「物理の世界」 放送大学
放送大学の「物理の世界」が新しくなったので聴講しました。3年ぐらいで、新しくなるので、学び直しができて嬉しい!しかも今回の講義は、「物理学全体を通底する基本の考え方を紹介する」という骨太な内容。助かります!! 以下は、私自身の忘備のため、講義の内容の要点(数式を省いて論述のみ)をまとめたものです。まとめの中の「*」は、私の見解です。文末にまとめた*は、物理量学に必要なベクトルの性質をまとめたものです。
■ 力と運動
異なる次元を持つ量を加除することはできないが、乗除することはできる。
*物理は「量学」であって「数学」ではない《量学》。「量」は定義(度量衡などの法律などで)によって成り立つもの。人間が作った「計測概念」。実体を持つものではない。対して「数」は、定義なしで(法律で定めなくとも)自明に認識される「実体概念」。だから、量学に「実体性」があるかどうかを「獣知」を以て感じる必要がある。
「瞬間」とは、無限小の時間間隔。瞬間を積み重ねて運動の軌道がわかる。
■ 力学的エネルギー
運動エネルギーの変化は、その間になされた仕事に等しい。[仕事=力×距離]
あらゆる「力」は相互作用である。ポテンシャル(位置エネルギー)の勾配として表される「力」を保存力という。
■ 古典力学の広がり
日常生活では摩擦があり、保存量が無い。だから自由に動く。
角運動量は「質点」が運動する平面と垂直な向きを持つベクトルである。
中心力が引き起こす運動では角運動量が保存され、その結果、質点の運動は、角運動量に垂直で原点を通る1つの平面内で起きる(惑星の軌道など)。
広がった物体も微小分割すれば=素片は質点と見做せる。剛体運動は、重点の移動(並進)と回転運動がともに起きる。
ある量が極値をとることを基本原理に据える見方を変分原理(極限原理)と言う。変分原理はスカラー量(ラグランジアン)を扱う。始点と終点を固定し、可能なあらゆる経路を考え、実現される経路から微小にずらして、作用を最小化する経路を求める。ラグランジアンは、運動エネルギーからポテンシャルを引いたもの。変分法により、ニュートンの方程式では解けない運動を「解析」することができる<解析力学>。
■ ベクトル場
力(力線)は場である。「場」とは緊張状態である(ファラデー)。
発散する(湧き出し、吸い込む)力は、面(球面)に広がる。発散力は距離の二乗に比例する。
■ 電場と磁場
場は力によって測る。電荷と質量は力の場。
電場は電荷が作る。磁場は動電場と電流が作る。動磁場は電場を作る。
静電場はクーロン力をもたらす。
■ マックスウェル方程式
電磁誘導には物質が登場しない。電磁波は真空を伝わる。
素粒子の相互作用は、電磁ポテンシャルを一般化したゲージ場で記述される。
■ 光と時空
[y(x,t)=Asinθ]のθを位相と呼ぶ。波長と振幅数が速度(位相速度)を与える。
位置(場所)によって時刻=時計の読み(記録)は異なる。
マクスウェル方程式を不変に保つ線形変換は無限にある。アインシュタインは、光速を不変としてローレンツ変換を一意に定めた。
■ マクロ世界の論理
ミクロとは、「分子より小さい」が目安。マクロな現象は、要素が増えてくると「見えてくる」。
三体問題は解けない(ポアンカレ)。運動方程式が原理的に解けないことこそが、マクロな熱力学を成立させている。
平衡状態とは、時間変化しない状態。熱力学は、マクロ形の平衡状態と、その間の保存則を満たす遷移を扱う。
熱はエネルギーの伝わり方の一つの形態である。
■ エントロピー
物質量(分子数)の次元はN=モルで測定される量。
状態量とは、平衡状態がもつマクロ物理量である。仕事Wや熱Qは状態量ではない。
単純系のエントロピーSは、エネルギーU、体積V、物質量Nの関数である。
■ 不可逆性
不可逆性は、マクロ系の最大の特徴。ミクロな運動法則は、時間反転について対称である。
孤立系の内部束縛を除去した後に達成される平衡状態のエントロピーは、除去する前のエントロピーよりも大きいか変わらない。束縛条件を変えるだけで、系が自発的にエネルギーを移してくれる。
熱も仕事もどちらもエネルギーの移動である。相互変換の可能性という点では、熱と仕事は等価ではない。効率は、成果/コスト。
仕事から熱への変換効率は1。熱から仕事への変換効率は1以下。熱機関=高温系から低温系への熱移動を外部系の仕事へ変換するサイクル過程では、熱は無限に上げられず、熱の捨て場所が必要になる。
低温系から高熱系へと熱を移動するサイクル過程の冷却効率は1より大きくなる。熱だけの移動だからである。熱を移動させる仕事は、移動させる熱よりも少なくて済む。
低温系から高温系に熱を移動するヒートポンプの効率は1より大きい。電気ストーブは仕事を熱に変換しているだけなので1より小さい。
■ 古典論から量子論へ
1964年、ベルの不等式が証明され、量子論でしか説明できない現象があることが示された。
物理量は、各瞬間で定まった値を持つ(実在論)。
量子論の仮定。物理量は一つの数値を示す変数ではない何か=演算子。物理量Aを測定して得られる測定値a、確率分布{P(a)}は、Aと状態から一意に定まる。状態とは関数のようなもの。時間発展は、測定を行った時刻によって異なる確率分布{P(a)}が得られること。
量子論とは、確率分布を状態の関数として計算する理論体系である。
■ 量子論を記述するための数学
ベクトル空間の空間とは、特定の条件を満たす集合。
ベクトルの内積を、[x・x'=x1x1'+x2x2']と定義する。自分自身との内積は、[|x|=(x・x)]。xの長さと定義する。2つのベクトルの内積が零になるとき、2つのベクトルは直交するという。
複素ベクトルのことを[|z>]と書く。2つのベクトルの加算を線形結合をとる、または重ね合わせと言う。内積を[<z|z'>]と書く。[|||z>||=√<z|z>]を[|z>]の長さと定義する。
内積が定義された複素ベクトル空間を、ヒルベルト空間と呼ぶ。
転置t、複素共役*、エルミート共役✝。エルミート共役は行列を入れ換えて、複素共役をとる。
ケットベクトル[|z>]に共役なブラベクトルを、[<φ|=(|φ>)✝]と定義すれば[<φ|ψ>]となる。内積はブラケットになる。
■ 量子論の定式化
量子系の状態は、ヒルベルト空間の長さ1のベクトルで表す。
エルミート共役が自分自身と同じになある行列をエルミート演算子と呼ぶ。
量子論における物理量を何か別のもので表し、可観測量と呼んだ。Aという可観測量を表すエルミート演算子をハットをつけて[^A]と書く。
系の状態[|ψ>]の可観測量^Aの測定値a。個々の測定値は、[^A]の固有値のいずれかに限られる。測定結果の平均値(の極限値)は[<A>=<ψ|A|ψ>]。
■ ベルの不等式
ベルの不等式で重要なのは、個々の測定が離れた場所で同時に行われること。測定Aと測定Bの測定値の<A(θ)B(φ)>を相関と呼ぶ(平均値は零)。
原因の結果が光より速く伝播することはない(因果律)から、他所の影響により観測結果が変わることはない(局所性)。
ベルの不等式は、局所実在論であれば必ず満たす。この不等式を破るのは、局所実在論では記述できないものである。量子論特有の干渉効果である。局所性は量子論でも保たれている。
■ この先の展望
場が励起して粒子を作る(生成消滅)。
量子干渉効果を利用した量子鍵配送や量子計算機が実用化されようとしている。
*反平行
二つのベクトルや線、または配列が逆方向に並んでいる状態を指します。
・物理学
ベクトル: 二つのベクトルが反平行である場合、それらは互いに180度の角度で並んでおり、方向が正反対です。ただし、大きさは異なる場合もあります。
磁気モーメント: 例えば、スピンを持つ粒子の磁気モーメントが反平行である場合、それらの磁気モーメントは逆方向を向いていることを意味します。
・生物学・分子生物学
DNAの二本鎖: DNAの二本鎖は、互いに反平行な配置になっています。一方の鎖が5'から3'の方向に伸びている一方、もう一方の鎖は3'から5'の方向に伸びています。この反平行性は、DNAの複製や転写などの生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たします。
・化学
分子の配置: 特定の化学結合において、二つの分子または原子が反平行な状態で配置されることがあります。これは分子の安定性や反応性に影響を与えることがあります。
*平行な二つのベクトルの外積が零になる
・外積の定義
二つのベクトル A と B の外積(クロス積) A × B は、次の性質を持ちます。
A × B はベクトルであり、その大きさはベクトル A と B が張る平行四辺形の面積に等しい。
A × B の方向は、右手系に従って A と B の両方に垂直な方向です。
A × B の大きさは、次の式で表されます:
∣A×B∣=∣A∣∣B∣sinθ
ここで、θ はベクトル A と B のなす角です。
・平行な二つのベクトル
二つのベクトルが平行である場合、なす角θ は 0 度または 180 度です。このとき、sinθ の値は次のようになります。
θ=0 のとき、sinθ=0
θ=180 のときも、sinθ=0
・外積が零になる理由
ベクトル A と B が平行である場合、その外積 A × B の大きさは次のようになります:
∣A×B∣=∣A∣∣B∣sinθ=∣A∣∣B∣×0=0
したがって、平行な二つのベクトルの外積は、大きさが零のベクトル となります。これは つまり、平行なベクトル間には面積が存在せず、したがって外積もゼロになるということを意味します。
*角運動量は運動する平面と垂直な向きを持つ
・角運動量の定義
角運動量ベクトル L は、物体の位置ベクトル r とその運動量ベクトル p の外積で定義されます:
L=r×p
ここで、r は物体の位置ベクトルで、物体の回転中心から物体までのベクトルです。
p は物体の運動量ベクトルで、質量と速度の積です。
・外積の性質
外積 r × p は、次の性質を持ちます:
外積の方向: 外積ベクトル L の方向は、ベクトル r と p の両方に垂直な方向を向きます。これは、右手系の法則に従って決まります。具体的には、右手の親指を外積ベクトル L の方向に向けたとき、残りの4本の指が r から p への回転方向を示します。
外積の大きさ: 外積 L の大きさは、次の式で表されます:
∣L∣=∣r∣∣p∣sinθ
ここで、θ は r と p の間の角度です。
・運動する平面と垂直な理由
物体がある平面内で運動している場合、その平面内の任意の時点での位置ベクトル r と運動量ベクトル p は、常にその平面上にあります。したがって、r と p の外積である角運動量 L は、その平面に垂直な方向を持つことになります。
幾何学的に考えると、r と p が張る平面は物体の運動平面であり、L はこの平面に垂直な方向(面の法線方向)を示します。このため、角運動量ベクトル L は常に物体が運動する平面に垂直な向きを持ちます。