「うつ病をなおす」 野村総一郎 2004年 講談社現代新書
鬱病学会の会長が書いた、臨床現場の実態を踏まえた鬱病に関する著作です。ブックオフで百円だったので買ってみました。ブックオフって、いい仕事してますね。
「鬱薬が改良され、使い方についてのノウハウも蓄積されてきた。一方で、鬱病は医学として明確に解明されていない」。
「鬱病は、『しっかり』した性格が裏目に出てしまうと表現できる」。筆者は、「鬱病者は、認知上の歪があって、物事へのこだわりが強くなり、そのためのストレス反応として鬱になる」との仮説を持っている。
○ 鬱病の症例
《鬱病性障害》
正式名称は「大鬱病性障害」。「生真面目で頑張り屋、頭が硬い性格」。「鬱薬で治りやすい」「繰り返すことが多い」。
《双極性障害(躁鬱病)》
「躁状態の時は、知能指数も30くらい高くなる」「食欲も性欲も亢進する」。「鬱だけを見れば双極性障害なのか鬱病なのか、判断することはできない」。
「単純な仕事を着実にこなすのは苦手だが、アイディアマンで統率力のあるリーダー。エネルギッシュで、社交的で賑やかな人物が多い(循環気質)」。
《気分変調症》
「慢性の鬱状態が続く」。
○ 鬱病の症状と診断
「鬱病者は、何の感情も湧かない。鬱病は『エネルギーの欠如』である。鬱病のイライラは、まだエネルギーが残っている初期に生じやすく、症状の進んだ時期にはあまりみられない」。「鬱病の症状は、朝にひどく、夕方になると軽くなる傾向がある」。
「希望も自信無く、暗澹たる考えが頭の中をぐるぐる回る。発想の転換ができない。状況から逃れるには死ぬしかない、となる。極端から極端に行ってしまうのも、鬱病者特有の思考パターンである。鬱病の場合、『やらなければ』『できない』ので、自責の念にさいなまれる。自殺の危険性も無視できない」。
「鬱病の妄想は『自己否定』、精神病の妄想は『被害妄想』が中心である」。
「鬱病なのにニコニコしている微笑み鬱病は、心は鬱だがそれを外に出さない努力をしている。初期の段階でのみ可能な、いつも笑って世渡りをする鬱病者独特の処世術である」。
「全ての欲望が低下し、食欲も落ちる。体調も優れなくなってくる。疲れ、頭痛、手足のしびれ、寒気、全身の汗、口が渇く、めまい、肩こり、吐き気、便秘などが多い」。
「鬱のきっかけとなった出来事が解消しても、良い事があっても、鬱の解決にはならない。出来事は原因ではない。鬱病では、娯楽や息抜きは救いにはならない」。「普通の鬱気分の時は慰めてあげるべきだが、鬱病では『そっとしておいてあげる』ことが一番かも知れない」。
「鬱病の症状はある日突然現れ、しだいにひどくなる。二週間たっても気分が戻らなければ、鬱病の可能性がある」。「鬱病は、再発と回復を繰り返す人が多い。自然回復するが繰り返すのが特徴である」。

【図:鬱病の自己診断テスト】
《非定型鬱病》
「鬱病の診断基準には当てはまるが、その他の点では変わった面のある鬱病」。「通常の抗鬱薬は効果が無い。今のところ日本で使用できないMAO阻害薬が効くことがあるようだ」。
《血管性鬱病》
「動脈硬化などによって脳血管内の血の流れが悪くなって、小さな脳梗塞が生じた結果、鬱病になる。年取ってから鬱病になる人に多い。脳梗塞を起こした人の後遺症として、鬱状態が続くこともある。また、鬱病で活気がなくなって、それをボケたと誤解されることも多い」。
「一般の鬱病よりも治療し難く、さらに、高齢者であるための副作用が出やすいので、思い切った薬の使い方もできにくい」。
○ 鬱病の治療メニュー
「治療法の研究は、盛んである」。治療手順の標準化も進み、治療ガイドラインや薬物治療アルゴリスム」が整備されている。だが、「鬱病の病理実態は、未解明である」。
・生活面への配慮 − 可能な限り休養する
「鬱病者は「他人に迷惑をかける」と頑固に主張する」が「病気について説明し、休養の重要さを理解してもらう」。「小技が通用しないのは鬱病者一般に言える」。「『今は一つだけ努力して貰う必要があります。休暇をとることです』と説得します」。「鬱病者は、何もしないことが苦手ですから、本当に休めているのかを確認することが必要です」。
「鬱病者に、叱咤激励してはいけない。鬱病者への大きなダメージになりかねない」。「少なくとも急性期には、気晴らしなどは苦痛になる。『何もしない』ことが基本である」。
・薬物療法
「ある患者に最初に抗鬱薬を投与して改善するのは70%ぐらい」。「日本の精神科薬物療法研究会が2003年に定めた治療薬アルゴリスム」を定めた。
・通常の鬱病と診断された場合のアルゴリスム
「第一段階は、SSRI(パキシル|ルボックス|デプロメール)あるいはSNRI(トレドミン)」。
「抗鬱薬は十分な量を用いないと効果が出ない」「十分な量には個人差がある」「投与量を増やすと副作用も出やすくなる」「少量を短期間出して、効果が不十分で、副作用があまり無いようなら投与量を増やす」「効果の有無は少なくとも二週間は飲み続けないと判定できない」「投与量の調整期間も入れれば、三〜四週間は判断できない」だが、「副作用はすぐに出る」。
第二段階は、「『気分安定薬』の追加投与と、抗鬱薬の切り替えのいずれか」。「切り替えは、第一段階がSSRIならSNRIへ切り替える」。
・SSRI(パキシル|ルボックス|デプロメール)
「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」で「セロトニンの働きを強める」。「飲み始めに吐き気がすることが多く、少ない量から飲み始めるのがコツ」。「他の薬との相互作用が複雑で、特に、肝臓代謝の部分でぶつかる」。
「抗鬱薬は、治ってからも最低半年は量を減らさないで飲み続ける必要がある」「急にSSRIを止めると、不安感が強まる」「二か月ぐらいかけて減量していく」。
・SNRI(トレドミン)
「セロトニンとノルアドレナリンを強める」「SSRIよりも穏やかで、効果も副作用の出方も優しい」。
・三環系抗鬱薬(トフラニール|アモキサン|プロチアデン|アナフラニール)
「古くからある薬で、副作用が多い(便秘|口が渇く|立ちくらみ|動悸)」。
・四環系抗鬱薬(テトラミド|テシプール)
「副作用が少なく効果も弱い日本独特の薬」「眠気が強いという副作用を利用して、睡眠薬代わりに使うこともある」。
・ドグマチール
「日本だけで使われている薬」「もともとは胃薬で、食欲が出る、元気が出るので、鬱病にも使われるようになった」「女性の場合、生理が止る、飲み続けると太るという副作用がある」。
・双極性障害の治療アルゴリスム
躁状態に対するアルゴリスム
「第一段階は、気分安定薬(リーマス|デパケン|デグレトール)」「効果が出るまでに二〜三週間も時間がかかる」。その間、「浪費や喧嘩などのトラブルで取り返しのつかない事態が起こり得る」「抗精神病薬(リスパダール|セロクエル|ゾプレキサ)で、気分を落ち着かせる」「抗精神病薬は、統合失調症の幻覚や妄想を抑えるのが本来の役割」。
第二段階は、「気分安定剤の効果が十分でなければ」、「通電療法を行う」か「別の気分安定剤を追加投与する」。
鬱状態に対するアルゴリスム
「双極性の鬱状態は、過去に躁状態があったかどうかだけで判定をする」「第一段階は、リーマスを投与する」
第二段階は、「慎重にリーマスを増量する」「他の気分安定薬(デパケン|デグレトール)に変更する」「通電療法を行う」などだ。
「双極性障害は単極性よりも繰り返す可能性が強い」「効果のあった気分安定剤を少なくとも1年は続ける」。
・気分安定剤
リーマスは、「リチウムイオンを製剤にしたもの」。「リチウムイオンの水が湧く泉は、精神障害を癒す力があるとされ、巡礼地になったりもしている」。「副作用も無い」。「単純なイオンであるだけに、腦などに影響を与えやすく、量が過剰になると意識の障害を起こす」。「血液検査をして、リチウム濃度を測定する必要がある」。
デパケンは、「元は、てんかんの薬だった」。
テグレトールは、「元は、てんかんの薬だった」。「強力な鎮静作用を持つ」。「ふらつきなどの副作用が強く、アレルギー症状も出やすい」
薬物療法では、「抗鬱薬は必要」。「甲状腺機能が低下していれば、甲状腺ホルモンを使用する」「甲状腺ホルモンは細胞に活力を与えるホルモンで、副作用も少ない」。「ドパミン作動薬(パーロデル|シンメトレル)を補助として使う場合もある」「ドパミン作動薬のリタリンは、覚醒作用が強い。但し、依存性がある。」
・通電療法
「有効率が高く、安全性が高く、副作用も少ない」「90%を超える有効性がある」。「脳に一度に激しい刺激を与えると、痙攣が生じ、意識も失われることが多い
統合失調症の妄想などには効果が薄い」。
「現在の通電療法はmECT(改良型電気痙攣療法)と略称される」。「手術室で、麻酔下で行われるので苦痛は無い」。「劇的な効果は示すが、再発率が高い」「患者に、一定間隔で来院して貰い、予防目的の通電療法を受けさせる」。
・磁気刺激療法
「磁気を頭にかける」。「磁気は電気に比べてエネルギーが低く、麻酔も必要ない」。
・精神療法(心理療法)
「患者と共に考えるが基本」。
1)休養を勧める
2)自殺を禁じる
「自殺をすれば、あなたはいいかもしれないが、まわりに大迷惑になる、ことを伝え、自殺をしないことを約束してもらう。鬱病者は約束を守ろうとする人が多く、他人に迷惑をかけたくない気持ちが強い(かえって苦しめる結果に可能性もあるが)」。
3)受け身でいるよう指示する
「努力をするほど空回りするだけで、焦りにつながる」。
4)流れに中で人生を捉える
「鬱になると今現在でしか物事を考えられなくなる」「なかなかわかってはもらえないが、良い時も悪い時もあることを、繰り返し伝える」。
○ 性格改善法
「鬱病にかかりやすい性格を『メランコリー親和型性格』と名付ける」。
「認知療法では、日々の体験をどう把握し、どう行動するかを考え、実践していくことにより性格改善が図られる」。「同じ体験をしても、それをどう捉えるかで、感情は異なる」。「多く人は自分は出来事を正確に捉えていると信じている」「柔軟に考えられる人は、自分の考えが間違っているかもしれないと、立ち止まって考えることができる」。
「柔軟性が無く頑固だが、他人に気を遣う。相手に合わせようとするが、自分の認識と衝突して折り合いがつかず、解決できない状態が鬱である」「頑固ということは、様々な情報を取り入れて運用する能力が欠けていること」。
「他の考えも存在することに気づく、ことが新しい展望を開く」。「実行可能なものを『とにかく』試してみる」。「そして、うまくいったことには真実が含まれている、と認識する」。
・鬱の思考パターン
全か無か
過剰な一般化 〜 小さな失敗でその人の全人格が否定される
肯定側面の否認 〜 ネガティブな面に敏感
ねばならない
・鬱病の思考からの脱却
鬱の思考パターンを自覚する 〜 問題を自覚することが、解決の第一歩
鬱の思考パターンが生じた回数を数える 〜 自分の一番多いパターンを知る
鬱の思考パターンの停止 〜 他の考え方を、考えてみる
合理性のあるものを試してみる(練習してみる) 〜 鬱の思考パターンを否定するのではなく、妥協する
繰り返し練習する