「中学理科の教科書(物理・化学)」 滝川洋二 2008年 ブルーバックス

 難解な大学水準の物理学を離れて一休み? 電車の行き帰りに気軽に読める中学生の理科。とは言え、馬鹿にしてはいけません。知らないことが次々に出てきます。楽しめました。 以下はこの本で面白かった部分の、要約と引用です。

《1. 光の性質》

 反射板には、どんな角度から入射しても、元の光源の方向に反射します。左右が逆にならない(合わせ)鏡を応用したコーナーキューブが使われています。立方体の一つの頂点を囲む三つの面のように、三枚の鏡をどの二枚も垂直になるように組み合わせたものです。

 角膜から網膜までの間の物質は、どれにも水が多く含まれていて、屈折が大きくなりません。光が最も大きく屈折するのは、空気中から角膜に入るときです。水晶体の役割は、実像ができる位置を微調整すること(ピント合わせ)です。水中メガネをかけるのは、角膜の前に空気をおいて、陸上と同じように見えるようにするためです。

 物体が見えるのは、物体の表面で光が乱反射するおかげです。

 サラダ油の中に、透明な耐熱ガラスの容器を沈めると見えなくなります。耐熱ガラスの屈折率が、サラダ油とほぼ同じだからです。

 全反射プリズムは、ほぼ100%光を反射する鏡になっています。望遠鏡や双眼鏡や写真機の部品として使われています。

 太陽を背にして目の前に霧吹きすることによって、虹を見ることができます。

 人以外で三種類の色に対応した検知器(センサー)を持っているのは、猿や鯉など一部の脊椎動物に限られます。哺乳類の多くは、二種類の色に対応したセンサーを持っています。

 光の三原色で色が作れるのは、光の性質によるものではなく、人の視覚の仕組みによるものです。

《2. 音の性質》

 水中は空気中よりも音が伝わりやすい世界です。イルカやクジラは、水中を伝わってくる音を顎の骨で捉えて聞いています。音は遠くまで届くので、周囲の状況を知ることができます。

 コウモリやイルカは、超音波で物体を見ていると言ってよいかも知れません。

 「あいうえお」の音声の違いは、音の波系の違い、音色の違いです。人は、口の形、喉や口の中の空間の形を変えて、様々な波形の音を出しています。

 ノイズキャンセル・ヘッドホンでは、ヘッドフォンについたマイクで周囲の騒音を捉えます。その騒音に含まれる耳障りな騒音を捉えます。その音に含まれる耳障りな音だけを打ち消す波形の音を作り、ヘッドフォンのスピーカーから流すのです。外部の騒音とヘッドフォンが作った音が重ね合わさって打ち消し合い耳障りな音が消えます。

《3. 力の働き》

 100gの物体に働く重力の大きさが約1Nです。

 力が釣り合っているとき、重力と釣り合う上向きの力<垂直抗力>が存在します。

 圧力の単位は、N/m^2です。パスカルで表すこともできます。大気の底(地上)では、1立方cm当たり約1kgの空気がその上に存在し、約10Nの重さが加わっています。

 地球の大気の底(地上)では、1cm^2あたり約1kgの空気がその上に存在し、約10Nの重さが加わっています。大気圧は、床・壁・天井、あたゆる向きの面に同じように働いています。

 水中の物体の下面は上面よりも低いところにあるので、下面から押す水圧の方が大きくなります。このため物体は、全体として上向きの力を受けます。物体は、物体が押しのけた水の重さ分の浮力を受ける。

 フックの法則[弾性力 = k × 重さkg/cm × バネの伸びcm k:バネ係数]。

《4. いろいろな物質》

 金属には、展性:叩くと薄く広がる性質と、延性:引っ張ると細長く伸びる性質、があります。元素の7割は金属です。

 亜鉛と銅の合金は真鍮(ブラス)と呼ばれ、金管楽器の材料として知られています。青銅(ブロンズ)は、銅と錫の合金。銅に比べて硬い金属です。青銅の青緑色は、錆(緑青)のためです。錆びていない青銅は、金色の金属光沢があります。

 アルミニウム-亜鉛-マグネシウムの合金がジェラルミン。取り出しにくいチタンが工業化されたのは1948年。軽くて密度の高いチタンは、腐食しにく性質を持ち、ロケットや潜水艦やジェットエンジンに使われました。最近では、メガネフラーム。ゴルフクラブ、自転車のフレーム、人工骨格にも用いられています。チタンは、銅やニッケルよりも地球上にたくさんあります。

 有機物(有機化合物)の「機」は、「生命活動」の意味です。有機物は、炭素を含む(骨格とする)物質です。現在、地球上では3000万種類以上の物質が知られていますが、その大部分が有機物です。二酸化炭素は、空気中に0.04%含まれています。

 原子には他の原子と結びつく「手」があります。炭素原子には、最も多い4つの手があり、一列に繋がったり、環を作ったり、枝分かれしたり、様々なパタンの繋がり方ができます。

 空気のない宇宙空間を飛ぶロケットの燃料には、水素などの燃料を燃やすための液体酸素も使われます。

《5. 物質の溶け方》

 溶けている物質を溶質、溶かしている液体を溶媒、溶けた状態の液を溶液と言います。水溶液から個体の物質を取り出すことを再結晶と言います。似たものは似たものに溶けます。水と油は分離します。

 浸透は、二つの液が同じ濃度になろうとして生じます。生物の体をつくる細胞膜や粘膜は、殆どが半透膜でできており、浸透が重要な働きをします。

 牛乳に含まれる粒子や砂糖分子が沈まないのは、水分子が粒子に衝突して弾き飛ばしているからです。沈殿しない溶液をコロイド溶液。含まれる粒子をコロイド粒子と呼びます。

 光の波長に比べてお大きな粒があると、そこで光の進路が乱されて並進できません。光が散乱すると、濁って見えます。牛乳に含まれている蛋白質や脂肪分の粒子は大きいので、光は散乱します。1ナノメートルのナノは、10億分の1。1nmはコロイド粒子の境界の大きさに相当します。

 ガラスの分子の配列は、液体のようにバラバラで、結晶になっていません。このようなものを非晶質(アモルフェス)と言います。

《6.物質の状態変化》

 室温で窒素分子や酸素分子の速さは、数百m/秒。

 液体表面から空気中に出ていくのが蒸発。液体の内部からも蒸発しているのが沸騰。海水温が1℃上昇すると、体積膨張により78cm海面が上昇します。摂氏温度は、スェーデンのセルシウスに因んで名付けられました。水の沸点は、気圧が下がると低くなります。

 土星の衛星タイタンの表面温度は-180℃。氷でできています。地下から水が噴き出すのは、地球の噴火に相当します。沸点が-161.5℃のメタンは液状になっており、大気はメタンが蒸発した気体を含んでいます。メタンは、小川に流れ、湖を作り、蒸発して雲を作ります。

 ブランデーは、ワインなどの果樹酒を蒸留して造ります。分子が小さいほど沸点が低い性質があります。

 都市ガスは、天然ガス(主成分はメタン)を-162℃以下に冷やして液化した液化天然ガス(LNG)です。ナフサは、ガソリンやプラスチックや線維や薬品などの原料です。

 熱は二つの物体の温度の高い方から低い方へ移動します。1gの物質を1℃上昇させる熱量を、その物体の比熱といいます。

 物体内部の粒子の運動を熱運動と言います。金属と木では、金属の方が冷たく感じるのは、金属の方が熱が伝わり易いからです。

 台風は海面から水が蒸発する時に蒸発熱を吸収し、雲になる時に放出される凝縮熱(潜熱)によって発達します。

《7. 静電気と電気回路》

 オームの法則[V=R(Ω)×I(A)]。

 アンペアブレーカー(契約ブレーカー)と、漏電遮断機としての(安全)ブレーカーは異なります。

 電流には、電気分解や半導体のように、+の電流が流れる場合も、−の電流が流れる場合もあります。

《8. 電流の働き》

 電力(W)は、1Vの電圧がかかって1Aの電流が流れる時に1W。

 コイルを通る磁力線の数の変化を妨げるような磁場を作るように、コイルに誘導電流が流れます。電磁調理器では、電流を変化させて、置かれた鉄の鍋の底の磁場を変化させます。鍋底に渦電流が流れ、ジュール熱が発生させます。鉄は磁力に引き寄せられるので、渦電流によって反発力が生じても問題ありません。

 発電所からは、高い電圧で電気を送り出します。工場には数万Vの電圧を供給し、家庭には百Vの電圧で供給します。変圧が必要という事情が、交流の採用を有利にしました。コイルに直流を流したのでは、変化する磁場は現れないので、電磁誘導は起こりません。

 電子レンジのマイクロ波から力を受けるのは水分子です。酸素は−に水素は+に帯電しています。その結果、水分子は電場の振動に従って揺さぶられるのです。

 高周波はそのままでは、スピーカーを振動させません。音を出すには−側をカットして流します。

《9. 原子と分子》

 OHの付く物質は、語尾に「ノール」を付けます。「ポリ」は「たくさんの」という意味です。

 ブドウ糖(グルコース:C6H12O6)は六角形。ブドウ糖がたくさん繋がるとデンプン((C6H12O6)n)になります。

 花火は、金属の「炎色反応」を利用したものです。

《10. いろいろな化学変化》

 有機物が燃焼した時には、必ず二酸化炭素と水ができます。

 使い捨てカイロは、通気性のよい袋の中に、鉄の粉、活性炭、食塩、水分を保つ保冷剤が入れたものです。鉄は吸水性の塩分があると錆びやすくなります。

 鉱石から金属の単体を取り出す操作を「精錬」と言います。人類が初めて精錬に成功した金属は銅でした。紀元前5500年頃のペルシャです。トルコとイラン国境のアララト山はマラカイト(孔雀石)でできており、焚き火ソしたときにマラカイトの主成分である炭酸銅から銅(あかがね)色の銅が生成されたと考えられています。最初に実用化された金属は青銅(ブロンズ)だった言われています。

 銅の融点は1085℃。鉄は1536℃です。地殻中の鉄は、酸化物である赤鉄鉱や磁鉄鉱といった鉱石として存在します。薪などを炭化させて炭を作り、鉱石を積み重ねて長時間にわたって加熱する方法で鉄を取り出します。紀元前1700年頃の西アジアで、ヒッタイト人は鉄器を使って栄えました。

 現在の製鉄は、鉄鉱石とコークス(石炭を蒸し焼きにしたもの)と石灰石を溶鉱炉に積み重ねて加熱し、炭素を多く含む「銑鉄」を得ます。銑鉄を転炉に入れて酸素を吹き込むことで、炭素を酸素と結びつかせて適度に取り除き、鉄を製造します。

《11. 運動と力》

 [移動距離=1/2×加速度(m/秒^2)×時間(秒)^2 v=at]。[力(N)=質量(kg)×加速度(m/秒^2) 加速度(m/秒^2)=力(N)/質量(kg)]。質量1kgの物体を1m/秒^2の加速度で運動させる時の力を1Nと決めています。

 放物運動は、等速直進運動と鉛直方向の自由落下運動を合成した運動です。

 作用と反作用は同時に現れ、反作用の無い力は実在しません。

《12. エネルギー》

 「仕事」をどのような方法で行っても、「仕事」は常に同じになります(仕事の原理)。

 1秒間にどれだけの電気エネルギーが他のエネルギーに変わるかを表すのが電力です[電力(W)=電圧(V)×電流(A)]。

 糖質と蛋白質は1g当たり4kcal、脂質は9kcalとして熱量(カロリー)が計算されています。

《13. イオンと原子構造》

 アルカリは、「灰」を指します。電気を運ぶ粒(電気を帯びた分子)を、ギリシャ語で「行く」の意味の「イオン」と名づけました。水に溶かした時、イオンに分かれる物質を電解質と言います。

 酸性はプラス(H+)の(水素)イオン、アルカリ性はマイナス(OH-)の(水酸化物)イオン。中和すると、水素イオンと水酸化物イオンが結びついて水分子ができます[H- + OH+ → H2O]。

 水分子は、酸素と水素のつながり[H-O-H]が角度を持っています。水素原子内部の電子が、酸素原子の側に偏って存在します(極性)。Oが―のHがプラスに帯電しています。

 極性の大きい溶媒はイオン性物質や、極性の大きい物質をよく溶かします。無極性の溶媒は、無極性溶媒をよく溶かします。石鹸分子は、水に溶け易い親水基と、脂に溶けやすい疎水基を1分子中に持った棒状の分子です。

 金属がイオンになる時は、電子を失って陽イオンになります。金属の陽イオンへのなりやすさをイオン化傾向と言います。

 電子は原子殻と言う軌道上を回っています。電子殻は内側から、K殻、L殻、M殻と名前がついています。化学的性質は、一番外側の電子殻にある電子の数「価電子」によって決まります。元素の周期表では、アルカリ金属元素と水素は、外殻にある電子の数(価電子)が1です。2族も反応性の激しい金属です。

 右から二番目の元素(17族)は、価電子が7で、1個の電子を得ると、一番外側の電子殻が8個になり安定します。−1の陰イオンになりやすい性質があります。これらの元素は、ハロゲン元素と言い、「塩を作る」という意味があります。周期表の右上には非金属が、左下には金属が並んでいます。

 原子どうしの結びつきを化学結合と言います。共有結合・イオン結合・金属結合があります。ダイヤモンドは、代表的な共有結合の物質です。共有結合は大変強く、有機物は殆どが共有結合です。炭素原子の四つの手は、炭素原子が共有結合を作ることができる数なのです。イオン結合は、強い力を加えると割れ、水に溶ける性質があります。

 金属の原子は電子を放出して陽イオンになり易い性質があります。金属全体を動き回る自由電子を共有するのが金属結合です。結合の力が、全ての方向に同じように働いているため、力を加えても割れたりせず、展性と延性をがあります。

 水が氷になる時は、+と−の部分が引き合って、分子が規則正しく並んで結合をつくります(水素結合)。

《14. 科学・技術と人間》

 燃料電池は、水素を酸素と化学反応させて電子を移動させ、電気を取り出します。メタノール燃料を直接電極に送り込む方式は、小型化が可能で、ノートパソコンなどに活用され始めています。メタノール燃料をカートリッジ交換により充填します。メタノールは、バイオ燃料のの一つ。食糧生産との競合が無い原料が課題となっています。

 ウラン鉱石に含まれるウランの核子は238。ウラン235も0.7%含まれています。ウラン235の原子郭は、中性子を当てると、二つに分かれて、数個の中性子を放出します。中性子が激しく運動して熱が発生します。

 放射線には、ヘリウム原子核であるα線。電子のβ線。波長の短い電磁波であるγ線、などがあります。

 液晶は、液体と固体の中間。分子の方向は結晶のように並んでいるのに、液体のように流れる性質を持っています。液晶そのものは光を出しません。画面の裏側の照明の光を、通したり通さなかったりします。

 半導体は、導体と不導体の中間。電流を制御することができます。シリコンに少量のリン原子を加えて、自由に移動する電子を作ります(N型半導体)。シリコンにホウ素を加えて「正孔(電子が入る穴)」を作ります(P型半導体)。P型半導体とN型半導体を接合したものは、光電池にも使われています。電子の流れを作ることで、発電を行います。