「こころはいかにして生まれるのか」 櫻井 武 2018年 ブルーバックス
神経科学の基づいて「こころ」を考えるのは、私の探求テーマの一つ。ブルーバックスだし読まなきゃ(^^)/ 以下はこの本の引用と要約です。
■ はじめに
多くの行動は、意識下で選択される。多くの場合、意識は後付けで理由を見つけているだけ。行動を決定するのは意識ではなく、こころである。
■ 脳の情報処理システム
人の脳は、身体で使うエネルギーの約20%を消費している。そのうち、80%はニューロンの静止膜電流を生み出すためのポンプの駆動に使われている。
軸索(アクソン)は細胞体から出るときは一本だが、分岐して他のニューロンの樹状突起や細胞体に接している。
大脳皮質は、六層構造になっている。
人では、前頭前野と頭頂葉下部の皮質構造が発達している。頭頂葉下部は、空間を理解する能力にかかわる。
大脳皮質には、表面に垂直なコラム構造(円柱構造)≒モジュールがある。
視覚野では、左側の視野は右の脳に、右側の視野は左の脳に入る。左目は右脳に、右目は左脳にではない。その意味で、身体の左右の情報は交叉して脳半球に入るという原則は視覚野にはあてはまらない。
視覚野は、視覚情報を、線分の傾き、色、明るさ、どちらの目から入ってきたか、…など様々な要素に分解して、別々のコラムで処理しているのである。
「味、匂い、色などは意識の中だけに存在する」ガリレオ・ガリレイ。
様々な情報は前頭前野で統合される。
生物は様々な情報を受容しているが、重要な情報を優先して処理する「注意」機能を持っている。注意は、前頭前野が感覚野に命令することによってなされている。
前頭前野には、ワーキングメモリー(作業記憶)がある。
前頭前野は「メタ認知」=自分が「何を認知しているか」を認知する機能がある。
側頭葉と頭頂葉の接合部にあるミラー・ニューロンは、他者の行為の意味や意図を理解する。
■ こころと情動
感情を客観的に評価して記載するための概念が「情動」。「情動」は全身の応答である。
情動が発動しているときは、喜びでも恐れでも、自律神経系の交感神経を活性化させる。同時に、「ストレス反応」と呼ばれる、内分泌系の変化が起きる。ステロイドホルモンが分泌される。
キャノンは、情動表出(心拍数の上昇など)と情動体験(感情の知覚)は並列で起こるとした。そして、身体の反応がさらに脳に知覚され、情動体験が修飾される。「泣くことによって悲しみは強くなる」ということだ。
最も遠くから認識できる表情は笑顔。争いを生まないためのものだろう。微笑は、礼儀正しさ、きまり悪さをごまかす、不安でひきつった表情でもある。情動は表情を介して伝播する。
情動は意識下に発動する。生物は、大脳皮質の機能なしに、状況を判断して行動を選択するようにできている。動物は情動により生存確率を高めている。
■ 情動をあやつり、表現する脳
大脳辺縁系は、情動と記憶に関与している。感覚・情動・記憶・行動は綿密な関係にある。嗅覚は、視床を経由せずに大脳辺縁系と接続している。
学習を要しない反射を「無条件反射」。条件反射は「条件付け」とも呼ばれる。条件付けによって成立した記憶を「情動記憶」という。陳述記憶と情動記憶は別の機構によって保持されている。
情動記憶は、解消することができる。恐怖に結びついた感覚刺激(手がかり)や状況(文脈)を体験させて、恐怖がないことを学習させる。
陳述記憶は、「言葉に置き換えた形」で引き出せる。情動記憶は、その場の状況(文脈)にも関連付けられる。「嫌な予感」の基になる。
視床は感覚系の情報を集め、大脳辺縁系や脳幹、大脳皮質の一次感覚野に送り出す。大脳皮質と辺縁系は並列に働いている。
海馬と偏桃体は綿密な神経連絡がある。外界の情報は偏桃体を介して入力される。
大脳皮質で判定した情報は、やや遅れて偏桃体に届き、最初に起こった応答を修正することも多い。
情動は、過去の経験から最適な行動を惹起するために、記憶を備える必要がある。
痛みを伝える経路は、末梢経路ですでに二系統に分かれている。早い伝達と、遅いが痛みの不快さを伝える経路。
■ 情動を見る・測る
恐怖を感じた時、小動物は三つのパターンの行動(すくみ・闘争・逃走:3F)をとる。動かないことも捕食者の目にとまりにくくする合理的な行動。
情動の状態を知るには、行動・自律神経・内分泌を観察すればよい。心拍数や血圧や発汗 …。情動刺激は好ましいものも嫌なものであれ、吊り橋効果のように、心臓がどきどきすることに変わりはない。
人間同士も、意識下で情動のやりとりをしている。
状況によっては副交感神経(迷走神経)が優位になることもある。「気分が悪い」のは心拍数や血圧が低下し、失神を伴うことがある。涙を流すのも副交感神経の役割。交感神経と副交感神経の使い分けは、まだよくわかっていない。
fMRIは、ヘモグロビンの酸素飽和度を検出して、血流の状態を見る。
偏桃体外側部は、感覚系からの情報を受け取る場所でもあり、記憶を保持する場所でもある。特定の感覚を特定の感情に結びつけるための記憶である。
前頭前野は発達した動物では、大脳辺縁系の情動は抑制されている。障害や疲労によって、制御ができず感情が暴走することもある。
■ 海馬と偏桃体
古い陳述記憶を取り出すには、海馬は必要ではない。但し、成立してから数年以内の記憶の一部は海馬に保持されている。
結びついた神経細胞集団のネットワークが「記憶痕跡」である。海馬は新たな記憶をつくる装置。長期記憶は主に側頭葉に保持される。
知覚された情報の意味を評価するのが偏桃体の役割。偏桃体に障害を持つ人たちは、恐怖を感じない。
コルチゾールは、偏桃体の機能を高め、海馬を抑制する。陳述記憶は弱められる。記憶にも情動にも、全身の状態が影響する。
■ おそるべき報酬系
快感という報酬は、動物の行動を促進する。
ドーパミンは腹側被蓋野(VTA)のドーパミン作動性ニューロンによって作られる。ドーパミンが側坐核に放出されると、その原因と認知した行動が強化される。
報酬系は学習能力の高い、書き換え可能なシステムである。
側坐核が快感のもとになったと判断した行動が強化される。主体的な快感と行動の強化は別々の経路で起きている。
不確実性は、報酬の評価を高める。確実に得られると決まっている(慣れた)報酬の評価は下がる。報酬予測誤差は報酬の予想と実際との差。報酬予測誤差が無くなると「飽きる」。報酬予測誤差がマイナスだと「がっかりする」。報酬を期待しているときには「わくわく」する。
側坐核は覚醒にも関わっており、ドーパミンが作用することにより覚醒レベルを亢進させる。どーパインは偏桃体にも投射し、恐怖を和らげる。
報酬は、動物に試行錯誤を繰り返させる。
ドーパミンは運動制御にも関わる。パーキンソン病は運動の障害を伴う。
■ こころを動かす物質とホルモン
神経伝達物質には様々なものがある。アミノ酸類(グルタミン酸・GABAなど)や、モノアミン類(アドレナリン・セロトニン・ドーパミン)など。
アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基を持つ。モノアミンはそこからカルボキシル基が外れた形を基本骨格とする。アミノ基が一つだけだから「モノアミン」。
アミノ酸類の神経伝達物質は、速く、狭い範囲に情報を伝える。モノアミン系の神経伝達物質は、ゆっくりと広範囲に情報を伝える。
グルタミン酸作動性ニューロンの神経末端は、樹状突起の少数の突起に作られ、その周りをアストロサイト(グリア細胞)が取り囲むことによって、局所的に作用する。
モノアミン作動性ニューロン(モノアミンを神経伝達物質とするニューロン)は、軸索の末端が数珠状のふくらみを多数持った形態をしており、そのふくらみからモノアミンが分泌される。
グルタミン酸の神経伝達は、認知機能や記憶などを受け持つ。モノアミン類の神経伝達は、気分や睡眠・覚醒などにおいて働く。
モノアミン類の受容体は、多くの種類があり、人の場合で600種類以上が存在する。
ヒスタミンは覚醒に関わっている。末梢の器官では炎症にも関わっている。風邪薬などにはヒスタミンの作用を阻害する「抗ヒスタミン薬」が入っており、眠気を引き起こす。
抗鬱剤として使用されているのは、SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)。セロトニンは「安心のホルモン」というのは、根拠が無い。セロトニンは多面性を持った物質。偏桃体に働いて恐怖学習にも関わっている。セロトニンは覚醒物質でもある。セロトニンは、全ての調整役として働き、適切な状態に留める役割をしている。
バソプレッシンは様々な働きを持つ。交尾相手の選択にも関わっている。バソプレッシンはオキシトシンと協働して、雄が交尾した雌と一緒にいることを好むように作用する。子供を世話することも促す。
モルヒネは、GABAの分泌を抑制するオピオイド受容体に作用する。GABA作動性ニューロンはドーパミン作動性ニューロンを抑制している。結果としてドーパミン作動性ニューロンを亢進させる。
脳内にはモルヒネと同じ作用を持つペプチドが複数存在する(エンドルフィン)。
末梢神経で作られ、脳に作用する物質も多い。
■ こころとは何か
動物は、感覚(入力)から行動(出力)への変換のシステム。
行動と認知は並列に起こる。
大脳基底核は、運動野と協調して、運動プログラムを持つ。多くの行動は自動で(意識下で)起こされている。
こころは行動選択のための機構。こころには学習機能が備わっている。
■ おわりに
意識下の情動を意識することにより、こころは完成する。
こころは、生活環境の影響を受ける。腸内細菌叢の違いも、脳機能に影響を与えている。
