先日の広告学会全国大会で、現代の若者についての香山リカさんの特別講演がありました。テレビでお話されるよりもキチンとした内容で、興味深く聴きました。


現代の若者は、「外面の相手への気遣いと、内面の傷つきやすさ」という二つの面を持っています。「自分に自信が無く、相手の言っていることを相対化できない」中で、「就職活動を機に、“自分らしさ”を求められる」。「自分を自分で理解できる筈がないのに、『ホントウの自分をみつけ』『なりたい自分になる』ことを迫られる」のです。

「自己実現や自己啓発がビジネスになっている」という環境の中で、若者に限らず、「自分らしくかけがえのない自分でありたい、という願望があるが、そうならない現実の理不尽さに怒り、誰かに転化して攻撃する」傾向が強まっています。

「『ただ生きている』だけじゃダメなんですか?」と、問いかける強さは無く、「孤独感と無力感にさいなまれ、無条件の自己肯定欲求を持つ」「等身大の自己イメージが定まらない『パーソナリティ障害』」に陥る若者も少なくありません。

「私のための/私個人に向けたコミュニケーションには強く反応する」。そして、「見捨てられ不安の故に『しがみつき』が発生する」「ラインは繋がりを可視化して、この欲求に応えている」。「一方で、相手と近づきすぎると『呑み込まれ』の恐怖が生じる」。このような境界性人格障害が増加しています。

「病院の臨床では時間の余裕も無く、支援団体や福祉施設などの紹介などのソーシャルワーキングしかできない」と、臨床医として述懐されます。生禿も少しは精神科の臨床経験を持つ人間として言わせて頂くなら、ソーシャルワーキングだけなら精神科医は不要です。

香山さんは、現代を生きる人々に必要なのは、「失敗や負を受け入れる耐える力」であり、「“こっちが駄目ならこっちがあるさ”と、物事を相対化して捉え別の道を探す」ことだと締め括りました。これについては、全く同感です。『ドクターX』のように『失敗しない人生』は、嘘っぱちなのですから。