「リピーターをつかむ経営」
R・エリック・レイデンバッハ&レジナルド・W・ゴーク&ゴードン・W・マッカラン 2003年 日本経済新聞社
R・エリック・レイデンバッハ&レジナルド・W・ゴーク&ゴードン・W・マッカラン 2003年 日本経済新聞社
顧客が知覚する価値による経営管理の本です。分析・企画を業とする人間なら読むべき本の一冊でしょう。
顧客満足度調査は万能ではありません。「80年代のATTは、顧客満足度の上昇と、シェアの減少を同時に経験した」「価値に注力することを忘れ、見当違いのマーケティング戦略を立ててしまう企業が後を絶たない」「調査では、リピーターにならない顧客の内、6割以上は満足している」「満足度だけで顧客を繋ぎ止めることはできない」のは、全くその通りです。
顧客価値(CV)とは、「顧客が特定の製品に期待するベネフィットと、そのベネフィットに対して顧客が支払ってもいいとする価格の関係」と定義しています。そして、「多くの企業が価格競争と思っているものは、実は価値競争なのだ」「顧客が買わない理由に上げる「価格の高さ」は、提供するベネフィットと価格が見合わないと言っているのだ」「この誤解により、企業は見当違いな価格競争に走る」のも確かです。
CV管理は、「向上させるべき価値に焦点を絞る」ことが最初の要点になります。その前に、[市場×製品]を認識することが出発点になります。さて、市場は、「ある製品に特定のニーズを持った顧客群」です。
CV調査では、「顧客が価値をどのように知覚しているか」「顧客の視点から見た品質はどのように定義されているか」が捉えられ。顧客価値の要因が分析されます。
価値に関わる要因には2種類あります。その価値の必須要因(条件)と促進要因です。必須条件の重要度は高いが、「分散が殆ど無い」。「回帰分析の分析は、分散をもとにしている為、分散が少ないと要因と識別されない」ので要注意です。市場構造を決定する要因も、共分散構造分析では抽出されません。分析パッケージでは、分析できないものが、最も大切な解析になります。これに比べたら、多重共線性問題などは子供っぽいものです。
顧客価値モデルは、「価値促進要因と顧客価値の関係のモデル」です。
「製品×市場で情報の流れをまとめると、顧客に投入する費用と得られる収入を予測できるようになるので、予算作成が正確になる」という言葉は、日本では実感が無いかも知れませんが、アメリカでは現実感のあるものです。溜息が出ますね。日本ってトンデモない後進国ですからし方ありませんが。
CVに基づく経営は、「行動計画を作成し、必要な予算を立てる」段階に入ります。
主要な道標の「具体的な期限を設定できない場合は、計画を見なおす」「道標が無いと、多くの計画は失敗に終わる」「行動計画のズレに気付かず、達成されないまま終わってしまう」からです。
この本に記されている「マーケティング計画のルール」は、なかなか億が深いので引用しておきます。
・立案プロセスを円滑に進めることができるのは、計画が部門毎に別々に作成される場合である
・製品×市場の優先順位を決定する際、用いるデータの選択に充分な注意を払う
・事業部門毎に製品×市場マトリクスを作成する
・立案に必要な、顧客のニーズ、購買行動、などの情報を収集する
・プランニング・チームを選定する
トップ・ダウン方式で上から命令されたマーケティング計画が成功することは希だ
・プラニング・プロセスのリーダーを決定する
・プランニング・チームのメンバー全員にプラニング・プロセスを理解させる
・マーケティング計画の作成、検討、修正に期限を決める
・経営陣は、マーケティング計画の正式な検討プロセスを確立する
・管理職の月次会議で、マーケティング計画のパフォーマンス評価を行なう
盛夏を評価する為の、達成指標が設定されていなければならない
・計画を伝える
・財務上および戦略上の健全性を評価する為の指標を作成する
問題となるのは、あくまでも顧客にとっての価値。「比較買いの客は、企業がどのような価値を提供したところで、これらの顧客をつなぎとめておくことはできない」「劣った価値の顧客は、全体的に最もロイヤルティが低い」のです。
価値経路分析は、「CV分析から得られた自社が焦点を当てるべき業務プロセスについて、価値の向上に結びつくプロセスの改善と、収益を改善する費用削減を明らかにする」「一つの価値経路を構成するプロセス、コミュニケーション、行動の全てを評価する」ものです。要点は、「システムの各部分を別々に考えるなら、システム全体を機能させることにはならない」(ラッセル・アコフ)ことです。
=手順=
価値経路において重要なプロセスは何か把握する
各プロセスで、実際に価値提供の妨げとなっている活動は何か把握する
自社の現在の価値提案に対して、その阻害要因がどれくらい影響しているかを評価する
プロセス改善の優先順位を決める
自社の想定価値提案の達成に向けて、これらの改善が効果をあげているかモニターする
「価値経路分析を行なうには、価値経路全体にわたるプロセス、活動、情報のやりとりをフローチャート(プロセス・マップ)に描く」ことになります。マップを描くにあたって、陥りやすいのは、「プロセスの工程の理解が不充分なまま、一般化されすぎてしまう」「実際に行なわれているプロセスというより、「そのようにやっているはず」のプロセスがマップ化される」ことに留意しなければなりません。そして、「その組織内で「ものごとが実際にどのようになされているか」を捉える為には、マップの作成に現場の従業員が参画しなければならない」のです。
「顧客にとって重要なベネフィットを高め」「不要な費用を取り除く」道標(みちしるべ)となります。
[価値促進要因×業務プロセス]のマトリクスは、「自社の価値創造と提供プロセスを顧客の価値定義に合わせる」ものです。
「価値促進要因と費用に対する各プロセスのインパクトを評価」し、「価値提供と費用に大きな影響を与えているプロセスに集中」します。そして、「ベネフィットに寄与しない業務活動を取り除く」のです。
上記は、「価値経路全体について把握した問題と、CV調査で把握した価値促進要因とを系統立てて結び付けるフォーマット」です。「費用と便益に対する影響の大きさが示してあり、これを土台に価値に基づく改善機会の優先順位を決める」ことができます。
「顧客が定義し知覚した価値に焦点を当てたプロセス改善の任務に最前線にいる従業員を就け、ついでこれらの従業員が自ら提言する改善策の遂行に権限を移譲することは、その組織文化に影響を与える」。