「大栗先生の超弦理論入門」 大栗博司 2013年 ブルーバックス

 再読です。時空の物理に再挑戦という訳でもないのですが…。時間があるので、もう一度読みたくなったんです。二度読んで、やっと超弦理論の概要がおぼろげながら理解できたような気がします ← あくまでも「個人の感想です!」。 以下はこの本の要約と引用です。


■ はじめに

 デモクリトスが原子論の発想に至ったのは、もし海の水を作っているものが「青」という固有の色をもつならば、波が白い泡をつくることが説明できないと考えたからでした。アリストテレスは、物質で満たされていない空間は無いと考えました。ニュートンは、物質から独立した「絶対空間」と「絶対時間」を導入しました。アインシュタインは、時空間は不変ではないとしましたが、時間や空間そのものは否定しませんでした。

 水の分子自身には、氷や水蒸気のような性質はありません。分子が集まったときに、その集まり方によって性質を持つのです。温度の概念も二次的なもの。分子の平均エネルギーの現れです。超弦理論は、空間の次元も同じように二次的な概念だと示唆します。

■ なぜ点ではいけないのか

 宇宙がどのように生まれて、どうなっていくのかは、重力が決めています。

 重力は標準模型には含まれていません。素粒子の理論に重力を組み込むのが難しい理由は、粒子の間に働く力の伝わり方にありました。場は「空間の各点で値(力の大きさや方向など)が決まるもの」のことです。場が「点」でできているとすると、素粒子の理論に重力理論を組み込めないのです。電磁場で考えると、発信した電子自身が感じる電磁場の強さが無限大になってしまうのです。

 観測される電子の質量=電磁場のエネルギー+電子固有の質量

 電子が小さくなると電磁場のエネルギーは無限大に近づきます。電子固有の質量を小さくして相殺すれば、電子が点であってもかまわない。電子固有の質量は負の値をとります(くりこみ)。

 くりこみが有効なのは、自然界の法則に「階層構造」があるからです。それぞれの階層にぞれぞれの現象を説明する法則があります。ある階層で生じた無限大の問題をよりミクロな階層へと「先送り」するのです。

■ もはや問題の先送りはできない

 原子はほとんどが真空。原子を甲子園ぐらいに拡大すると原子核は一円玉ぐらい。電荷をもたないニュートリノは地球を通り抜けます。ニュートリノにも弱い力や重力は働いています。

 ガンマ検出器は「カツ、カツ、カツ」と音を立てます。ガンマ線の粒が一つ一つ検出器に入ってきたときの音です。

 波と粒との「双対性」。電磁気力は、電子が光の粒である光子を放出し、電子が光子を吸収する過程として理解できます。

 重力を考慮に入れると無限の問題を先送りできなくなります。ミクロな世界では、空間や時間も不確定に揺らいでいます。一般相対性理論に量子力学を当てはめると、くりこみでは処理できない無限大が出てきます。

■ 弦理論から超弦理論へ

 湯川と朝永は、旧制第三高等学校から京都大学に進んだ同級生でした。弦理論を提案したのは、南部陽一郎と後藤鉄男です。

 素粒子に広がりを持たせた段階で、弦理論は無限大の問題を解決します。

 電磁気力を伝える光子は、開いた弦の振動から現れると考えます。電磁波の特徴は「横波しかない」ことです。

 米谷民明は、ある弦が閉じた弦を放出して、別な弦がそれを吸収する現象は、重力の伝搬であることを発見しました。

 超弦理論では、フェルミオンも弦の振動状態として理解できるようになりました。グラスマン数[θ×θ=0 θ≠0]も座標に使う超空間を考えると(グラスマン数を座表に使う「余剰次元」が存在するとします)、フェルミオンが現れます。

 超対称性は、回転対称性を超空間にまで拡張したものです。超空間に超対称性があると、ボゾンとフェルミオンの間にも、入れ替えが可能な対称性が現れます。超対称性を仮定すると、新しい粒子が予言されます。ある筈の対称性が見えないのは、南部博士の「対称性の自発的破れ」によって説明されました。

■ なぜ9次元なのか

 物理学の理論の多くは「次元」の数を選びません。ニュートン方程式もマクスウェル方程式も、アインシュタイン方程式も、どんな次元でも解を求めることができます。超弦理論は九次元の空間しか許されません。時間を含めると十次元です。

 弦全体のエネルギー(質量)=弦全体の波動エネルギー+量子揺らぎ

 弦理論では、25次元でのみ[光子の質量(=最低エネルギー+振動エネルギー)]は0になります。

 量子力学の計算によると、あるモードの振動が起きるのに必要な振動エネルギーは、そのモードの量子揺らぎのエネルギーの倍になります。

 オイラーの残した公式の一つ[1+2+3+…=1/12]を、光子のエネルギーの式に代入すると、光子の質量が0になる条件は[D=9]。九次元の空間(正確には九次元+グラスマン数)になります。

 これは純粋に数学の主張です。三角形の内角の和は180°というときの「わかる」と同じ意味です。

■ 力の統一原理

 ヘルマン・ワイルは、重力と電磁気力の働き方に共通点があることを発見しました。ゲージ原理の発見により、自然界の全ての力を統一的に理解するという希望が生れました。

 アインシュタインは、重力の方程式を、時間や空間の測り方を変えても重力の働き方は変わらないという条件から導きました。ワイルは、電磁気学についても「あるもの=波の位相」の測り方を変えても力の働き方は変わらないという条件をおくと、電磁気力のマクスウェル方程式が決まってしまうことを発見しました。

 電磁場と金融市場の間には類似点があります。為替相場が存在するのは、各国が独自の通貨を持っているからです。電磁気力も時空のそれぞれの点に「仮想通過」があって、その通貨(波の位相)に金利や裁定機会に相当するのが、電場や磁場であると考えたのです。

 通貨の単位のとり方を変えることは、位相をずらす、すなわち円を回転させること相当します。磁場がある場合には、日本の直線が円の上の違う位置にくるので三角形は閉じません。

 「あるものの測り方を変えても力の働き方が変わらない」という原理が、ゲージ理論(ゲージ対称性)です。「ゲージ」とは、物差しのように量を測る単位のことです。

 円の上の場所は角度だけで指定できるので円は一次元。球面上は二次元。強い力と弱い力を説明するために、ゲージ理論を拡張したのが「ヤン-ミルズ理論」。通貨の対称性の次元と、力を伝えるボゾンの種類が一致するというのが、ヤン-ミルズ理論の骨子です。

 金平価を導入すると、通貨の単位を取り換えるという「対称性」が破れます。このアイディアを素粒子模型に使って、ヒッグス粒子が予言されました。

■ 第一次超弦理論革命

 弱い力は時計回りの素粒子だけに働きます。パリティの対称性が破れています。

 量子の揺らぎの効果で理論の整合性が失われてしまうことを、アノマリーと言います。

 自然界の基本法則を解明していく道程を先に進めるほど、数学的整合性の縛りが強くなっていくようです。

 ゲージ対称性は「32次元の回転対称性」と一意に定まります。

 素粒子の標準模型のように、粒子の性質や世代数などを決められず、与えられたものとして受け入れるしかない理論を、美しいとは思えません。「理論的には何でもありだが現実はこうなっている」では、何かを説明したことになりません。

 余剰次元のコンパクト化を満たすのが、「カラビ-ヤウ空間」。

 クォークの世代数(3世代)は、カラビ-ヤウ空間で決まります。「オイラー数」が、世代の数を決めることを導きました。オイラーはトポロジーの創始者でもあります。

 オイラー数が異なるものは、連続的に変化させることができません。球面を三角形の組合せとして表します(三角形分割)。オイラー数は、三角形分割された表面の面と辺と頂点の数から計算されます。

 オイラー数=面の数−辺の数+頂点の数

 なぜ三次元空間になるような、カラビ-ヤウ空間が選ばれたのかはまだわかっていません。カラビ-ヤウ空間の中にある2点間の距離を測る公式もわかっていません。

■ トポロジカルな弦理論

 距離の測り方を知らなくても計算ができる方法なので「トポロジカル」。

■ 第二次超弦理論革命

 空間の一部をコンパクト化することで、異なる理論と思われていた弦理論の間に互換性があることが判りました。

 重力の理論が超対称性を持つように拡張したのが超重力理論。

 超対称性を持つためには、ボゾンの数とフェルミオンの数が等しくなければいけません。その最大の次元が10です。10次元空間で超対称性を持つ理論は、超重力理論だけです。

 ブラックホール解を十次元の超重力理論で解くと、二次元の広がりを持つ膜でした。二次元の膜を考えると、その運動の軌跡はは三次元になります。

 電子の間に働く電磁気力の強さ(結合定数)は、電子の電荷で決まります。結合定数の小さい理論は単純です。電子の場合も、電荷が零なら、電磁場の中でも真っ直ぐに進むだけです。

 超弦理論の結合定数は、九次元空間を飛んでいる一本の弦が分かれたりくっついたりする確率です。結合定数が小さければ、そのまま飛んでいくだけです。

 5つの超弦理論と超重力理論は、お互いに結びついていたのです。一つの理論の様々な現れです。この理論をウィッテンは「M理論」と名づけます。

 ウィッテンの発見によると、空間の次元も根源的なものとは言えません。

 ウィッテンはフィールズ賞も受賞しています。素粒子論や超弦理論が既存の数学で理解できるとは限りません。

■ 空間は幻想である

 「私たちは習慣によって、甘みがあったり、熱かったり、色があると思うが、現実に存在するのは原子と真空だけである」デモクリトス。

 二次元に広がっているものは「膜」「メンブレーン」。

 開いた弦の端点が張りつくブレーンを「D-ブレーン」と名づけました。ブラックホールの分子の候補がD-ブレーンに張りついた開いた弦です。

 重力を伝える重力子は、閉じた弦の振動として現れるはずです。

 三次元の重力を含まない理論によって、九次元空間における重力理論が説明できる。三次元の立体像を二次元の平面上に記録した干渉縞によって再現する「ホログラム」から、「重力のホログラフィー原理」と名づけられました。

 ミクロな世界にいくと、温度も空間も重力も本質的なものではない。全てはマクロな世界の私たちが感じている幻想なのです。

 陽子や中性子のクォークが解放されてプラズマの状態になる「クォーク・グルーオン・プラズマ」。粘性がほとんどなく、サラサラとした完全流体です。

 重力や次元や空間が幻想であることは確かですが、それらが何から現れてきているかについての理解には達していません。

 東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構は、カブリ財団からの寄付を受けています。

■ 時間は幻想か

 数学で空間を定義するときの要点は、二つの点の間が近いか遠いかを区別することです。

 上下が特別な方向であると感じるのは、地球があって、私たちに重力を及ぼしているからです。宇宙まで行けば、上下などという概念は消え去ります。

 一方向に進むという時間の概念に、本質的な意味はあるのでしょうか?重力の仕組みについて考えると、時間は存在出来ないとさえ思えてきます。

 「物理学の信奉者は、過去と現在と未来の区別は、幻想に過ぎないことを知っているのだ」アインシュタイン。

 空間とは何か、時間とは何かを見極める旅は続きます。