「量子もつれとは何か」 古澤明 2011年 ブルーバックス

 量子コンピュータの理解に欠かせない「量子もつれ」を平易に解説した本ということで、アマゾンで取り寄せました。なんですが、信号論を真面目にやっていない私としては、理解できない部分があって困った〜。それでも、実際に「もつれ」を作り、そこからエラーコレクションに取組んでいる臨場感は伝わってきました。ありがとうございました。 以下はこの本の要約と引用です。


■ はじめに

 電磁波は質量を持たない波動。波は実体に乏しい。量子もつれも重ね合わせの状態であるため、波として説明する。

 「正統派」量子力学は、1つの量子について。複数の量子間の不確定性原理を扱うと、量子もつれ=複数の量子の物理量の複数確定の状態が生れる。

■ 量子力学とは

 最近になって、量子力学が検証されるようになってきた。

■ テクノロジーの進歩と量子化の必要性

 光には回折限界があり、光はその波長程度までしか集光することができない。水素元素にピンポイントで光をあてることはできない。ブルーレイディスクは、赤外線や赤色の光に代えて、波長の短い光を使う。

 見るという行為によって、水素原子は動いてしまう。量子力学では、位置と運動量のような共役物理量の両方を決めることはできない、とする。測定によって測定対象が変化するという、ある意味当然の状況を、不確定性原理という形で力学法則の中に織り込んだのが量子力学である。

 ハイゼンベルグは物理量を演算子とし、その時間発展としてその運動を記述した。量子力学に従うと、電子の状態は雲のような存在になる。「わからない」を「あらゆる位置の重ね合わせ」と言い換えている。

■ 振り子の量子化

 量子化された振り子の運動はプランクの定数の平方根程度ゆらぐ(零点エネルギー|零点振動)。

 重ね合わせの係数を二乗して足し合わせると、1になる。この係数の自乗はポアソン分布になる。

■ 光の量子化

 光の量子化も振り子の量子化と等価である。sin成分とcos成分はお互いに干渉しない2つの独立した動きと考えることができる。

 振り子は運動量が零のとき位置エネルギーが最大。運動エネルギーが最大のとき、位置エネルギーは零になる。電磁波のsin成分とcos成分の関係になっている。電磁波のsin成分とcos成分に不確定性関係があれば自然現象が説明できる。

 位相の定まらない波が光子。だから「粒であり波である」。電場は+−が打ち消し合って平均値としては零になるが、ゆらぎ=エネルギーだけ存在する。

 たくさんの光子が足し合わされれば、直感できる電磁波になる。

 不確定性原理によりsin成分とcos成分が同時に決まることは無いから、ゆらぎを持つ。

■ レーザー光と量子ゆらぎ

 帯電した粒子(電子)が周期振動するから、その周波数(振動数)と同じ電磁波(光)が電磁誘導により生成される。レーザー発振では、最初に放出された光子と同じ位相のものが大量に生成される。

 エネルギーと時間という不確定性において、エネルギーが確定した状態が光子(状態)である。

 光子零個でも、光子1/2個分のさざ波は存在する(真空場|零点エネルギー)。そのため、デジタイジングエラーとしてのゆらぎ1/2hvが発生する。

■ 量子エンタングルメント

 2つの量子(系)では2つの物理量、2つの量子の相対位置(距離)と運動量の和を、不確定性原理を破らずに決めることができる。このことをアインシュタインはパラドックスとして量子力学に突きつけた(EPRパラドックス)。ボーアがアインシュタインの「情報の伝達は光速を超えない」を用いて反論し、量子力学には矛盾が無いことを示した。

 2つの量子の相対位置と合計運動量は決まるのは「普通の話」。問題は、遠隔作用となっていること。これを「量子もつれ」と呼ぶ。

 「重ね合わせ」は、波動の干渉のこと。量子もつれは、2つの量子で2つの物理量が(重ね合わせにより)確定している状態である。

■ 量子光学を用いてEPRペアを生成するための準備

 EPRペアを生成する方法。一つの量子を2つに分裂させること。1つの光子が周波数(エネルギー)が半分の光子に分裂する。

 光が物質中に入射すると、電子が振動する。入射した光と同じ周波数の光を生成し放出する。電磁誘導は電子の加速度に比例するから、電子から放出される光の位相は90°遅れる。電子から放射された光と入射した光が合わさり(干渉し)、出射光となる。出射光は入射光と同じ周波数であるが、90°位相が遅れた波と合わさるため、位相が遅れる(屈折率が1より大きい)。

 光子を2つの割るとエンタングルした光子対(EPRペア)が生成される。真空場はどこにでも存在し、電場の平均としては零であるが、エネルギーは零ではない。

 cos成分は強め合っているが、sin成分は消し合ってしまう(スクイーズ光)。光子は真空場のものであるから、sin成分がなくcos成分のみになる。

 量子光学は、電気回路で行われてきたことを、光の周波数で行っている。電気回路と量子光学の違いは周波数だけ。電気回路の周波数は10^10、光の周波数は10^14Hz程度。

■ 量子光学を用いてEPRペアを生成

 強い多数の光子の場合、位相が1/4ずれている波は干渉しない。量子もつれは2つの物理量が確定している重ね合わせ状態。個々の量子の物理量は決まっていない。

 量子光学の殆どのことは、波動像で理解できる。粒子で考えるのは、エネルギーが離散値しか取らないことだけ。

■ 量子光学を用いた量子エンタングルメント検証実験

 EPRペアのそれぞれの運動量を測定すると、絶対値は同じで符号が反対の値を得る。光の波は、cos成分とsin成分の足し合わせで書け、位置xと運動量pと同じ意味を持つ。

■ 単一光子状態の生成

 単一光子状態が生成されるのは、光子検出器で光子を検出した瞬間だけである。

■ 量子テレポーテーション

 従来の電気回路では信号の周波数がたかだか100GHzなので、光子のエネルギーは無視することができた。

 ドップラー効果を用い、キャリア波の周波数を変調したものがFM信号。電磁波のFM信号は、sin成分のAM信号と考えられる。光のAM信号とFM信号は共役物理量という関係になる。

 量子テレポーテーションとは、ラジオの技術を100テラヘルツで行っているだけ。不確定性原理を取り入れなければならないことが、従来の信号処理と異なる。周波数が高くなると、AM信号とFM信号の間に不確定性が生じる。

 量子テレポーテーションとは、送信者持っている量子の状態を、受信者の量子で再現すること。共役物理量のAM信号とFM信号の情報と量子状態は等価である。

■ 多量子間エンタングルメントと量子エラーコレクション実験

 コヒーレント光通信は、光のFM信号に情報を乗せる。

 全ての情報通信機器では、エラーコレクションを行っている。量子コンピュータでは、計算後の値を測定して多数決を採ることができない。途中で測定すると「重ね合わせ状態」が壊れてしまう。

 エラーから守りたい量子(情報)を、補助入力とエンタングルさせ、補助入力のみを測定してエラーを検出する。9つの量子で8つの物理量が決まっている9量子間エンタングルメントを用いる。量子エンタングルメントを用いてエラーの情報のみを抜き出すことができる。

 多量子エンタングルメントについてはまだよく解っていない。だから、量子コンピュータについても解っていないことが多い。