「臨終の七不思議」 志賀貢 2018年 幻冬舎新書
薬剤師は死に向き合うこともあるので、大学では「死」と向き合う「心技」を教えています。なので関心をもったのですが … 医者にして作家の死に向かう心得は、聞いた風な、というか神秘に興味本位というか … ちょっとビックリでした。 以下はそのような中でも参考になった部分をまとめたものです。
■ はじめに
臨終を迎えた患者さんは、心と体にどのような変化を起こしながら召されていくのか、私の体験から分析しました。
■ 前触れの不思議 〜 最期を悟る
生命の残り火を燃やすような「中治り現象」。
「お迎え現象」は、親族が会いに来る/会いに来たなどの幻視や幻聴。
今から50年前、胃潰瘍はストレスによって発生するという学説が主流を占めていました。強酸の胃の中では細菌やウィルスは生存できないと考えられていました。1982年、胃の中のピロリ菌が胃潰瘍の発生に関わっていることが証明されました。
人が危篤状態に陥ったりすると、体内の病変や化学反応などから、独特な臭いを発します。犬は重病に陥った買主の傍を離れません。猫なども臨終を察知する能力がありそうです。
バビンスキー反射。「傍にいて」「手を握って」「抱きしめて」など看護師たちに幼児性を示すようになると臨終が迫っていることを察知します。
臨終が近づくと人恋しくなり、「家族に会いたい」「友人に会いたい」「昔世話になった人に会いたい」と訴えます。
死期が近づいた男性は助平になります。視床下部の性欲中枢は女性の2倍の大きさがあります。
■ 死に場所の不思議
末期状態になると消化管から出血します。口からは吐血、腸から外に出るのは「タール便」。体が衰弱すると、血行障害が起きます。胃では、塩素とヘプシンの分泌が盛んになり出血します。
膀胱から尿が出なくなる尿閉。腎臓の働きが低下し、尿が腎臓で生成されなくなります。尿毒症に陥り、臨終へと向かいます。
筋肉が収縮を繰り返し震えが止まらない痙攣も起きます。
細胞は体温が42℃以上になると死滅する危険があります。酵素は42℃以上の温度には耐えられません。体温を37℃以下に抑えておくことが、治療の上でも大切なことです。
在宅での臨終には様々な困難が生じます。生きる期間が短くなっても、家での最期を選ぶ人もいます。
患者さんが危篤状態に陥ったときには、体に触れることが大切です。手の温もりは、臨終を迎えた人に安らぎを与えます。
死の直前には、家族やスタッフに「ありがとう」を連発するようになります。
■ 眠りと死の不思議
世界で初めて全身麻酔を行ったのは花岡青洲。鎖国が解けた明治になり、全身麻酔の研究は世界に広まり、現代の麻酔へ発展しました。
睡眠の中枢が視床下部にあります。ノンレム睡眠とレム睡眠は、鳥類や哺乳類に見られます。レム睡眠は急速眼球運動を伴います。レム睡眠のときは、男女とも性器が勃起します。松果体からメラトニンが分泌される時は、深い眠りに落ちています。
亡くなった人が枕元に立つのは、立たれた側の人の心の作用でしょう。
■ 看取りの不思議
臨終間際でも家族の声は患者に届いている、と思われます。視床下部や聴覚中枢は、息を引き取っても少しの間機能しているという研究があります。
体の中で一番生命力が強いのは、睾丸の中の精子。心臓が停止した72時間以上生き続けます。心停止後4分で脳細胞は死滅します。睾丸の温度は体温より3℃低い。精子は低体温に強いのです。卵巣から卵管に排卵された卵子の寿命は12時間以下です。
縄文時代の平均寿命は15年だっという推測されています。
■ 死相の不思議
死が近づくと目の輝きは失われます。頬はくぼみ、皮膚には張りがなく、鼻も肉が落ちて尖ってきます。こうした顔貌を「ヒポクラテス顔貌」と言います。
危篤状態に陥ると、時刻や場所などの判断(見当識)がつきにくくなります。
回復の望みがなうなると、患者さんに声が出なくなることがあります。呼吸器の機能が低下し、横隔膜の力が弱まると殆ど声が出なくなります。
■ 三途の川の不思議
認知症の患者さんが外出し、遠くまで出かけてそのまま帰れなくなった、という例がけっこうあるのです。
三途の川の渡し船の船賃は六文。500円以下です。生活保護受給者の場合、火葬から埋葬までの費用、約20万円が支給されます。
病院での入院が長期になると病院から転院を迫られます。第三次病院は治療が目的ですから、2週間程度で退院を迫られます。第二次病院で入院期間が長くなると、第一次の診療所や療養施設に移ります。
遺族が、遺体引き取り拒否をする事例が増えています。面倒なことが起きそうな患者さんは早く退院して欲しいのです。それでなくとも、患者が死ねば病院は恨まれます。「神が治し、医者が治療費を取る」フランクリン・ルーズベルト。医者は「患者が死ねば悪魔、助かれば神様」です。
死亡診断書は、亡くなる24時間以内に医者に掛かっていることが条件になります。かかりつけ医がいる場合には、医者は死亡診断を行い死亡診断書を作成することができます。
■ 供養の不思議
コリン・マレイ・パークス博士は「喪の心理」で知られています。氏の研究では、妻の死後1年間、夫が心筋梗塞で死ぬ危険が高まります。ナチュラルキラー細胞(NK細胞)が、心が安定して、笑いが絶えないような生活を人の中では増加します。
独居の生活でも一日一食は誰かと一緒に食べることをお奨めします。