「戦略思考トレーニング」 鈴木高博 2013年 日経文庫

 ボスコン出身の今猿が書いた本。戦略思考を実際の例を用いて説明しています。説明は今猿ですから軽薄で上っ面、読むに堪えないのですが、実例の部分が面白い。問題形式で実際の経営戦略を考えさせている形式もグッドです。そうだよな〜と膝を打つことしばし。久しぶりの日経文庫の当りでした。嬉しい!

 肝心の面白い部分は、問題の解答になってしまうので、引用するのは止めておきます。


 今猿の言う『論理思考』は、言葉や図表で表現してみることから始まります。つまり、神経科学が実証した事実から言えば、思考とは何の関係も無い、思考が終わった後の / 単なる知識に基づいた当て嵌めに過ぎない『言葉を考える』世界です。今猿ごときは、生涯一度も思考したことなどありはしないので当然ですね。但し、思考力以前の知識の応用力という観点では、[売上高=顧客数×購入量×単価]のような数式で、要素を分解して見るという技能は必要不可欠です(思考能力を高めることとは何の関係もありはしませんが)。

 商品の性質が優れているのか劣っているのかは、物の見方考え方の問題です。「スイスの最高級の腕時計と、百円ショップで売っている液晶のデジタル時計。時刻が正確なのは百円ショップの時計の方です」「全ては価値観の問題です」。

 『ワールドビジネスサテライト』が見られている理由は、「やはりキャスターの小谷真生子さんではないでしょうか」は、生禿も熱烈酸性です(アルカリ性ではありません)!溶けそうです。

 この本には『非常識になる訓練をしよう』という章があります。今猿は非常識が背広を着ている人種なので、今更に非常識になる必要はありませんヨ。

 「競争相手は常識を超えたところから攻めてきます」その通りですが、違う!この場合の常識は『業界常識』。非常識な業界常識を打ち破る素人の常識が、革新を実現するのです。革新は人々に広く受け入れられ、常識になります。本来の『普通の考え方』を『感受する』能力が求められます。生禿は“10年後の常識を考える”と言いますが、実はこれも思考とは無関係な出鱈目です。では何故こんなことを言うのかと言えば、思考能力の無い人に『何故それを思いついたのか』を説明するのが面倒だからです。

 リクルートの情報誌の生みの親、くらたまなぶさんの発想術は「右手にロマン、左手にそろばん」。あるべき姿を「発想し、現実に落し込む」のだそうです。これも、後付の大衆向けの説明ですネ。

 婚約指輪は、米国では給料の2か月分。ディビアスは、高度成長前の給料の低い日本で「給料の3ヶ月分」をキャッチフレーズにしました。これが、日本の婚約指輪がゴージャスな理由です。愛の証は大きな方が好い。生禿はこういう偶然を豪快に支持します。

 ある事例を読んでいると、『プロダクト・ポジショニングとは、陳列場所を決めることでもある』ということを痛感させられます。それがどれなのかは、この本を読んでみて下さい。

 アメリカのアウトレットが安い理由が、「米国の時間給の高い人たちは、往復2時間かけてアウトレットで節約する機会費用は時間費用に見合わない」からだというのは納得ですね。日本のアウトレットではそんなことになる立地はあり得ません。

 「低価格のプリンターには、印刷速度を遅くする命令が組み込まれていた」「プログラムを変更するだけ」だからだ。成程です!

 「それがわかっているのに、それを避けられないことがある」。そうだと思います。後知恵では何とでも言えますね。分っちゃいるけど止められないのが、サラリーマンの情けないところでしょう。

 「郊外ではどの町にもスズキの看板を掲げた自動車修理会社がある」「スズキの軽自動車は、修理部品の共通化されている」からだそうです。“軽のスズキ”!納得しました。

 「だいたいの大きさを推定する」の章では、フェルミ推定の問題が出題されています。言葉(=数式)を考える訓練になります。是非!お勧めです。因みに、生禿は、四角錘の堆積の公式[底辺 × 底辺 × 高さ ÷ 3]を忘れていました。それを円錐の公式を用いて近似値を得ることを思いつきませんでした。知識の応用力が弱っていることをあらためて実感しました。頭を鍛え直さないといけませんね。フェルミは、フェルミ=ディラック統計で有名なあのフェルミです。「学生に概算問題を出していたことから、フェルミ推定と呼ぶようになりました」。

 「富裕層のような、一部が所有する場合はざっと1割、ヘビーユーザーを想定する場合は2割、五分五分ならば5割という感覚」だそうです。確かに!「フェルミ推定では、推定式が見当外れだと、結果が桁外れに違ってきます」。その通り!

 にかくまず「仮説を立てる」そして「仮説を検証していくのです」。これが今猿が早く結論を出す秘訣です。幅広い知識に基づいて仮説を立てて、修得した技術で検証していく。幅広い知識を活用するために、(思考は孤独なものですが)「チームで仮説を作る」。それが今猿のやり方です。思考とは一切無縁なのがお解り頂けましたか?

 「コカ・コーラが辛口、ペプシコーラは甘口。ブラインド・ティスティングの『ペプシチャレンジ』で、スーパーマーケットでのシェアは逆転」。スーパーでは「コーラの瓶の独特のデザイン」は姿を消していた。「ペプシは不良っぽい、クールなイメージを押し出した」「若年層ではペプシが支持された」。「『ニュー・コーク事件』の結果、伝統のコーラを愛する機運が高まり、コカ・コーラはペプシを引き離しました」。「結果は読めないですね」。確かに!簡単ではありませんね。

 最後に「戦略思考には知識が必要だ!」と、今猿が言う思考は『思考』では無いことを白状して終わります。

 それでも、《おわりに》の、「目先の利益と引き換えに、企業として重要な財産や人材を削り落とすようなことを選択する企業は、長期で見れば自殺の意思決定をしていると言われても仕方ありません」は、至言です。