地球から出発して、地球の進行方向に加速する。探査機は太陽の周りを巡る軌道に入る。楕円軌道の太陽から一番遠い遠日点が火星軌道に届くようにすれば、探査機を火星に送り込むことができる。円軌道から楕円軌道を介して別の円軌道に移るのである(ホーマン軌道)。

 ロケット推進における燃費は、噴射するガスの速度で決まる。イオンエンジンは3万m/秒という高速な噴射ガス速度を達成できる。イオンエンジンを使った軌道の設計には、ホーマン遷移を使う化学推進ロケットを用いる場合とは異なる「変化し続ける軌道を追跡・計算して目的地へと導く手法」が必要になる。

 ヴォイジャー探査機は太陽光の弱い外惑星方面に飛んでいくため、放射性同位体の熱を使って発電する。そのため、太陽電池パドルを持たない。

3.宇宙創世の謎に迫る

 第二世代以降の恒星とその周囲の惑星には、超新星爆発で生成した重い元素が含まれている。太陽と惑星の重力が力学的に安定するラグランジュ点があり、そこに小惑星が集まっている。

 はやぶさ2は、「素早く計画を立ち上げる」ために、初代はやぶさの設計を踏襲した。同型機ならば、かなりの試験項目を省けるので、迅速に打ち上げることができる。が、探査機の能力も、初代はやぶさ並みとなってしまう。

 残念ながら、水と有機物のあるD型、P型は、はやぶさ同型機の能力で往復可能な範囲には存在しない。また、水と有機物が揃っているとなると、採取したサンプルに宇宙由来の微生物が入っている可能性も考慮しなくてはいけない。そんなものを地球に持ち込んでいいのか?更なる検討が必要だ(宇宙検疫)。

 はやぶさ同型機が往復飛行できる範囲内にC型小惑星は、リュウグウ以外には見つかっていない。分光観測の結果は、リュウグウに「含水シリケイト」という水分子を含む鉱物が存在することを示唆している。

4.これがはやぶさ2だ

 「はやぶさの設計を踏襲した同型機を素早く打ち上げる」という考えで、はやぶさ2計画が立ち上がったのは2005年。初代はやぶさが行方不明になっていた時だ。

 JAXAは、はやぶさ2がリュウグウに到着する2018年までに、Kaバンドの通信設備を整備する構想を持っている。

 南米海外局の設置は、日本がどのようにして国際社会の中で宇宙戦略を展開していくかの根幹に関わる問題だ。初代はやぶさでは、アメリカの研究者との協力関係に、タッチダウンの成否が依存する状況だった。長時間通信を維持する必要がある時は、NASAが整備したディープ・スペース・ネットワークを借りて使用する。

 2014年並に条件の良い打ち上げ機会は、2020年以降となってしまう。限られた時間内で開発を終えることが条件となる。

 はやぶさ2は、インパクターを搭載している。小惑星上で起きる衝突を再現できる。対戦車砲の砲弾の技術の応用だ。

 リュウグウは水のような揮発性の物質を含んでいる可能性がある。揮発性物質を持ち帰れるようパッキンを変更した。

 自転する星は、太陽を向いた昼の面で温められ、夜の面で冷える。夜の面では赤外線が放出される。ごく弱い力でも何百年も続いたら − 太陽を巡る機動が変化する(ヤルコフスキー効果)。地球に衝突する軌道にある小惑星を探すためには、実際の小惑星にどう働いているのかを知る必要がある。

5.地上の長く曲がりくねった道

 かつては、宇宙研所内で意見を統一すれば、予算折衝へと移れたものが、JAXAの経営企画部や理事会を通過しなければならなくなった。

 2007年の予算編成で、はやぶさ2は、開発に必要な額を獲得できなかった。

 2008年に宇宙基本法が国会で可決された。内閣総理大臣を長とし宇宙開発戦略本部を設置した。背景には、1998年から始まった情報収集衛星(IGS)の開発と運用だった。1998年に北朝鮮が行ったテポドン1号発射をきっかけに始まった偵察衛星システムである。

 初代はやぶさ帰還の年2010年、文部科学省ははやぶさ2にゴーサインを出した。

 2012年の予算編成には、2011年の東日本大震災からの復興経費が重くのしかかっていた。それだけでない、宇宙基本法に基づく宇宙開発体制は、準天頂衛星システムや情報収集システムを優先した。

 國中教授がプロマネを引き受けた。2012年から探査機の製造が始まった。2013年には、計画を実行できる予算が付いた。

6.未知の空間へ、未踏の星へ − 日本の現状と宇宙探査の未来

 ソーラー電力セイルという技術を用いて、木星と同じ軌道にあるトロヤ群小惑星からのサンプルリターンを検討している。太陽から離れると、大面積の太陽電池を展開する必要がある。広げた薄膜に太陽光が当たると、光の圧力によって推進力が発生する。ソーラーセイルとイオンエンジンの両方から推力を得ることができる。

 2010年、H-僑船蹈吋奪箸蚤任曽紊欧蕕譟▲宗璽蕁偲杜魯札ぅ襪了邯概,麓騨儔修妨けて成功を収めた。

 木星軌道は、水が真空の宇宙でも個体の形で存在できる。より太陽系初期の状態を保っているであろうP型やD型の小惑星が多数存在する。トロヤ群には、人類の探査機は赴いていない。

 宇宙科学は米国の影響を受けることなく成果を挙げてきた。しかし、IGSが宇宙予算に食い込んだことによる予算不足の影響を最も受けたのはロケットだ。M-Vは廃止となった。科学技術庁官僚は、M-Vに圧力をかけ続けた。

 宇宙研方式と呼ばれる計画管理手法は、高い能力を持った少人数が緊密に連絡を取り合って高速に意思決定していくものだった。このっやり方は、計画が大規模化して参加人数が増えるとうまくいかなくなる。なんでも記録し、サインを入れ、事故が起きても書類を追跡するだけで、事故原因が確定できるまでにしておく。

 JAXAに組み込まれ、ロケットを失った宇宙研は、昔日の宇宙研ではない。ロケットを失い工学が弱体化した宇宙研は、サイエンスを核に体制を立て直そうとしている。

 2014年、安倍晋三首相は、宇宙基本計画の見直しを命じた。安全保障の強化と宇宙産業基盤の強化が狙いである。

《あとがき》

 日本の政治には太陽系探査に対する意思は存在しない。