「はじめての超ひも理論」 河合 光 2005年 講談社現代新書

 評判になった本なのですが、読み逃してました。難解な理論をとても平易に説明しています。そして、今読んでも、わくわくするのは、河合氏がその中心人物の一人だったからでしょう。

*現在の超弦理論の到達点についてGPTに訊いてみると…
 1990年代以降、M理論が登場。高次元の膜(ブレーン)という概念が導入された。
 AdS/CFT対応(ホログラフィー原理)は、重力理論と量子場理論が等価である可能性を示した画期的成果。現在も量子重力研究の中心的ツールになっている。
 最大の問題は、実験的検証ができていないこと。理論的には極めて美しく強力。しかし、「実験と結びつかない数学的構築」に留まっている。
 そのため、量子重力の別候補(ループ量子重力)、宇宙観測との接続(量子宇宙論)、情報理論的アプローチ(量子情報 × 重力)にも研究が広がっている。
 ということでした。

 以下はこの本の引用と要約です。尚、この本では「超ひも理論」としていますが、ここでは「超弦理論」と表記しています。


■ 超弦理論で何がわかるか

 量子力学が扱う真空は、エネルギーはあり仮想の粒子が詰まっている、と考えます。

 超弦理論とは、「ものの最小にして究極の構成単位はひも状の物質である、と考える物理理論」です。

 ものどうしが非常に近距離に接近すると、ニュートンやアインシュタインの力学は通じなくなります。量子力学によってもうまく記述できません。

 超弦理論は、電磁力と弱い力と強い力と重力を統一して理解できます。

 超弦理論の定式化が完成した暁には、「時間の起源」も解き明かされれでしょう。

 標準模型は、その理論を構築するために、数多くのパラメータを含んでいます。「それらの仮定された数値がいくらの値をとれば理論は正しい」という、条件付き理論です。

■ 超弦と素粒子

 超弦には、両端の開いた紐と、閉じた紐の2種類が考えられています。開いた紐は、両端が光速で回転しています。閉じた紐は、膨らんだり縮んだりしながら振動します。その振動モードの違いによって、異なる粒子の性質を現します。

 ものを細かく見ていくことは、より高いエネルギーで見るということです。宇宙の成長過程を遡るほど高いエネルギー状態になります。この両者は同じことを意味しています。

 電子と原子核の結合力は、原子核から電子を引き離すときに必要な力です。電子から引き離されて原子核を見ると、次の段階の粒子間の力学が見えてきます。

 プランクエネルギー 10^18GeV は、エネルギーの限界値。粒子の持つエネルギーがそれ以上に高くなれば、その周りでの時空が定義できなくなる限界値です。

 温度とエネルギーの対応関係を示す換算式[300K=(1/40)eV]。点粒子の理論では、温度は粒子1個あたりが持つエネルギーのこととみなしてよいのですが、超弦ではそれ以上のエネルギーを持ちえます。紐上の形状なら、エネルギーが増えた分、いくらでも延びることができるからです。上限の温度は「ハゲドン温度」。プランク温度と同じです。

 量子力学では、真空は与えられたシステムでのエネルギーの最低状態。その基底状態が励起されて素粒子が誕生します。

 クォーク・グルオン・プラズマ状態は、クォークと反クォークのどろどろとした状態。

 さらにエネルギーを上げて遡ってみると、質量を獲得します。その場は「ヒグス場」。ヒグス場は、スカラー場です。

 「場」とは、物質と物質の間に相互作用を引き起こす空間の性質のこと。… 「場とは力線のこと」を拡張すると、場とは「時空の各点ごとにある量が定められたもの」。

 ヒグス場は「対称性を破りやすい性質」を持っています。このヒグス場と物質場とを相互作用させます。時空のある一点を想定すると、重力場、電磁場、クォーク場などは、お互いの影響を「感じる」ことになります。

 場の状態は変化します。その時間発展の運動方程式が「場の方程式」。それぞれの場の方程式の時間発展のなかで、互いに影響を及ぼし合ったとき、相互作用したということです。

 ヒグス場が運動して対称性を破った。クォークの物質場で運動していたクォークが「感じて」性質を変える。そうするとクォークの物質場は、対称性を破り、質量を獲得します。

 さらに高エネルギー・高温に。クォークが誕生します。超弦が見えてくる筈です。

 プランク長の長さのとき、プランクエネルギーであるにもかかわらず、温度は絶対零度。そのまま指数関数的に急膨張した。1メートル宇宙まで広がったとき「再加熱」が起こります。

 プランクの長さの宇宙はどのように生まれたのか、については何もわかっていません。

 開いた弦は、エネルギーが増えると、節の数が増え、そこを起点に振動しながら、両端は光速で回転します。閉じた弦は、節が入ることで、振動モードが変わります。

 超弦は実在する物質です。超紐は、究極の構成要素と考えています。

■ 超弦と力の根源

 現代物理学には「対称性」がつきものです。4つの力、それぞれに非対称性な力を統一するとは、自然界のなかからより高い対称性(普遍性)を求めてきました。それは、「ゲージ対称性」というキーワードを軸に展開された標準模型によって進められてきました。標準模型に現れる時空の対称性よりもさらに高い対称性のことを「超対称性」と呼びます。超弦理論は、超対称性をもつ紐理論です。

 近距離にあると、あるいは質量が重いものどうしになるほど、時空の曲がりが激しくなるので、ニュートンの法則からずれていきます。

 古典力学では、電磁力は電気力線の描画。量子力学の電磁力の描像は、二つの電荷の間の光子の交換。

 ファイマン図で描くと、ニュートリの動きを時間が逆向きにも描けます。

 強い力の場合は、遠距離ほど相互作用の結合定数が大きくなります。遠距離に離れれば離れるほど、グルオンがべたべたと貼りつきます[漸近自由]。

 ゲージとは「モノサシ」の意味です。[E=MC^2]は、普遍の法則。このようなシンプルな形になるのは、時空の対称性である「ローレンツ変換」を反映しているからです。慣性系のモノサシ=ゲージ(座標)に対して、慣性運動をしている座標系に移る。このような座標変換がローレンツ変換。

 どんな曲面座標をもってきても理論が変わらない変換のことが「一般座標変換」。一般座標変換に対して不変であってはじめて「ゲージ不変」といえるのです。

 どんな座標変換を行っても変わらないのは、「無限小に離れた2点間の距離」。アインシュタインはこれに着目し、テンソル場を使って「ゲージ不変」な重力場を描きました。

 ワイルは、時空の各点のモノサシを変える変換を行いました。

 力の統一理論を導いたゲージ理論は、各点の座標を変える変換ではなく、各点自身の変換でしあ。座標の変換ではなく、それぞれの場を値自身を、場の値の空間という抽象の内部空間で回転させる変換[内部自由度の変換]。このゲージ対称性を有した場が「ゲージ場」。

 もともと1つだった力が分岐して4つの力になった。この力の分岐が「ゲージ場のゲージ対称性の自発的破れ」。

 磁石は温度を上げると、磁石の性質を失います。1方向に並んでいた原子が、バラバラに運動するようになります。高温時のどの方向にも対等な資格になった[ゲージ対称性がある]。原子が1方向に整列した状態は「対称性が破れた」と表現します。

 対称性の破れは、相転移の典型例です。物質のもつエネルギーの大きさによって性質が変わること。水が氷になるのも相転移。氷になることで結晶構造をとり、対称性が破れたとみなせます。

 統一されていた電磁力と弱い力のゲージ場は、ヒグス場によって多少性が破られ、力の分岐が起こったと理解されます[電弱理論]。弱い力のゲージ粒子Wボソン、Zボソンも電磁力のゲージ粒子である光子も、いずれも質量を持たず、対等でゲージ不変性が成り立って統一されたゲージ場。ここにヒッグス場を持ち込むと、ヒグズメカニズムによって対称性が破られ、WボソンとZボソンは質量を獲得しました。

 強い力の内部自由度は「複素3次元」。非可換性をもちます。交換法則が成り立ちません。

 3種類のゲージ場・3世代の物質場・ヒグス場が相互作用し、力を分岐させたり、物質に質量を与えたり、誕生させたりしている。その振舞いを記述したのが標準模型。

 力を記述するためには、それぞれの力のもとになるゲージ場やそれらと相互作用している物質場を量子化しなければなりません。

 くりこみ理論では重力はくりこめませんでした。超弦では、りこむ必要はありません。もともと滑らかに相互作用する紐の場合、発散は起こりえません。

 4つの力の分岐。プランクの長さの頃、1つだった力は、まず重力が分かれ、強い力が分かれ、そしてクォークが質量をもつ時代に、電磁力と弱い力に分かれました。

 アインシュタイン方程式は、時空上に物質があることによって、その時空がどのように歪むかということを記述した式。

 テンソル場(計量場)の距離を出す原理は、三平方の定理と同じ。右辺は時空上にある物質のエネルギーと運動量、左辺にRは曲率を表す。この式は、物質のエネルギーに時空の歪みは比例する、ことを表している。

■ 超弦理論と時間の秘密

 プランクの長さの初期宇宙は、絶対零度、10^18GeVの高いポテンシャルエネルギーの、のっぺらぼうの真空だった。そこから宇宙はインフレーション膨張をした。

 この指数膨張のエネルギーは、真空のエネルギー。宇宙は今も、真空エネルギーによる膨張をしていると考えられます。

 粒子のエネルギーは、位置エネルギーと運動エネルギーの和。古典力学では、粒子のエネルギーよりも、ポテンシャルエネルギーの山を超えて反対側にでることはできません。量子力学ではできます[トンネル効果]。

 宇宙の「種」は、偶然にトンネル効果によって反対側/実時間に染み出すように抜け出しました。私たちの宇宙が創生されました。

 ホーキングは、宇宙が「どこから始まったのかわからない境界条件(初期条件)だ」と主張しました。宇宙の初めの虚時間の領域というのは、どこが端っこというということが言えない、のっぺらぼうな球のようなものだというわけです。

 エントロピー増大の法則は、「仕事が熱に変化する過程は不可逆である[熱力学の第二法則]」から導かれます。

 「熱力学時間の矢」。これは、なぜ時間だけが逆の符号で現れるのか、とは異なる問題です。時間と空間の違いがどのような意味を持っているのか、まだ解りません。

■ 超弦理論の歴史

 量子力学では、確率振幅の足しあげは積分。南部氏は、紐の作用としては世界面の面積をとればいいことを発見しました。

 次元が高くなるほど、距離の離れた物体間に働く力は重力は弱まる。

 6次元のカラビ・ヤウ多様体に丸め込むと、4次元時空を描き出せます[コンパクト化]。6次元をはじめからプランク長の大きさとして、安定した真空を見つけました。

 現在の超弦理論の課題は、摂動論などの近似手法に頼らずに定式化し、私たちの世界がその真空として現れるかどうかを調べることです。

 摂動論は、量子力学の運動を調べるための計算法。第0次の近似として、相互作用を無視して自由な運動として系を記述します。次に、相互作用によって生じる補正を取り入れて第1次の近似を計算し、さらに補正を入れながら第近似の計算をする…というやり方です。

 観察した瞬間に決定される=コペンハーゲン解釈。いつでも重ね合わせの原理は成り立っている=多世界解釈。どちらも検証不能な論争が続いています。確率分布は、厳然たる事実として実証されています。

■ 超弦理論を解くマトリクス

 Dブレーンは、超弦からなるエネルギーの塊。ソリトンは非線形性によって安定した状態でいられます。ソリトンを調弦理論で見出したのがDブレーンです。

 安定したエネルギーの塊を「ソリトン」と言います。安定した形状を保ちつつ伝播する波。例えば、波頭が立ったまま進行する海の波。海の波ができても、進行するうつに広がってしまいますが、波の持つ非線形性が広がろとする性質とバランスすると、波が形をかえないまま進行します。

 ポテンシャルエネルギーが零の状態が真空。エネルギーがちょっと持ち上がった状態がDブレーンです。エネルギーの塊であるDブレーンは、多くの紐がたくさん詰まった状態とみなせます。「D」は、微分方程式を解くときのディレクレ条件という境界条件の頭文字。ブレーンは、膜を意味する「メインブレーン」から、膜(面)のこと。紐の代わりに二次元に広がった膜から出発するのがM理論。

 非可換幾何学は、座標の間に交換法則が成立しない幾何学。不確定性原理[運動量p×位置q≠q×p]。

 ハイゼンベルクは、ボーア-ゾンマーフェルトの量子化条件に注目し、原子の中の電子がある状態から別の状態へ遷移するときに出す光の強度が、どのように表されるかを考察。電子の運動量pと位置qが、ある特定の非可換性をもつ行列によって表されることに気づきました。

 行列AとBに対して、AとBの非可換の度合いを現す行列[AB−BA]を[A,B]と書きます。[A,B]は交換子と呼ばれます。[pq−qp=−ih~]。

 ハイゼンベルクの行列の言葉と、シュレーディンガーの微分の言葉は同じ内容です。

 超弦の行列模型。いろいろな系を量子力学で記述するには、仮想のパス(経路)に対する作用を与えます。超弦の系を行列で表し、作用Sに具体を与えます。

 非可換性[Aμ,Aν]のトレースをとったものを行列模型の作用とします。[Tr]はトレース(行列の対角成分を足しあげて得られる)。ψは、グラスマン数([A×B=ーB×A]の性質を持つ)を成分にもつ行列を導入。その超対称パートナーであるΨは10次元のスピノル(ベクトルやテンソルにようにローレンツ変換に対して決められた変換をするもの)。[Aμ,Aν]のトレースと、[Aμ,ψ]のトレースをとります。[1/g]は、非可換の度合いを表す係数。

 超弦理論のパラメータは一つ。長さのスケールだけです。

 Dブレーンを重ね合わせてブラックホールを作り、それが持っているエントロピーを計算すると、ホーキングがブラックホール蒸発の理論を作った際に見出したエントロピーの値と一致しました。エントロピーは、与えられた状況で系がとりうる状態の数の対数。

 目標は、超弦理論を完全に定式化し、超弦の唯一の真空を見出すことです。

■ サイクリック宇宙

 私たちは今、ビッグバン-ビッグクランチのサイクルを30~50かいほど繰り返した後の宇宙に住んでいる、と考えられます。

 現在の宇宙の物質密度は、臨界密度に近い。WMAPなどの観測データによれば、宇宙項の効果が少しだけ物質密度の効果を凌駕しており、宇宙は膨張を続けると予想されます。宇宙項は真空のエネルギーと同義です。

 インフレーション理論は、インフレーションを引き起こす場が、かなり不自然な性質をもっていると仮定しています。

 超弦理論では、宇宙がビッグバンとビッグクランチを繰り返しながら、徐々にエントロピーを蓄えてきた、と考えます。

 私たちの宇宙の前の世代の宇宙は、年齢が30~40億年。地球に相当する星は存在しません。ですから、現在の宇宙の前の世代の宇宙には、人類は誕生しなかったと考えられます。

 次の世代の宇宙が訪れるかどうかについては、はっきりとしません。宇宙はビッグクランチせずに膨張しながら冷えていくだけかもしれません。私たちの宇宙が最後の宇宙ということになります。