「カスタマーデータプラットフォーム」 マーティン・カイン/クリス・オハラ 翔泳社

 セールスフォースの新たなデータプラットフォーム。技術的な興味から読んでみましたが・・・残念でした。ここ30年ぐらい、マーケティングには革新が何一つ無いのが残念です。上っ面の言葉が浮遊しているだけ。特にデジタル技術が遅れる日本では、50年前からマーケティングの世界は「凍りついている」。なんとかしなければ・・・。以下はこの本の要約と引用です。*印は私の見解です。

《はじめに》
 殆どの顧客が、同じまたは似た商品を買っています。その顧客がいつも注文する商品の画像を載せることで発注が増えます。
*行動の記録はあるが、感情の記述はありません。経験は時間軸状に並んでいます。神経科学の教えるところに依れば、意識の流れは行為の時間経過で推定できる可能性があります。
 顧客は1つのチャネルで示した行動や好みが、他のチャネルにも反映されるべきだと考えています。
*One-to-Oneの真髄は、後の方のOne。つまり、企業側がどの顧客接点でも「馴染みの客/知っている客」として「同じ扱い」をすることと言われて半世紀以上が経過しています。ですが残念ながら、それは多くの企業が実現していない、する気もないことなのです。
 ブランドの対するロイヤリティは低下し続けます。顧客経験の重要性がブランドの価値を上回るからです。コカ・コーラの、ロイヤルティプログラムMyCokeRewardは2017年に成果を出さず廃止されました。
 データの収集・保存・利用に対する顧客の意向は変化し、マーケティングに反感を持つようになりました。広告受容性も低下し、5人に2人の消費者は全く反応しません。企業・メディア・政府に対する信頼は低下し続けています。
 ブランド独自のチャネルで収取されたファーストパーティデータの利用は、多くの場合、受け入れられています。
 統合されていない(サイロ化された)データは、連携の無い組織の原因であるともにその結果でもあります。

《1.顧客データに関する課題》
 顧客データは、平均12以上のデータベースに保存されています。マーケティングの重要課題の上位に、顧客データソースの統合と、部門間での顧客データの一元管理と共有が挙げられています。
 企業は、僅かな購入意向の気配を嗅ぎつけや、集中攻撃を開始します。
 各部門のシステムは、顧客データを活用してそれぞれ異なる成果を挙げようとします。営業部門は売上、サービス部門は顧客満足度、通販部門は直販、マーケティング部門はエンゲージメント(顧客への複数のチャネルを通じての直接の働きかけ)。
 米国の成人は平均4個以上の通信端末を所有し、数百のクッキーと、プラットフォームごとに異なるID(AppleID・GoogleID…)を持っています。クロスデバイスID管理は、複数のIDを同一人物のものと認識するためのシステムです。
 プラットフォームは同意フラグを管理しています。データ収集、アナリティクス(閲覧行動などをレポートする)、ターゲティング(広告などを提示)、クロスデバイス(様々なデバイスのIDを含める)、データ共有(IDを他の関係者と共有する)、再識別(匿名化されたIDと個人情報ベースのIDを関連付ける)。
 匿名化データと個人情報の連携は、カスタマージャーニーの把握と設計の鍵となります。
 メールアドレスをシステムに入力してCookieまたはデバイスIDを出力する機能を提供する「データオンボーディング」事業が登場しました。

《2.顧客データ管理の歩み》
 リレーショナルDBとSQLが発明されて全てが変わりました。データベースマーケティングでは、SQLクエリを作成して、キャンペーンなどの条件に合わせて手作業で顧客リストを生成しました。
 CRMソフトウェアは、顧客向けオートメーションシステム。DBクエリを自動化する手段を提供しました。

《3.カスタマーデータプラットフォームとは何か》
 カスタマーデータプラットフォーム(CDP)の機能。クロスチャネルキャンペーン管理機能:顧客が店舗で購入したばかりの商品をメールで案内しないなど。セグメンテーション。ロイヤルティ管理。測定:マーケティングROIなど。プロファイルの作成:既知(個人情報)または匿名化の利用者プロファイル。データの取り込み。ID管理:確率的(ファジー)マッチング、クレンジング、重複チェック。正規化。使いやすいUI。
 プロファイル統合は核となる機能です。顧客セグメントの作成(群化)とコンテンツやタイミングの設計(活用)。

《4.顧客データの整理》
 標準データモデルを定義し、データの整形を行います。

《5.同意を得た上でのファーストパーティデータ資産の構築》
 欧州のデータ保護規制(GDPR)の7原則。
 透明性:どのデータが誰によって収集されているかが消費者に把握できる
 目的の限定:データは、消費者が認めた目的にのみ利用できる
 データの最小化:目的を達成するための必要最低限のデータのみを収集する
 正確性
 記録保存の制限:保存期間の制限
 情報のセキュリティ
 アカウンタビリティ:データ管理者は、データを監査および編集する能力を提供する
 消費者の信頼を得るための方針
 本人の知らないところで情報をやり取りしない:本人による共有が安心感を与える
 コントロール感を与える:GDPRの施行はコントロール感を与えた
 メリットを具体的に説明する
 人はそれぞれ違うということを忘れない:プライバシーについては層別にやり方を変える

《6.顧客主導鵜型のマーケティングマシンの構築》
 顧客接点(タッチポイント)から、顧客筋道(カスタマージャーニー)へ。そして、エクスペリエンスの積み重ねへ。

《7.アドテクノロジーとデータ管理プラットフォーム》
 データ管理プラットフォーム(DMP)は、アドテクノロジーの産物です。プログラマティック広告を産み出しました。オンラインのオーディエンスをセグメント化し、収益を向上させました。
 オンラインコンテンツを無料で利用したいユーザーは、オンラインでの行動データを提供してくれました。オプトイン型のデータ収集により、広告主のターゲティング対象となるユーザーが識別されます。IPアドレス・デバイスタイプ・閲覧行動履歴・位置情報などのデバイスデータが十分にあれば、個人として認識できます。インターネット上では、匿名の存在ではいられません。ユーザーに関する匿名化データを全て組み合わせれば、人物と行動に関する充実したプロファイルを作成できます。
 DMPを使ってデバイスIDを入手し、自社が認識している顧客層に似ている匿名化されたユーザーのセグメントを作成します。
 ユーザーが残すデバイスやWebサイトからの信号から、人々の意向を把握できます。
 顧客データ管理の一元化を実現するためには、組織を変革しなければなりません。
 パーソナライゼーションは直接的である必要はありません。さりげないアプローチが効果がある場合の方が多いものです。

《8.マーケティングにとどまらない活用例》
 eコマースで「カゴ落ち」が発生すると「カゴ落ち対策」のイベントがトリガーされ(リターゲティング)、ユーザーは根負けしてeコマースで注文すると、新規の購入のためのジャーニーを開始するイベントがトリガーされます。
 DMPに構築されたセグメンテーションにより、顧客接点の担当者は、顧客から把握すべき重要な項目を確認でき、対応を適切なものにできます。
 ペルソナベースで、顧客の行動と場所の文脈に応じた、購買に向けた接触筋道(ジャーニー)を構築します。顧客接点の担当者の画面に、顧客の購入履歴や評価が確認できます。
 多くの場合、個人ではなく世帯をターゲットにすると効果が上がります。決定権を握っているのは、一人だけという場合が多いものです。
 訪店を店舗からではなく、位置データを使って推定することができます。

《9.機械学習と人工知能》
機械学習(ML)と人工知能(AI)
 TensorFlowは、Google社が開発したものでニューラルネットワークのトレーニング機能を提供。Kerasは、TensorFlow上で動作するライブラリ。ニューラルネットワークのトレーニングとテストに利用されます。
 実務担当者であれば、探索・実験・MLとAIの内、DBクエリやデータ探索に従事しているでしょう。MLやAIの大部分は、ライブラリにまとめられ、定型化されています。アルゴリズムの作成は、一般的な業務ではありません。
 AI開発の中心領域は、画像認識と自然言語処理(NLP)です。例えば、SNSへの投稿に現れる銘柄とその経験や評価を画像と文章で認識し要約する。この要約を利用して、顧客へのサービスや対応や交信(体験)を改善する。レコメンデーションアルゴリズムで、商品の体験の画像や文章を最適化する。チャットボットのコンテンツを自動生成する、などです。
 ビッグデータの分析ツールによって、一般の人々もデータモデリングやスコアリングを利用できるようになりました。モデル化されたデータを用いて、顧客の生涯価値や反応傾向を推定できます。

《10.パーソナライズされたカスタマージャーニーのオーケストレーション》
 ジャーニーの管理やオーケストレーションは、カスタマーエクスペリエンス(CX)を実現するエンゲージメント(顧客への働きかけ)の自動化を行います。
 日用品の場合、消費者の銘柄想起セットと店舗陳列の買い易さ(フェイシング)で、顧客の購買行動の大半は決まります。ブランドの優良顧客にインセンティブを提供するするロイヤリティプログラムに大きな効果はありません。売上を達成するのは、消費者が買物をしている場所ですぐに手に入り、一貫したメッセージを発している「いつでも入手可能」な銘柄です。現在は、消費者が銘柄に関わる時所で、関心に合った形でリアルタイムに利用できなければなりません。
 顧客ペルソナの抽出と、ペルソナに基づいたジャーニーをセグメント化するエンゲージメントの特定。リアルタイムインタラクションは、顧客が好む接点を介し、ライフサイクルの適切なタイミングで、コンテキスト(文脈) に応じた経験と価値と有用性(ユーティリティ)を提供します。

《11.連携した顧客データを活用した分析》
 DMPが実現した「人ベース」の視点により、デジタルメディアの状況は一変しました。DMPの分析といえばメディアの検討でした。どのチェンネルの組合せ、どのタイミングのどのインプレッションが有効なのか、マルチタッチアトリビューションの対象はデジタルのみとなりがちです。
*チャネルミックスは加法(組合せ)、カスタマージャーニーは乗法(筋道)。使うモデルの根本から異なります。

《12.まとめと展望》
 最後に引き継ぐのはAIです。