「日本の歴史 上」 文藝春秋編 1997年 文春文庫
この本は、日本の歴史に関する沢山のエッセイで構成された本です。歴史についての様々な観点があって面白い本した。
大雑把に言えば、13000年前、旧石器文化をもとにした縄文文化が生まれ、紀元前200年に弥生時代が始まります。生禿の祖先の文化である縄文文化を中心に面白かったところを引用します。また、縄文文化についての私見も述べさせて貰います。
一般に、「縄文時代には、文化の中心は東日本の落葉広葉樹林帯にあった」「古モンゴロイド(南アジア系モンゴロイド)の身体形質は南方系で、文化の面では北方系」と言われますが、ホントウのところは分ってはいません。
「農耕が始まると、日本文化の中心は西日本の照葉樹林帯に移ってしまった」「支配者が山の上に天降る神話は、朝鮮半島に多い（檀君神話）」。一方で、日本語の形成には、北のアルタイ語族や、南のオーストロネシア語族とも関係が指摘されます。また、タミル語（現在はインド南端で使用される）の影響も強く、縄文人が世界規模の文化を共有していたことが窺われます。
「日本列島で煮沸用の土器が制作され始めた時期は極めて古く、更新世末、今から12000年前まで遡る」のも、採集狩猟民ならでは、世界の文明を取り入れると同時に、辺境の地でそれを時間をかけて高めていったからだと思われます。
江戸幕府の鎖国により、日本は世界水準の知識や技術から遠ざかったと考える人々がいますが、実態はそうではありません。江戸幕府の知識人たちは、海外の知見を十分に学んでいます。明治政府で実際に仕事をしたのは、湯島学問所などで海外の最新の学術を身に着けた人々です。薩摩や長州の無知蒙昧な下級武士に、明治維新を推進する能力はありませんでした。このように、海外の文化を取り入れながら、それを独自の、そして人類全てに普遍な水準に高める。そんな仕組を作り保つ知恵が、日本文化の神髄なのです。
因みに、徳川家の源流は、上野国新田郡得川郷（現・群馬県太田市徳川町）にあることになっています。これは、��川家にゆかりの生禿が古老から聞いた話では、祖を新田氏だとでっち上げたものだが、祖先が関東北部、つまり、東夷(縄文人)の地に住んでいたことは確かなようだ、とのことです。��川家の知恵は、縄文の「全てを受入れ熟成させる」知恵だったのではないか。だからこその鎖国ではなかったのか、と妄想しています。
生禿は、日本＝「辺境文化」仮説を持っています。「辺境文化」とは、まず、ペルシャなどの文物がシルクロードを経て正倉院に至り、そこで原産地以上に「時を止め、時を超えて」保存されること。次に、ケルト人や縄文人などの採集狩猟民族の「遺伝子」や「文化」が、弥生人などの定住民族の中に「隠れて」生き残ること、の２点を要件としています。日本と英連邦(イングランドではなく、ウェールズやアイルランド)などが、それに該当します。
日本と英国には、巨石文明の痕跡を始め、様々な文明の影響が「冷凍保存」されると同時に、それらが融合した高度な文化が発展しました。「ダビンチコード」でキリストの子孫が住むのは、正にケルト文明が色濃く残る地です。西洋文明の何たるかを知るものなら、この設定しかないと考えるのが普通でしょう。そして、言うまでもなく、正倉院御物は、世界の文明の最高の記録です。古代の海上交通は、辺境の島国にその文化の痕跡を残したのです。
「縄文人は生産量の多いドングリを食べた」「土器で煮沸すればドングリのシブは簡単にとれる」「東日本では秋から初夏に落葉し、開けた明るい林になる」「西日本の常緑樹の森は一年中暗く、人が立ち入ることさえ難しい」。縄文文明が東日本で栄えたのは、上記のような要因があったと考えられています。
日本の稲は様々な経路で入って来ます。「温帯栽培種は、朝鮮半島を経て日本に来た」「熱帯栽培種は、南の海から九州に伝わった」、また、東北には、既に縄文時代に北から稲が伝わったことが、遺跡の発掘から推定されています。
「古代人は地球規模の航海を行っていた」。その船は、二艘船（双胴船、カタマラン）で、ゴンドラ型船首尾をしており、「外洋の大波に対して耐波性を持つ」と言われています。記紀にも、現在の静岡県でそのような船を建造させたという記録がありましたね。
荒吐(あらばき)族との関係があるので、ほぼ定説になっている「邪馬台国は物部王朝」説をご紹介しておきます。記紀でも「神武天皇が九州から大和へ向けて東進する」「大和に先住する物部氏を討伐し、新しき王として君臨する」「しかし、神武は物部氏を天つ神の子孫と求めている」。「饒速日命は物部氏の祖神」で、「物部氏は倭の統治者」です。例えば、「大和平野の矢田坐久志玉比古神社(やたにますくしたまひこ)は、一族の社」です。物部氏の、以前の姓は「越智」で、「蘇我一族の推古女帝と聖徳太子は、邪馬台国を抹殺した」。そして、その一部を家臣として仕えさせた、と考えられています。
「初期の銅鐸の鋳型が北九州から発見されている」「製作者は伊福部氏」「弥生時代の畿内は銅鐸祭祀を行っていた（首長は饒速日命）」「弥生の末期にその国家は、同様に北九州から東遷した勢力によって崩壊した」。ゴジラ様の楽曲をお作りになった伊福部氏の祖先についての記述なので引用しました。
ついでに出雲については、「吉備勢力の進出によって、原出雲国はその制圧下におかれた」。その後、勢力を回復した「出雲王国は大和朝廷による統一国家の一角を占める」ようになります。そして、「荒神山を囲む六社は、国譲りに抵抗した建御名方神（たけみなかた）を祀る」のです。
前方後円墳は、３世紀後半に大和盆地で発生します。「古代中国の易の思想では、天は丸く三段で表され、地は四角で二段に象られる」「前方後円墳は、三段の円丘と二段の方丘を結合したもの」「天壇と地壇を合わせた形」で、中国の神仙思想の影響だと考えられています。
出雲の素戔嗚(須佐能)は、「120年ごろに生まれ、須佐神社に宮を営み（日本初の宮）」「瀬戸内航路を掌握し、山陽道から近畿地方へ遠征」し、「九州の伊弉諾一族を降伏させ」ます。「須佐能は九州統治が軌道に乗ると、饒速日を大和へ派遣した」「土地の豪族・長髄彦(ながすねひこ)と縁戚関係を結び、大神神社に館を構えた」。180年ごろに、「須佐能が、八雲村熊野に亡くなる（出雲国一宮：熊野神社）」「神祖(かむろぎ)熊野大神櫛御気野(くしみぬけの)命の諡(おくり)名で祀られる」。また、３世紀の初めに、「饒速日の遺骸が、三輪山（大神神社）に埋葬される」「大神神社は、饒速日の御陵に建てられて我が国最初の神社」となります。そして、「伊弉諾一族天照の孫・伊波礼彦(いわれひこ)は、饒速日の死後、日向と大和の二大勢力の合体を目指して、大和に入り、饒速日の娘・御年(みとし)と結婚し、神武天皇となった」。また、「３世紀半ばに吉備からの移住者が大和朝廷を開き、古墳を生み出した」とも。ともあれ、286年ごろ、「神武天皇は、大和の橿原の宮で即位した」。その頃から「古墳が作られ始める」というのが、記紀の主流？の解釈のようです。
古く天皇家が重視した神社は、大神(おおみわ)神社と、大倭(おおやまと)神社（現：大和神社）。大神神社の祭神は大物主大神。大倭神社は倭大国魂神(やまとのおおくにたま)。祭神の出自は、出雲と日向です。そして、纏向遺跡は、大神神社と大倭神社の近くの古代の都市遺跡であり、日本最古の大型古墳・箸墓古墳があります。
雄略天皇は「471年 稲荷山古墳の鉄剣の銘文」にある「獲加多支鹵(わかたける)大王」です。幼武(わかたける)＝雄略は、吉備の王の妃であった雅媛と婚を結び大和朝廷を作ります。さて、稲荷山古墳の被葬者は、乎獲居(をわけ)で、武蔵の国造(くにのみやつこ)。「早くから奥州に基盤を築き」、「奥州藤原氏の女系の祖でもある」安倍氏と推定されます。
古墳時代には、三つの王朝が確認されています。「息長(おきなが)氏が支配する越(北陸)から、越出身のオホド(男大迹)王が近畿に入って樹立した継体王朝」「オホドは、福井県で育った」。「継体は即位の後、大和の王権に繋がる皇女を皇后に迎える」「オホドは尾張と婚姻関係を結んだ」。いずれにしても、「６世紀前半は、まだ近畿の政権が全国支配を確立していなかった」「継体王権も越から近畿に入り、応神系の前王権を簒奪した」「近畿の王権の支配領域は西日本で吉備あたりまで」「吉備王権は近畿の王権と対立していた」ことは確かなようです。555年に「吉備に屯倉が設けられる」。そして、「継体の擁立に渡来系の蘇我氏の手が伸びていたとする見解もある」。こうして、大和朝廷の支配は固まったようです。
その後の歴史は、教科書でも習いますが、「臣の姓を持つ蘇我氏は、天皇の末裔」「連の姓を持つ物部氏は、大王家に仕える豪族」で、この大陸渡来の両家と天皇家の三つ巴の殺し合いに漁夫の利を得た、中臣(藤原氏)氏が天皇家を乗っ取って、統一国家を形成します。不比等は天照大神なる自らの所縁の朝鮮の神をそのシンボルとします。「対馬に阿麻氏留(あまてる)神社が存在する」のはその証拠の一つです。
藤原不比等が知恵者だったことを示す逸話をご紹介します。元明天皇をそそのかして、「全国的な飢餓と疫病によって穢れた」という理由で藤原京の廃都を決め、藤原不比等の主導で遷都の計画は進みます。当時、不比等は大幅な減税を行って民力の回復に努めていたので、藤原京の３倍の規模の平城京を造営するには工夫が必要でした。「慶雲５年(708)、武蔵野国秩父郷から和銅(自然銅)が献上される」「年号を和同と改める」。「和同開珎は、一文で一日の労賃(精米三升)」ので、銭作りは儲かる政策です。さらに、「銭十貫(一万枚)を蓄えれば位一階を授ける」ことで、平城遷都を成し遂げます。不比等の知恵が欲しいと思うのは生禿だけではありますまい。
日本には、３つの漁撈民の流れがあるそうです。まず、東日本沿岸の北アジア系漁撈民と、南アジアの暖流系漁撈民に大きく分かれます。そして、南方系は、さらに、インドネシア族の宗像系潜水漁撈民と、インドシナ族の安曇系家船漁撈民（肥人の一部、住吉系も含む）の流れがあります。
宗像系は、日本海沿岸に分布した隼系潜水漁撈民で、「宗像系の海人族は、宗像三女神の海女集団」となります。「気候変化のあった５世紀に太平洋沿岸に移動し、志摩に定着した」「鮑漁を営み、伊勢大神に奉納した」ということです。安曇系は、「南中国の漂海民(苗族の一部)で、東シナ海を北上し韓族を形成し、北九州に渡来」「安曇系海人族は、北九州と瀬戸内を中心に分布する、釣・網漁と航海を業とする海士」となります。
最後に、「東日流外三郡誌」を論じた吾郷清彦氏の考察をご紹介しましょう。日本書紀では、「神武天皇の即位の前に、長髄(すね)彦は饒速日によって惨殺された」ことになっています。ですが、外三郡誌では、「神武天皇の日向軍に敗れた長髄彦は津軽半島に亡命した」「邪馬台国が長髄彦の故地」で「阿蘇部・津保化(つぼけ)の両先住民族や、漂流渡来人も組み入れた連合種族を形成（荒吐族）」しました。
「荒吐族の思想は原始共産制」で、宗教は「万物の父を天の日輪」「万物の母を大地」とする、「天神七柱、地神十柱、人神十六柱」の多神教です。「邪馬台国の本拠は倭にして、生駒の里なりて、山陽に安日彦、山陰に長髄彦(の兄弟)を以て国王とせり」と記述してあるそうです。そして、「荒吐王国は津軽王朝」と推定しています。縄文の血をひく生禿が、八百万の神に惹かれ、東北＝大和朝廷からは鬼門(丑寅)に想いを馳せる。その理由が判りました。大和朝廷が恐れおののく鬼門に、倭が縄文の王国はあったのです。
