「平穏死のすすめ」 石飛幸三 2013年 講談社文庫

 自然死に関する本。生禿は見逃せませんね。内容は、簡単なリーフレットで済む程度のもの。ですが、実際の体験に基づく話は説得力があります。 以下はこの本の要約と引用です。


《はじめに》

 死の高齢化。現在の死にまつわる問題は、この一言に尽きます。

《1. ホームで起きていたこと》

 特別養護老人ホーム(ホーム)の入居者のほとんどの方は喋れません。寝たきりで寝返りも打てません。1日3回、栄養を滴下され、定期的にしもの処理をされて、何年も生き続けるのです。寝ていますから、胃の内容が逆流して慢性の誤嚥性肺炎を起こします。膀胱機能が衰えていますから尿路感染を起こして高熱を出します。

 認知症になった人は、中枢神経の障害のため、口から食べたものを飲み込む反射が低下しています。誤嚥性肺炎で入院した認知症の人は、意思表示ができませんので、胃瘻を拒否することができません。遺漏をつけてホームに戻ってくる人が増え続けます。 … 誤嚥するから胃瘻を作ったのに、嘔吐して窒息します。 … 認知症の方は、胃瘻装置を嫌がって自分で抜いてしまう恐れがあるので、身体拘束をせざるを得なくなります。

 平穏死のすすめ食べられない=死という前提が崩れました。 … 慎重に少しずつ口の中へ。喉の奥に食べ物が残っていないか、一回一回、時間をかけて口に含ませなければなりません。液体だと気管に入りやすいので、ゼリーにします。しかし、ゆっくり時間をかけて食事介護をしている暇はありません。

 口から食べられる場合は、本人の体の状態に応じた水分量と栄養量が自動的に調整されます。超高齢基礎代謝は者の判っていません。脱水になるからと、水分量を増やすと、心臓や肺がその負担についていけません。肺などが溺れる苦痛を与えることになります。 … 経管栄養剤を作っている会社の開発担当者の方「自分の母親には与えませんん」。認知症の高齢者の経口栄養は、栄養状態も、生活の質も、生命予後も改善しません。

 三宅島の風習「年寄りは、食べられなくなったら水を与えるだけ。そうすると苦しまずに静かに息を引き取る」。 … 入所者が食べられなくなってからの最後の数日感の様子を見ていると、喉の渇きや空腹を訴えることはありません。

《2. 高齢者には何が起きているのか》

 老衰に医療行為は不要です。老衰は病気ではありません。 … 延命をしないで患者が死んだ場合、今の日本の刑法では、保護責任者遺棄致死罪に当たるおそれがあるのです。本人の命は、本人が決めることです。延命主義の医療が決めるべきではありません。 … 認知症で辻褄が合わなくなっても、感情は残っています。「もぅ生きているのが嫌になった」と言います。

《3. なぜホームで死ねないのか》

 高齢化と核家族化の現代においては、特養は地域の看取りの場として機能すべきです。特養の配置医は、保険医の資格を持っていても、保険診療をすることができません。配置医に保険診療ができない規制は、多くの無駄な行為を/不適切な医療派生させています。常勤医による保険診療ができることが必要です。老健(介護老人保健施設)や療養型では、胃瘻を付けてから3ヶ月で出るように迫られ、行った先のホームでは必要な医療が行われない。

 以前は、特養の配置医には多額の収入がありました。放置できない厚生省は、初診料等を打ち切りました。

 特養の目的は、キュア(治療)ではなく、ケア(介護)です。平穏な死に貢献するのも医師の仕事です。

 長生きが増え、認知症が増え、家族で介護ができなくなり、介護制度が必要になりました。親の介護のために、親の年金に依存する人も増えました。親に生きていてもらわなければならないのです。

 リビングウィル(生前の意思)を書いておいても、医者が治療を差し控えて死亡した場合に、家族の誰かが訴えれば、生前指示を容認した家族との間で争いになります。その背景には、相続を巡る問題が絡むからです。

《4. 私たちがしたこと》

 嚥下機能が低下している人では、食べさせない勇気も必要です。空腹は最上のスパイスです。自分の口で食べられなくなった場合は、その人の人生の限界が来ているのです。

 口腔ケアが最も有効だったのは、経管栄養の方々でした。経管栄養の人は口で食べないので、唾液による口の中の洗浄作用が減少します。口腔ケアを始めて慢性誤嚥性肺炎は少なくなりました。

 入所者の怪我(骨折)や病気でホームを訴える家族がいます。介護士の仕事は気を使うことが多すぎます。もっと、伸び伸び仕事をさせてあげたいと思います。入所者やご家族に積極的に話をすると、家族の信頼も高まり話が通じるようになります。入所者の9割が認知症なので、ホームと家族を結ぶ相談員は、重要な役割を持ちます。

 誤嚥、肺炎、入院、胃瘻、不毛な状況が押し寄せ、そして家族からの苦情で保身に陥り、責任のなすり合い。スタッフは、仕事に対する目標を見失い、気持ちは萎縮します。

 入所者の具合が悪くなっても、苦しまなければ、病院に送らずに、穏やかにホームで死を迎えらるよう工夫する。病院に転院するのは、苦痛がある場合と、治療効果がある場合です。本人や家族には正直に話し状況を共有します。説得は不要です。

《5. ホームの変化》

無理に食べさせない、何もしないで看取る方針を進めることによる効果

1)肺炎の減少
 漏水の増加

2)救急車要請の減少
 病院での死亡も減少

死は『自然』です。

《6. どう生きるか》

 欧米では、ターミナルケアは、医療ではなく、福祉が引き受けます。「食事は並べるが、無理に食べさせない。チューブを入れたりしない。そのままで安らかに死ねる」。もう死ぬとわかったら、医師は「もう治療しません」とカルテに記載する。それが欧米の感覚(*キリスト教の死生観)です。

 ホームの看取りで大切なことは、介護士や看護師が、入所者の傍らに居てあげることです。

《解説》 日野原重明聖路加病院理事長

 穏やかに逝くことを妨げているのが今の医療です。