「新型コロナワクチンの本当の真実」宮坂昌之 2021年 講談社現代文庫

 この本は、疫学者でもある著者が … 専門家がマスコミを介して発する情報の中にも科学の根拠が著しく不足している=出鱈目が少なくない、ことに義憤を感じて書いた、反ワクチン論者への反論。とても真っ当な本だけれど、こういう真っ当な本は読まれない。大衆受けする「暴露本」とか、出鱈目の限りを尽くす「陰謀説」は、大いに売れる。マスコミも取り上げる。一方で、テレビは新型コロナウィルスの恐怖を煽り立て … 気が滅入っています、と著者は言います。世の中そんなものですよ。人類の歴史始まって以来、ず〜〜〜とそうなんだから、諦めましょう。 以下はこの本の3章までをまとめたものです。


《序 新型コロナウィルス感染症は、ただの風邪ではない》

 新型コロナウィルス(SARS-Cov-2)は、ベータコロナウィルス属のB系統に属します。SARSウィルスは、重症急性呼吸器症候群の病原体です。MERSウィルスは、中東呼吸器症候群を起します。SARSもMERSも、不思議なことにパンデミックになりませんでした。なぜ感染が収束したのかは不明です。

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、平均5日前後で発症します。インフルエンザの致死率は0.1%程度ですが、COVID-19は2~3%ですから、ただの風邪ではありません。60歳以上の死亡率は5.7%に達します。

 感染予防の結果、インフルエンザの感染者は1/10000まで減少しました。感染力の強いインフルエンザをここまで減少さあせる要望策にも拘わらず、新型コロナウィルスの感染は収まりません。新型コロナウィルスの強力な感染力を生み出しているのが「ステルス性」です。

 殆どの二次感染は発症5日までに起きています。医療機関はPCR検査陰性を退院の条件にしているにで、陽性である限り、患者を退院させられません。コロナ病床が満床になって医療崩壊を招いています。

 ウィルス遺伝子を収めたゲノムは、N蛋白質と複合体をを形成し、エンベロープに包まれています。エンベロープの表面には、スパイク蛋白質が外に向かって出ていて、これがヒトの細胞の表面にあるウィルス受容体と結合します。

 私たちの人の細胞の表面には、血圧調整に関わるACE2がは発現しています。コロナウィルスのスパイク蛋白質はこのACE2に結合します。結合すると、スパイク蛋白質が分解・活性化してウィルス遺伝子をくるんだエンベロープと宿主細胞膜が融合します。ウィルス粒子が宿主細胞の中に送り込まれます。

 ACE2は、気道の内側を覆う上皮細胞の細胞膜上に存在し、肺の中に多く発現しています。感染がひどくなると、全身のいたるところで炎症が広がります。

 高齢者だけでなく、基礎疾患があると重症化のリスクが高くなります。慢性炎症は、炎症反応を起こすサイトカインが常時たくさん作られています。肥満も細胞組織の炎症反応の一種と考えられています。

《1. 新型コロナワクチンは本当に効くのか》

 mRNAワクチンはウィルスの遺伝情報の一部を主成分にしています。蛋白質に翻訳される遺伝情報=ウィルスのスパイク蛋白質に相当する部分のmRNAを糖質の膜で包み安定化したものです。

 ワクチンの効き目は、1)発病予防、2)重症化予防、3)感染予防。発病予防についてはファイザー製が95%、モデルナ製が94%です。デルタ株に変わっても、重症化予防は90%以上を保っています。

 mRNAワクチンの効果は6ヶ月以上です。ワクチンの効果持続期間は、当初の効果が50%以下に減衰する時間。

 ワクチンはB細胞が作り出す中和抗体を刺激します。また、新型コロナウィルスにはT細胞が関与する細胞性免疫、自然免疫を刺激する力もあります。1400個のT細胞が認識する目印(エピトーブ)があり、いくつもの目印に対して反応性T細胞が活性化されています。

《2. 新型コロナワクチンは安全か》

 mRNAワクチンの臨床使用は世界で初めてでした。ファイザー製とモデルナ製に深刻な副反応のリスクは低いことがわかっています。

 新型コロナワクチンで懸念される重篤な副反応は、3つ。1)アナフィラキシーは、アレルギー反応の一種。アドレナリンの筋肉内注射が必要となることがある。何らかの抗体が体内にできていて、それがアレルギー原因物質の侵入とともに免疫細胞に働きかけます。アナフィラキシーは、接種後15分以内に起きることが多く、15~30分はその場にとどまり様子を見ます。

 ワクチンの元になるmRNAからは病原性や感染能力に関わる要素を取り除いてあるため、ワクチン接種で感染することはありません。

 発熱などは、自然免疫が作るサイトカインが原因です。若年層に副反応が強く現れるのは、免疫力が高いからです。

 炎症を抑制するアスピリン、ロキソプロフェン、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬は、ワクチン接種後の痛みや発熱を軽減するのに役立ちます。

 ワクチン接種は2回で高い効果が得られます。2回摂取後2週間で充分な免疫ができます。

 動物を交配するときに、少し由来の違うものを混ぜると強い子孫ができます(雑種強勢)。異なるワクチンを接種すると、変異株に対しても高いレベルの中和抗体ができます。