「21世紀の全技術」 現代技術史研究会 2010年 藤原書店

 「面白い本だなあ」と思い手に取りました。技術の影の部分にも光を当て、未来の技術を考える、そういう視点に期待したからです。現代技術の批判眼を養うには、参考になる部分が沢山ありました。浅いというか近視眼というか、偏っていると思われる部分もありましたが、それは当然のことでしょう。特に、ホモサピエンスによる地球生態系の破壊を隠蔽し、正当化する「持続可能な発展」「SDG's」を容認していることは、地球環境の破壊者に与するものであることは明らかです。 以下はこの本の要約と引用です。


《はじめに》

 技術を見直し、その矛盾と問題点を検証することを目的とした。

《技術とは何か》

 持続可能な社会のために、技術はいかにあるべきかを論じる。

生活圏の技術

《1. 安心できる住居を作る》

 介護保険制度は在宅介護を目指しているが、狭く階段が急で介助機器の使えない住宅では機能しない。居住条件が良ければ、当時者の自立もヘルパーの介護も楽になる。障害を持つ人々は家の安全・広さ・快適性・居住環境・居住継続性に敏感で、家賃の支払い能力は高くない。安心住居は福祉の土台である。

 欧米諸国は乱開発や住宅価格高騰を抑制し良好な住環境を形成するために、自治体が価格規制を含む土地の先買い権で公有地を増やし、土地の長期保有は自治体だけに許した。土地利用についても絶対的権限を持ち、計画開発を可能にした。

 我が国の市場原理を基本とする住宅・土地政策の下では、高価格で不便な住宅地が形成され、不動産業者に利する住宅・都市政策になっている。欧米の土地利用計画が「地区詳細計画」として住民と行政の合意のもとに詳細に決められているのと対照的である。

 日本国の住宅の低水準の一因は住宅の寿命の短さにもある。英国は84年、米国は64年、日本国は27年(2008年)である。

 日本国には法律で義務づけられた住宅の最低基準が存在しない。共同の玄関・トイレ・台所があれば一戸の住宅と数える。最低面積の基準は無い。

 市場原理にそぐわないものがある。社会保障・医療・教育・福祉サービス・雇用・住宅と都市のインフラがそうである。西欧近代国家は、この6項目について社会政策として展開し、福祉国家の基礎を作った。

《2. 食の安全、その基本は何か》

 国際的に見ると日本の食料自給率は極端に低い。食品の廃棄の量も膨大である。孤食・貧食・飽食は、特殊な事例ではなくなった。老人ホームのお年寄りは、幼稚園・保育園の子供たちと触れ合うことで元気になる。

 遺伝子組み換え技術は、種の壁を超えて他の生物種の遺伝子を導入する技術である。種の壁を超えることができるのはウィルスや細菌(微生物)。

 本来、他の生物の遺伝子を導入しても、その生物が印をつけて働かないようにしてしまう(メチル化)。モンサントは、その不活化を防ぐ仕組みを開発した。同社は、遺伝子組み換え作物で市場を独占し、世界を種子の20%を支配するまでになった。

 日本の農村は、高齢者過半数を占める「限界集落」である。大規模農業は生産性が高く、農産物の低価格化をもたらす、という考え方で日本国の農政は一貫している。

 米国の長期戦略の一つは、余剰農産物の市場として日本国を確保すること。農産物の輸入自由化は農業生産に打撃を与えた。

 戦国時代から江戸時代まで、権力者は治水で農地を広げてきた。江戸時代以降、荒川・利根川の付替え、木曽川・長良川・揖斐川が合流する氾濫原の治水などが敢行された。戦後はダムによる治水に変わる。

 食品の安全性(使用基準)は、動物実験を基礎に、一生毎日食べ続けても安全な量の百倍の安全率をかけて決まられている。農薬の安全性の確認試験は農薬メーカーの試験に依存している。

 高度成長期の日本国の農業(米作)は、若い働き手が都市に出ていき、化学肥料・農薬・機械化の省力化農業に変貌した。

《3. 水と暮らし》

 水は、太陽エネルギーによって海面や陸地から蒸発して大気中の雲となり、雨となって陸地に降り、川に集まり、海に入る。世界の平均降水量は810mm、日本国は1690mmである。世界の四大文明は、大河−インダス川・チグリス・ユーフラテス川・ナイル川・黄河で発生した。

 人間の体重の60%は水分で、一人一日二リットルの水分を採り、1.5リットルの汗を出す。

 明治時代以降も、農業者が水利組合・土地改良区を組織して農業用水の保全・管理に当たり、その使用権は「慣行水利権」として守られている。

 工業用水は、ほとんどの産業が冷却用で、大半は河川に依存していた。井戸水の利用が進み、地下水位低下・地盤沈下を発生させた。

 現在は、水道用水・工業用水とも減少傾向にある。都市の一人あたり給水量が減る要因は、節水型機器の普及と漏水防止対策の推進にある。

 汚染は発生源で個別に処理することが容易であり望ましいというのが原則。

《4. 家庭電化はどこまで必要か》

 冷蔵庫は、ガス圧縮式の場合、物質が液体から気体になる時に周囲の熱を奪う気化熱を利用する。エアコンは、同様に冷媒の熱移動を利用している。ヒートポンプ式のエアコンでは、外気との熱交換にによっている。

 デジタルTVは、アンテナからの信号受信回路(チューナー)を除けば、コンピュータと同じものになっている。デジタル家電製品では、半導体が中心的なデバイスとなる。

 EUでは、家電製品は廃棄までを製造者が責任を持っている。設計段階から、リユース・リペア・リサイクルしやすい製品を作るようになる。

《5. 望ましいクルマ社会は可能か》

 「カイゼン」の提案にはノルマがあり、従業員の自主的業務とされ、残業代も支払われなかった。トヨタ生産方式の核には、会社への忠誠心がある。

 実感なき好景気と呼ばれた時期、自動車・電気などの輸出産業は空前の利益をあげた。円安を維持するためのドルの買い支え、円の流出、企業減税、派遣労働者大量導入による労働分配率の低下が背景にあった。

 モーターは電流を与えると回転力を生じ、回転力を与えると電流を発生する。発電する時は、回転力を吸収するので「回生ブレーキ」になる。ポンプで油圧を発生させる油圧ブレーキと回生ブレーキは、コンピュータの制御で強調して動作する。

 クルマは機構、電子回路、ソフトウェアからできている。ソフトウエアだけで安全を確保することは不可能である。ソフトウェアの動作は異常になると自由度が大きいため、安全を確保できない。最後の安全確保は、機構部分にするべきである。

《6. 袋小路に入った現代医療技術》

 第二次大戦後、医療技術の進歩は、感染症との闘いに大きな成果をおさめた。抗生剤をはじめとする新薬が開発され、全身麻酔と輸血が確立されて、メスが全身に入るようになった。

 慢性疾患の場合、自覚症状に乏しいこともあって、診断における臨床検査の比重が高まる。血液自動分析器は検体の高速処理を可能にした。CTやMRIや内視鏡などの画像情報も豊富になった。放射線治療など治療手段も増えた。大腸菌を用いた遺伝子組み換え技術による人インスリン、インターフェロン、B型肝炎ワクチンなどが実用化された。

 慢性疾患を完全に治療する技術はまだない。対処療法でも苦痛が緩和され、食欲も増すことで自然治癒を促す。

 抗生剤の使用は、使用の過程で細菌の耐性が生じる。日本国は抗生剤の生産量と使用量で世界一。再考を要する状況である。

 日常生活動作(ADL)を拡大するリハビリテーション医療が登場した。廃用性症候群を防ぐ早期離床の大切さも明らかになった。リハビリの目標は、ADLからQOLに転換された。リハビリ(機能回復)と看護・介護が統一して考えられるようになった。

 自覚症(問診)の主観性を排除するために、検査が発達した。逆に問診が軽視された。どの検査をどのように行うかは、問診により決まる。形式だけの問診で検査に走れば無駄と負荷を患者に強いる。

 診療過程は、医師と患者の対話の繰り返し。その過程で構築される信頼関係が治療の基盤である。患者の闘病記録には、医師の人間性を欠いた言動がどれほど患者を傷つけているかが示されている。言葉遣いや会話の技術では解消できない。慢性疾患では、患者自身が疾病に向き合うことを支援できるかどうかが課題になる。専門医制のもとで専門分化に走る指導医。米国に倣う補助者の拡大の中で、「そんなことは補助者でもできる」と放棄する医師も多い。薬害や検査公害も患者の信頼を損ねている。

 代替医療に「機序の説明がない」という批判は、科学と技術の混同である。

 社会保険診療報酬体系では、薬剤や検査といった有形の技術が偏重され、問診・相談・看護など無形の対人技術の評価が低い。日本国内の医療機器の導入は世界一。マンパワーは世界の最低水準にある。医療費抑制の結果、日本医療の質は低下した。

 医療費は人件費が半分を占める労働集約産業。医療の質の向上と医療費抑制の両立は難しい。

変わりゆく産業社会の技術

《7. 材料の大量生産は変えられるか》

 構造材料は強度や耐食性が重要である。機能材料は、物理量(エネルギー/情報/物質)の変換・伝達・蓄積を目的とする。

 地殻に存在する鉱石は、酸化物や硫化物のなので、製錬・精錬による還元が必要となる。資源量の多少によりコモンメタル(普通金属)とレアメタル(希少金属)に分けられる。

 新自由主義下の世界経済は、国際間の企業買収と合併を加速させた。その結果、巨大な国際資源メジャーを生み出した。金属資源も有限である。容易に採掘できる鉱床は既に採掘し尽くされている。低品位の鉱石からの採取は費用がかかり、廃棄物も増加する。金属スクラップのリサイクルが必要不可欠である。

 コークスは石炭を乾留(酸素を遮断して蒸し焼きに)して有機物を揮発させ、孔状の炭素塊としたもの。木炭製鉄は、イギリスやドイツにおいても、日本列島の砂鉄の「たたら製鉄」においても、伐採による森林の消失をもたらした。石炭の利用によって鉄鋼生産量は飛躍した。

 日本列島は、金銀銅の鉱物資源の豊かな国だった。栃木の足尾銅山、愛媛の別子銅山の鉱害は、明治時代の銅輸出で激化した。

 応力は、荷重を断面積で割った力。歪は、伸びを元の長さで割った伸び率。金属中の原子は電子によって結合されており、伸縮する。弾性限界を超える力を加えると、金属は変形する。自由電子は、位置関係がずれた原子の変位に合わせて動く。

 製錬で発生した廃棄物(スラブ)の多くは、環境から隔離して堆積される。環境汚染を引き起こす。

 ネオジム磁石に欠かせないレアアースメタルの9割以上が中国あると言われている。

 半導体製品には大量の原料とエネルギーが消費されている。半導体用には、ノルウェーやブラジルで算出する、純度の高い珪石が必要。金属シリコンを還元するには大量の電力を要する。半導体の製造工場は、大量の水を消費する。発光体などの化合物半導体は、材料自体の毒性が強い。

 集積回路で半導体デバイスには、電流のキャリア(担い手)として電子と正孔の二つを利用するバイポーラトランジスタと、電子と正孔のいずれかをキャリアとして使用するMOS電解効果トランジスタがある。MOSの高速化が進み、LSIのほとんどがMOSで作られるようになった。

 半導体は、金属とは逆に、温度が上昇すると伝導度が増える。半導体には自由電子はない。温度が上がるか光が当たると、そのエネルギーが共有結合を切り自由電子を発生させる。その空席は正孔(ホール)と呼ばれる(P型半導体)。pn接合ダイオードや、pnp構造にするとバイポーラトランジスタができる。

 ソフトの更新は、もはや過剰な追加に過ぎず、メーカーの買い替え促進策でしかない。

 プラスチックは、安価で加工が容易であり、使い捨て製品に使われる。プラスチックは、優れた特性を多く持つ有機材料である。

 回収されたプラスチックの多くは、燃料価値までしかリサイクルされていない。プラスチックリサイクルの経済性はマイナスである。

《8. エネルギーはどうなるか》

 エネルギーの使われ方は、火(熱源)、光、動力である。枯渇性エネルギーは物質起源、再生可能エネルギーは太陽光起源である。光は質量を持たないので、廃物を残さない。排熱は宇宙空間へ放出される。

 植物からの二酸化炭素の吸収と放出が均衡し、二酸化炭素量に変化がないのが、カーボンニュートラル。石炭や石油も、過去の動植物の変成によって生じたものだが、時間尺度が違う。

 燃料電池自動車も電気自動車もそれ自身は高い変換効率だが、水素や電力の生産を合わせるとそれほど高い効率ではない。

 物質の拡散状態もエントロピーで表せる。自然界の変化は、拡散の度合いが増える方向に起こる。

 石油価格は、大きな傾向としては上昇を続けている。

 自然界に存在するウラン鉱石のほとんどが核分裂しない。核分裂反応を起こすウラン235は0.7%しか含まれていない。質量の差を利用した遠心分離法やガス拡散法で濃縮して3%まで高めて核燃料を作る。濃縮度を90%以上にして連鎖反応を起こさせるのが原子爆弾である。原子炉を運転すると出てくるプルトニウムは、原爆の材料に使われる。プルトニウムを混ぜたMOX燃料はフランスやドイツでは使われているが、不安定なため米国では使われていない。

 原子力発電は、未来に非利益を残す。受容することができない技術である。

 太陽光発電設備は、系統電力網が存在しない発展途上国の村落で利用されている。独立電源として太陽電池と鉛蓄電池を組み合わせたソーラーシステムを設置する政策をとっている。蓄電池の充電・放電のサイクル数は1000サイクル程度。3年に1度の交換が必要である。

 太陽光発電価格は高い。風力発電の価格は低い。風車の回転時には、低周波が発生し、健康被害を起こす。EUでは、風力発電量を12%に設定している。不安定さは、連系能力によって吸収されている。

 ダムの貯水量は底に溜まる土砂により減少し埋まっていく。ダムを作らない小型水力は、環境に与える影響が少ない。発展途上国にも普及が期待される。

 バイオマスは、バイオ(生物)とマス(量)の造語。エネルギー収支は、投入エネルギーに対する産出エネルギーの比率。大半のバイオマス燃料は、エネルギー収支が1以下であり、バイオ燃料としての意味をなさない。

 人間の食料をバイオ燃料の生産に振り向けることは、食料危機を招く。

 水素燃料電池は、水素の製造工程において二酸化炭素を発生させるので、二酸化炭素を減らすことには貢献しない。

 スマートグリッドは、供給者と消費者の間の電力伝送における課題を解決する。電気自動車の電池を系統と接続する構想がある。バッテリー寿命の低下や、車依存度を軽減しない、などの問題がある。

 気候は複雑な現象であり、長期予想は困難である。大気中の二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスは、可視光は通すが赤外線は吸収する。地球は大気によって平均15℃前後に保温されている。

 IPCCの報告書は、意図したデータ処理によるものだと批判されている。エコ商品は本当にエコなのか、という疑問がある。森林伐採や地下水汲み上げによる砂漠化が地球温暖化のによって引き起こされたという誤解も広がっている。

《9. 高速・大量輸送の行方》

 輸送の基本は、質量と距離と速度。輸送システムの要件は、重力に抗してある高さを維持すること。

 質量の大きな船舶や飛行機では、舵を切ってから旋回するまで数十秒から数分の時間を要する。軍艦は最適速度範囲を超えて、無理な高速化設計がなされている。ホバークラフトやヘリコプターは、エネルギー効率が悪い。旅客機が日欧間の一往復で費やすエネルギー消費量は、乗客一人当りで一世帯の一年間のエネルギー消費量に匹敵する。

《10. コンピュータと通信の未来》

 文字や音声や映像がデジタル情報として共通に処理されるようになり、汎用のデジタル設備で処理可能になった。情報の内容もデジタルに統合され、通信とコンピュータ技術も融合した。有線と無線の融合、通信と無線の融合も進んだ。

 音声や映像は、人間との接点ではアナログ形式の情報である。信号を遠方に送るには、信号を乗せて運ぶ搬送波を使った方が効率が高いので変復調が行われる。多数のチェネルの信号を乗せる多重化も行われる。

 アナログ波形をデジタル化する時、アナログ派形の最高周波数の2倍周期でサンプリングすると、忠実に現信号に復元できる(サンプリング定理)。

 デジタルデータは、開始符号や終結符号、エラー回復のための誤り制御符号と組み合わせて、一定の長さに区切り、ブロックとして送る(パケット)。パケット通信は、宛先・差出人・荷物の識別番号・分割順の番号などのヘッダ情報を付け加えて、データを小包として伝送する。

 ノイマン型の処理方式は、記憶装置にプログラムやデータを取り込み、中央処理装置の制御装置が記憶装置からプログラムを一行づつ逐次読み出して、処理を実行する。引き算は補数の足し算、掛け算は足し算の繰り返し、割り算は引き算の繰り返しで行われ、全ては足し算に還元される。CPUは制御装置と処理装置からなる。汎用コンピュータのOSは、UNIXが使われている。

 コンピュータの演算は、人間の大局観や直感による判断とは異質な処理である。記号化されていないアナログな世界を、人間は記号化して処理する。コンピュータは記号を与えないと処理できない。人工知能の定義は、知識を記号として与えることを前提としたものに変更されている。人工知能が意識を持つことが否定されたわけではないが、人間の行っている認識や思考を実現することについては先が見えない。

 移動通信(モバイルコミュニケーション)の一つ、携帯電話の基地局は半径3〜10Kmのエリア内での通信が可能である。このような小無線ゾーンを「セルラー方式」と言う。携帯電話は、常時基地局と交信し、現在位置を無線ネットワークに知らせ、位置情報のデータベース(ホームレジスタ)に登録される。

 プロトコル(通信規約)や製品仕様などの標準化が進み、競争の焦点が価格競争に移った。特許や著作権など知的財産や、業界標準の主導権が事業展開の鍵となった。

 コンピュータの導入は人員削減によって償却されるものとして導入された。小売店のPOS、銀行のATM、駅の自動改札。合理化や無人化が促進された。業務の拡大と雇用の削減は、経済の拡大期には均衡していた。

 ネットワーク上を行き来し、交渉しながら情報を収集するソフトウェアをエージェントと言う。人工物を身体に埋め込んで、体の機能を補助・強化した人間をサイボーグと言う。ロボットスーツは、使用者を障害するなど実用へのハードルは高い。

 人の行動もトレース可能になっている。メモリが安くなり、データが大量に蓄積される。管理と監視が一体になっている。

《11. 大量生産システムは労働をどう変えたか》

 反応を伴う場合はプロセス、成形加工や組立の場合はラインと呼んでいる。

 大量見込生産は、標準品を設計・製造する。消費者は安価な製品が容易に入手できる。フォード・システムは変動のない定常運転が本質であり、同じ作業が正確に繰り返される。

 大量生産システムを実現した技術のキーワードは、分業・互換・規格・自動・連携である。量産には互換性が必要であった。部品だけでなく、加工・組立の手順も規格化し、円滑に繋ぐことができる。規格なしには大量生産はできない。

 人間の労働は、投資対効果からみて、自動化が(コストに)見合わない「隙間」作業になった。

 正社員・派遣社員・請負社員と同一職場でありながら社会保障や安全管理などが分断され、労働組合も連携されていない。

《12. 自己増殖する軍事技術》

 軍事と産業が結びつき軍事を主導するようになったのは19世紀半ばからである。技術の優越性が戦況に影響を与えると認識されるようになった。軍事技術は国家戦略に基づくから、競争原理は働かず、経済性を無視して開発される。秘密主義が徹底され、軍と軍需産業は癒着した関係の下で、軍事産業は戦争政策推進の圧力団体になる。

 ネットワークの一部としての兵器運用の典型が、対空戦闘システムであるイージス艦。レーダーで目標物を察知し、コンピュータにより多数の目標物に対し、自動で兵器を選んで攻撃できる。平板アンテナ4枚が四方向に固定して装備され、回転せずに全周の半球空間の探索ができる。対空・対水上・対潜水艦の全局面で、同時に200以上の目標を、探索・選別・判断・攻撃を迅速に行う。レーダーが目標を捕捉・追尾してデータを得ると、その情報は指揮決定システムや武器管理システムに入力され、GPSデータなども使用して艦対空ミサイルの発射に必要な計算が行われる。10以上の目標を同時に攻撃することが可能である。イージスシステムは、ミサイル防衛システムに組み入れられ、飛来する弾道ミサイルを人工衛星、レーダーなどで探知・追尾し、迎撃・破壊する役割が加えられた。日本国はイージス艦6隻を配備している。

 技術面では、軍事用と民生用という境界は消失した。暗号技術についても区別はない。

 第一次世界大戦の戦闘形態は、兵器・弾薬の生産や補給にかかわる施設・鉄道・船舶などを攻撃目標とした。非戦闘員を巻き込み、被害の増大をもたらした。ゲルニカ爆撃から本格化した無差別爆撃は、敵対国相互で応酬された。

 第二次大戦では、産業基盤・生活基盤の破壊、戦争継続意志の破壊を目的とする戦略爆撃の思想が生まれた。戦略爆撃による産業の破壊や補給線の破壊が行われ、民間人の犠牲も増えた。核兵器・生物兵器・化学兵器は従来の戦争の限度を突き破った。情報通信技術によって、新しい戦闘が組織されている。

 報道規制を行って、被害者側の映像が公開されるのを抑え、戦争の悲惨さを隠蔽するようになった。

 兵器開発の決定は、国家と軍事企業の共同で行われ、軍と兵器製造企業は一体化していった。米国防総省は、第二次大戦後、多数の大学と研究契約を結び、自然科学・工学部門の大半が軍から支出されるようになった。

 冷戦期に拡大した軍需産業は、冷戦終結で危機を迎え、統廃合に追い込まれた。巨大軍需企業だけが、政府から主契約者として受注するようになった。米国の軍事費は増勢に転じた。

 ミサイル防衛計画では、日本国は米国から共同開発を求められ、2006年から共同開発に踏み出した。開発した武器は、武器輸出の例外扱いとされる。

 米国が開発したMDシステムは、海上自衛隊のイージス艦が標準ミサイルSM3により大気圏外で弾道ミサイルを撃ち落とし、失敗した場合は航空自衛隊が地上で連携するパトリオットミサイルで迎撃する。軍産官の複合体が、能力に疑問があるまま開発と配備を強行した。軍事技術開発が自己目的化されている。

技術がもたらす自然と社会の破壊

《13. 開発が脅かす人間社会の存立基盤》

 農業は自然破壊である。伝統農法は、自然の原理を踏まえたものでもあった。

 建設省は「都市計画法」により農地を市街化区域に取り込んだ。

 近年は、環境省予算の多くが「地球温暖化対策」に割かれている。

《14. 廃棄物問題はリサイクルでは解決しない》

 経済成長とともに廃棄物の発生量は増加する。

 プラスチックは発熱量が大きく、燃焼過程で大きな塊状になる。従来の焼却炉では処理が困難だった。焼却温度の850℃以上への更新や償却ガス処理の改良を実施した。

 不燃物は埋め立て処理される。埋立処理場の確保が自治体の最も困難で重要な課題となっている。

 燃料価値にしかリサイクルできない一般容器プラスチックは、家庭での分別をなくし、一般ゴミと一緒に償却して、エネルギーを回収するサーマルリサイクルへ転換すべきである。

 金属製品の廃棄物が蓄積する「都市鉱山」は重要なレアメタル獲得源となる。

 廃棄物の発生を抑制するには、製品の寿命を延ばし、使い捨てを抑制し、修理システムの確立が必要になる。廃棄物の抑制は、現在の資本主義、大量生産-大量消費と衝突する。

 米国を発生源とする市場原理主義=グローバリゼーション。規制や抑制のない(短期)経済優先の社会システムが世界を席巻している。

《15. 頻発し巨大化する事故の恐怖》

 事故の要因は、実行の失敗、計画(認識)の誤り、規則違反に分けられる。規則違反の背景には、教育の不足や違反を許す暗黙の了解など組織の問題がある。

 品質を規定するのは設計。設計思想の誤りにより欠陥が組み込まれる例が多い。

 電子制御系が関わるエラーは、再現性が保証できないので、原因究明が困難なことが多く、設計上慎重な対応を要する。原理的に安全が保証できない「制御安全」は、補助的なもの。

 地震による機器・装置の故障や、発電所内が停電になる全電源喪失事故(ステーション・ブラックアウト)では、同時に複数の故障を起こす共通要因故障が起き、多重化された安全系も一気に突破されてしまう。

 損害保険会社も、原発事故は補償しない。

 重要なことは危険か安全かという状態の確認である。ロボットが停止してしまったとき、動力用電源を切らずにロボットに近づくことは自殺行為である。

 危険検出型と安全確認型。安全であることを確認できた時、はじめて装置を動かすことが許容できる。

 フェールセーフは、故障や事故が起きた時に、安全側に誘導する設計概念。自動車などは、どんな故障が起きても安全側に誘導することは原理的に不可能である。フールプルーフは、人間が誤った行動をしようとした時に防止すること。

 大深度の海底石油掘削は、事故に対する対策が立てられない。可能になるまで凍結すべきである。

 重要なことは、事故の被害を受ける可能性のある人々が判断できるように、正確な情報を提供すること。

 医療事故の要因は、当事者の不注意・技術水準、薬や医療機器、労働環境、学説・医学そのものが挙げられる。看護士を削減し、ベッド回転率を高めるために、患者の状況もつかめないまま業務こなす現状。情報管理では事故の防止は図れない。責任追求の強化は、医療従事者を萎縮させ、診療の不作為(事なかれ主義)や、リスクの大きい領域からの撤退をもたらす。

《16. 漂流する技術者》

 顧客のニーズを見つけ出す、顧客のニーズを作り出すことが、技術者の仕事になった。他社にない機能を「差異化」と呼んで考案し、他社が搭載した機能が自社製品いないと後追いで搭載する。無駄な機能が満載される。

 近年の電子機器は、新たな技術よりも、新たな用途や使い方(ユーザーインターフェイス)が売れていく。製造から販売・保守まであらゆる過程で収益を上げるビジネスモデルを考える。

 現在の技術は、採用したビジネスモデルを実現するための構成要素として「集められる」ものになった。中核となる技術は自社で開発・保持するが、それ以外の技術は必要になった時に調達・購入する。

 OEMがさらに進んで、製品の設計まで依頼するODMが普及してきている。開発と設計の分離により、技術者の繋がりは絶たれる。中核技術に関わる技術者とその他の賃金格差は大きくなった。設計は仕様に記されたことを実現するだけでなく、ユーザーの使い方を想定して、不都合がないように工夫する。技術者が全体を見渡してことができる能力は重要な資質である。ODMは全体を見渡す能力を失わせる。品質の低下を恐れて外注化できず、原価が下がらないジレンマに苦しむ企業もある。

 大学工学部の志願者数が減少している。理系の卒業生の生涯賃金が、文系よりも5千万円以上低い。

 設備投資が滞った日本国と最新設備の新興国の差が縮まるのは速い。先進国では。高付加価値製品の生産に移行する。国際規格外の独自製品は採用の機会が限られることもある。

 「本当に人々に役立つ製品なのか」という問を発することができれば恵まれたる職場である。

《17. 化石燃料を主動力とする近代経済社会はどうなるか》

 化石燃料は採集状態で燃料である。化石燃料や鉄鉱石や石灰岩などは、地球史的な生物濃縮の成果である。化石燃料は生物源有機物。石灰岩は海生生物遺骸。鉄鉱石はシアノバクテリアと鉄バクテリアが沈殿させた酸化鉄に由来する。

 失業なき社会を維持したことは、旧社会主義国の功績である。ヒトラーは権力掌握から3年で完全雇用を実現し、国民の支持を固めた。

 価格破壊から所得破壊が進行し、総需要が減少して雇用を縮小させた。生産性向上が賃金上昇をもたらした好循環は崩壊した。

 金融膨張に支えられていた実物経済が縮小に転じた。旧社会主義圏の解体により、膨大な労働力が世界市場に登場した。国際分業が再編された。

《21. 21世紀の技術はいかのあるべきか》

 西欧のいくつかの国は、労働者の人権が保証され、セーフティネットが機能している。セーフティネットだけでは解決できない矛盾が存在する。

 ネオジム鉄磁石の発明は、モーター・計測器・コンピュータなどの小型化・高性能化を実現した。

 「生活圏」は、歩いて行ける距離に商店街・保育所・小学校・病院・公民館・公園や公共森林・遊歩道・農地がある、安定した生活の場である。人と人のつながりによって物と金を動かしていく地域経済システム。誰がどのぴょうな関係で作り使うのかを考えることが大切である。

 ペットボトルは年間200億本製造され、一人当り200本飲まれる。自販機は全国に250万台設置され、一台は一軒の家庭と同程度の電力を消費する。

 現代技術の総体は、歴史の産物である。情報技術の進歩は、買物や食事や移動を人との会話なしに済ますことができる。都市は人が密集しながら、触れ合うことなく行き過ぎる場になってしまった。

 イラク戦争は石油資源争奪の意図から企画された。世界は軍事力や経済力を背景とした地政学によって支配される。

 人間の活動は、地球の環境容量を超えている。環境負荷を減らすには、人口を減らすか、生活水準を下げるか、技術水準を上げることが必要だ。