「仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないか」
相原孝夫 2013年 幻冬舎新書
久々に「感心した!」本です。要は、仕事ってやつは「型を身に着ける」こと。本気で何かを創造するのは、私のような「型破り」な人間にしかできないこと。なるほどです。サラリーマンは、社長であろと平社員であろうと、サラリーマン根性で型通りの作業をしていればいいので、それ以上を望んではいけないのです。その通りですね。それともう一つ。私が結果を出してこれたのは、動機付けではなく、職人気質があったからだということに気づかされました。職人としての矜持。それは「生涯一職人」として誇りであり、生き方としての美学でもあります。自分の強さが何に起因しているのか、気づかせてくれました。他人に強制はしないけれど、これっていい生き方だと自負した次第です。 以下は、この本の要約と引用です。
《1. なぜモチベーションが問題になるのか》
営業成績が上がらない営業マンに、具体的なアドバイスができる上司がいると、結果が出る。上司が「やる気を出せ」と連呼すると、追い詰める。状況を掘り下げて解答を出さない。「モチベーション」は思考停止のキーワードだ。社員のやる気を問う経営者は、責任を社員に押し付けている。
新聞記事の言葉の出現頻度を調べると、「モチベーション」と「うつ」は高い相関を示す。主要三紙で、「モチベーション」は2006年に100件を超えた。2012年には、両者とも200件を超えた。
「やる気」は、個人の内面の問題である。気分は、どうでもいいようなことで動く。まして、会社が踏み込むようなことではない。
《2. なぜ、会社と上司はモチベーションを削ぐのか》
人を育てるということを時間のかかることができる管理職は少ない。目に付いた些細な点を指摘するのは易しい。それをマネジメントと勘違いしている。
成果主義的な人事制度が導入され、上司の評価によって処遇に差がつくようになった。駄目な上司ほど公平な評価はできない。悪影響は強く出る。
社員の貢献度を高めるには、不安を取り除き「所属感」を感じられるようにすること。「意識改革研修」は、社員の信頼の無さを強調し、自己受容を破壊する。必要なのは、「やる気を無くさないようにする」ことである。
《3. そもそも、モチベーションは高ければいいのか》
自信家の人、モチベーションの高い人は、ストレスを溜めやすい。ハイパフォーマーは、やる気が出ない時も、いつも通りやるべきことを淡々とやる。スキルレベルが高いので、やる気に頼らないという面もある。
上機嫌に振舞うことは社会人としてのマナーである。不機嫌は結果でもあるが、原因でもある。不機嫌な感情を表に出すのは幼稚である。モチベーションの高い人が、成熟した人格の持ち主とは限らない。
仕事のアウトプットは妥協の産物。どこに力を入れ、どこは力を抜くかという判断は、ビジネスに不可欠である。ハイパフォーマンスな人の特徴は、時間の使い方にある。長時間労働が会社への忠誠心だという価値観が抜けない人がいる。欧米企業では、残業は恥であるとする風潮がある。部下に残業をさせるのは、管理職のマネジメントができていないからだと考える。
日本国内のサラリーマンが会社に忠実なのは、転職が困難だからである。会社との価値観が一致していると感じる社員は、欧米の方が遥かに多い。日本国内のサラリーマンの長期定着意向は、欧米に比べて低い。
《4. 高いモチベーションが引き起こすメンタル問題》
鬱病の背景に長時間労働がある。欧米には「人はまず家庭にあり、その対価を得るために仕事がある」という個人主義の価値感がある。日曜日を安息日とする宗教もある。仕事に埋没する姿勢をワーカホリックとして忌避した。
日本では、いったんは時短の動きがあったものの、業績低迷によりサービス残業や名ばかり管理職が横行してる。高度成長期の長時間労働と、不況下での長時間労働では疲労の質が異なる。心身が休まることがなく、鬱病を発症する。
管理職によるパワハラ。モチベーションの高い上司の方がパワハラに至る。パワハラと熱血指導は紙一重だ。モチベーションの高い人は、自分も部下も追い込んでしまう。できる人に仕事は集中する。まじめで責任感が強い人は、鬱になりやすい。
自分に成功体験があると「君ならできる、僕だってできたんだから」と、部下を追い詰めてしまう。
かつて職場は、喜びも苦しみも分かち合える仲間のいる共同体だった。今の会社には、所属欲を充たす空気は無くなった。人間は、所属に失敗すると死を選ぶほど、所属欲が強い。キリスト教の欧米人にとっては「自殺は罪悪」。日本人などは恥を忍んで生きるよりは死を選ぶ。
成果を挙げるための知識やスキルの修得は、企業の責任である。やる気に踏み込むことは無い。
《5. モチベーションを問題視しない働き方 モチベーション0》
ハイパフォーマーは、肩の力が抜けている。自分なりのやり方が「仕組み化」されている。成果を挙げるためには何をしたら良いのかが分かっているので、粛々と実行する。想定外の事態も、それを楽しむゆとりがある。しなやかで緩急自在。ある局面では猛烈な集中力や粘り強さを発揮する。そして、仕事に必要以上の理想を抱いていない。
できる人は「型」を持っている。規則正しい生活をし、軽やかに行動する。
個人のやりたいことを仕事にできることは稀。職場では、雇用形態がバラバラな人と一緒。動機も意識も異なる。内発的動機付けによって仕事をすることは、現実性に乏しい。自己実現は、組織規範に基づく労働とは相容れない。「自立した個人」は、心の問題が多発する。
「職人気質」は、仕事に対する誇りや心意気に基づいている。そこにはモチベーションの入り込む余地は無い。自分の持ち場の全体について把握し、自らの裁量で仕事を進める。
やりたくてやる仕事など無い。やることが当たり前だからやる以上のものではない。やる前からやる気を持ち出す必要は無い。
仕事は生計を立てる手段である。現代は、「自己実現」が脅迫観念になっている。自己実現を目指す集団では、組織は維持できない。会社は自己実現を支援してはいけない。会社としてこれを目指すので、共感する人は力を貸して下さい、というのが本来のあり方である。互いの一個の人間として尊重することが、全ての基礎になる。
やるべきことを、肩の力を抜いて進める。ルーティン化し、着実に実行する。モチベーションに頼らない技能である。
仕事仲間との関係性を良くすることは、良い職場の空気を作り、成果が出易くする。まず、「顔合わせ」をし、次に「助けて下さい」と頼む。
提案書は、1)業界を知っていることを示す、2)企業の課題を理解していることを伝える、3)提案のゴールイメージと日程と費用。特に力を入れるのは、ゴールイメージである。
《6. モチベーションからつながりの労働へ》
職人気質に徹する人生は、心の安定という意味では幸せである。余計なことを考えないで済む。
職人は、技を極めることに拘る。自己成長の喜びが糧となる。「道」を究め、「型」を身につける。
コンピテンシー(行動特性)。表情や身振りを真似し、そのようにしている自分の気持ちやその場の気分を理解する。学びは真似る、である。四の五の考えずに修得する。
下積みはどんなことにも必要である。基礎作りである。今猿で言えば、メモを取り、質問をしながら耳を傾け、メモを見ながら要点を整理し、自分の理解が相手とズレていないか確認する、のが基本動作である。
ビジネス上最も重要なのは、「他社とのつながり」。流動化が進む人間関係の中では、特に他者とのつながりを強く意識せざるを得ない。
幸せな人々の共通の特質は、強固な人間関係。信頼できる家族・友達・同僚に囲まれている人は、多くを成し遂げ、幸せに生きる。