「数学のすべてがわかる本」 科学雑学研究倶楽部 2021年 ワンパブリッシング
雑学の本だけれど、面白いだけじゃなくて「目から鱗」も!ありがとうございました。数学〜物理の好きな人には楽しめる内容だと思われます。高校生時代から「直感主義」だった私は特にね! 以下はこの本の要約と引用です。
■ 数学の世界へ
数字の代わりに文字を使うから「代数」という名称がつきました。「関数」は、数と数の関係のことです。関数を図形として表したものをグラフと言います。関数の変化を調べるのが微分積分。関数と微分積分にかかわる分野が解析学です。
数学基礎論は、論理学と集合論、連続という概念をめぐる位相空間論。数学の土台です。
2進法がコンピュータで使われているのは、間違いが起こりにくいからです。電流を流すと流さないは、明確に区別できます。
宇宙の全てを支配する数式は、現在の物理学でわかっている物理法則を、全て積分してまとめ上げたものです。
■ 様々な数
ヨーロッパでは、数直線はなかなか用いられず、負の数も長い間認められませんでした。ブレーズ・パスカルも「0から4を引いたら0だ」(何もないから何も引けない)と考えていました。
素数とは、1よりも大きな自然数で。正の約数が1と自分自身だけのもの。1は素数でも合成数でもありません。
分数は母数から見た分子、比を表します。
「累乗」の「指数」を、自然数以外に拡張したものが「べき乗」です。逆演算が累乗根(べき根)。2乗は平方根、3乗は立方根です。
実数は、数直線上の全ての数。虚数単位(i)は「2乗すると−1になる数」。「−1をかける」とは「数直線上の180度の回転」と定義されます。「iをかける」は「90度回転する」ことになります。
超越数とは、代数方程式の解として得られない数。ネイピア数eや円周率πは超越数です。
■ 古代と中世の数学
人類は文字を発明する前から。数を数えていました。3万7千年前のレボンボ獣骨や、2万5千年前のイシャンゴ獣骨にそれが見られます。5千年前のメソポタミア文明。シュメール人は楔形文字を用いて、計算や計測を行いました。バビロニアでは、シュメール人から受け継いだ60進法が用いられました。時間の数え方はバビロニア起源です。バビロニアでは、二次方程式の解の公式まで知られていました。
エジプト人は1年を365日とする暦を作りました。古代エジプトのパピルスには分数も記されています。
1世紀の中国で数学の知識をまとめた「九章算術」には、三平方の定理が扱われています。「正の数」「負の数」「方程式」の用語は、「九章算術」にもとづいています。
古代エジプトやメソポタミアの数学は、ギリシャに伝えられます。ミトレス出身のタレスはエジプトにで神官から幾何学を学びました。
三平方の定理は、エジプトやバビロニアなどで知られていました。ピタゴラス学派が証明を与えました。
古代ギリシャ人は、ゼノンの逆理を嫌い、無限を数学から排除しようとしました。
プラトンは、「大きさのない点」や「太さのない線」のように数学の対象を理想化しました。
エウクレイデス(ユークリッド)の「原論」は、19世紀まで教科書として使われ続けました。
古代バビロニアやマヤ文明には「ある位に数字が無い」ことを示す記号としての0に相当するものはありました。7世紀のブラフマグプタは、0と他の数との演算を行っています。0を数として扱いました。
インドの数学はアラビアに伝わりました。9世紀のアル=フワーリズミーの「アル・ジャブル・ヴァ・ル・ムカーバラ」は代数学(「アルジェブラ」)が論じられています。また「インド式記数法による算術」は「アルゴリズミーは語った」の一文から始まっています。計算の手順を「アルゴリズム」と呼ぶようになりました。
イタリアのピサのレオナルド(フィボナッチ)は、1202年に「算盤の書」を著し、インドやアラビアの数学を輸入しました。
■ 近世ヨーロッパの数学
ピエール・ド・ファルマーは、ローマ時代に書かれた「算術」を読み、気づいたことを余白に書き込みました。ファルマーの死後、48ヶ所の書き込みは数学者たちによって検証されていきました。
接線法は微分法の先駆けとなります。変化するものを分析する用具です。「変化の割合」はグラフには傾きとして表現されます。平均変化率は、傾きを意味します。微分は、ある一点における接線の傾きを求めることです。
アイザック・バローは、接線法と求積法が、逆の関係にあることを示しました。アイザック・ニュートンは、解析幾何の手法を研究していました。ニュートンは、曲線を「知さな点が時間の経過とともに動いた軌跡」と捉えました。曲線上の点は、「瞬間ごとに進行する方向」を持つことになります。「その瞬間の進行方向」は接線の傾きとして表れます。ニュートンはこれを「流率法」と名付けました。
オーギュスタン=ルイ・コーシーは、「限りなく」「近づける」といった曖昧な概念を使わずに「極限」をイプシロン・デルタ論法(ε-δ論法)によって定義します。
ジョン・ネイピアは対数の考案者。ネイピア[lim(1+(1/n))^n]数は、自然対数の底となっています。
■ 近代数学
レオンハルト・オイラーは、解析学や三角関数の定義に貢献します。原点を中心に角度θだけ回転した動径と単位円を設定し、直角三角形を作ります。オイラーの等式は、世界一美しい数式と言われます。
ジョセフ・フーリエは、「様々な関数は、三角関数の足し合わせによって表現できる」と考えました。フーリエは、三角関数と無関係な関数でも、三角関数に分解する方法を考案しました。周期関数の場合はフーリエ級数展開(三角関数の和)、非周期関数はフーリエ変換(三角関数の積分)になります。
カール・フリードリヒ・ガウスは、複素平面を考案します。エウクレイデスの第五公準「直線上にない点を通って平行な直線はただ一本引ける」(平行線公準)について、第五公準は、第一〜第四公準から独立している」。ならば「第五公準を否定するような別の公準」に基づく幾何学理論を作っても、矛盾の無い幾何学システムを構築できる筈です。
エウクレイデス幾何学は「まっすぐな平面や空間の幾何学」。非エウクレイデス幾何学は「曲がった面や空間の幾何学」です。曲率は、空間の曲がり具合を表します。エウクレイデス幾何学は、曲率が0の幾何学です。ベルンハルト・リーマンは「平行線が何本引けるか」に拘らず、曲率を抽象化します。曲率が場所ごとに変わる面にも対応します。
エヴァリスト・ガロアは、「群」の概念を使って「方程式が代数的に解けるための条件」を解明しました(ガロアの群論)。
ゲオルグ・カントールは、一対一対応によって集合のサイズ(濃度)を比べる方法を考案します。実数は、数直線が切れ目なく延びているのと同じように、「連続」しています。しかし、連続体仮説は、数学体系の中では証明も否定もできないことが証明されます。
■ 現代数学
バートランド・ラッセルは、自分自身を要素として含む集合を出発点として、集合論の矛盾を指摘します。このことをきっかけに数学基礎論が整備されていきます。ダーヴィット・ヒルベルトは、形式的な記号として扱う「形式主義」を主張します。クルト・ゲーデルは、不完全性定理「矛盾の無い理論体系の中にも、真であることも偽であることも証明できない命題が必ず存在する」「理論体系に矛盾がないとしても、その理論体系は「自分自身に矛盾が無いこと」を、その理論体系の中で証明できない」を証明します。
アンリ・ポアンカレは「直感主義」。ポアンカレが創始したのがトポロジー(位相幾何学)です。位相幾何学で重視されるのは「つながり方」。変形させて同じ形になる関係を「同相」と呼びます。レオンハルト・オイラーは、ノードとエッジによって図を作る「グラフ理論」を作ります。
アラン・チューリングは、抽象的な数学機械(チューリング・マシン)を考案します。命令の集合(アルゴリズム)を記号に置き換えて計算できる仕組みです。ジョン・フォン・ノイマンは、ハードウェアとソフトウェアを分離したノイマン式コンピュータの原理を考案します。
1961年、気象学者のエドワード・ローレンツが、コンピュータを使って気象のシュミレーションを行っていました。入力する初期値を少し変えただけで、全く異なる結果が出ることに気づいたのです。カオス理論をモデル化しようと考えだされたのが、「フラクタル幾何学」。「フラクタル」とは、「分割されたもの」や「断片」を意味します。細部が全体と相似になっています。
インド出身のシュリニヴァーサ・ラマヌジャン(1887年生)は、数学の公式集を手に入れ、その定理や公式を独自のやり方で確かめ、その過程で思いついた定理や公式をノートに書いていきました。イギリスのゴッドフレイ・ハーディと共同研究を行います。ラマヌジャンが発見した定理をハーディが証明します。ラマヌジャンは3年ほどで体調を崩して帰国しそのまま亡くなります。彼のノートは死後も研究され新しいアイディアをもたらし続けました。
■ 社会を支える数学
アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論は、重力の理論。「エネルギーや質量や速度を持つものの周りでは、時空が歪む」。
ヴェルナー・ハイゼンベルクは、電子の振る舞いを記述するとき「作用の順番を変えると結果が変わる」(交換法則が成り立たない)掛算が必要だと気づき、行列力学を構築しました。エルヴィン・シュレーディンガーは、波動方程式で電子を捉えました(波動力学)。
量子ビットは状態の重ね合わせを利用するビットです。同時に1でもあり0でもあるビット。一気に導き出された多数の結果を絞り込むには「量子アルゴリズム」と呼ばれる工夫が必要です。また、「状態の重ね合わせの現象が起こるような量子的な何か」利用する必要があります。どれも扱いが難しく、ビット数を増やせていません。
機械学習の一つが、ニューラルネットワークの深層学習。どの特徴を重視すると正解に合致し易いか(重みづけ)を調整します。
■ 最前線の数学と未解決問題
ファルマーの最終定理は、「3以上の自然数nに対して[x^n+y^n=z^n]を満たす自然数の組(x,y,z)は存在しない」。三平方の定理と同じ形です。アンドリュー・ワイルズによって1994年に証明されました。
ポアンカレ予想「単連結な3次元閉多様体は、3次元球面に同相である」。単連結とは「穴が開いていない」。閉多様体は有限な形のことです。2002年にグレゴリー・ベレルマンが証明し、インターネット上のサイトに投稿しました。フィールズ賞も辞退し、今も世間から姿を消して生活しています。
ABC予想を証明する論文を、2012年に望月新一が公開しました。正しいかどうかについては現在も議論があります。宇宙際タイヒミューラー理路(IUT理論)。従来の「数学宇宙」では、掛算は「同じ足算の繰り返し」を意味しており、足算と掛算は絡み合っています。しかし、別の宇宙と行き来させると、その絡み合いがほどけ、自由に扱えるのです。