「ドラッカーの実践経営哲学」 望月護 2010年 PHPビジネス新書

 ドラッカー信者が書いたドラッカー経営の本。著者は大日本印刷に勤務する実務家でもあり、解説は的確です。有難う御座いました。

 以下は当書の引用と要約です(*印の部分は、生禿のコメントです)。

 「私はアメリカの経営者に、所得格差を20倍以上にするなと言ってきた。これを超えると、憤りとしらけが蔓延する」(ネクスト・ソサイエティ)。アメリカと日本の会社の大きな違いは社員の処遇である。アメリカでは、食堂から駐車場まで別である。

 渋沢栄一は財閥を作らなかったが事業を残した。第一勧銀・東京海上・王子製紙・清水建設・一橋大学・日本女子大学など、生涯に設立した事業は500以上に及んだ。

*清水建設も渋沢栄一氏の設立だったんですね。清水建設を応援することにしました!

 「我々は『資本家なき資本主義』に突入している」(ポスト資本主義社会)。現在の先進国には大金持ちはいても、上場会社を支配するほどの株式を持った資本家はいない。一人の資本家が上場企業を所有することは不可能になり、『個人の資本家』はいなくなった。現在は、資本家のいない社会なのである。

 「今日の資本家は、年金基金である」(新しい現実)。アメリカでは上場企業の株式の半分以上を企業年金が持っている。機関投資家(信託銀行・生命保険会社・投資信託会社・企業年金)は、資金運用担当者、つまりサラリーマンが株式を運用している。

*現代の社会は、自分の金ではない他人の金を運用する。他人の会社を経営する。自分の腹が痛まない仕事、つまり、倫理観が欠如した仕事をする人が殆どなのです。

 資本家のいない資本主義社会になってみると、企業の所有者(大株主)の立場に立ってサラリーマン経営者を監視するシステムが、どこにもないことが欠陥であることが分った。形式的には監査役がトップを監督することになっているが、監査役の任命権はトップが握っているから、監査役はトップにものを言うことができない。そこで株主の立場に立ってトップ経営陣を監督する役割(ボード)と、日常の経営管理業務を執行する役割(オフィサー)を分けることが必要になったのである。事業ごとに専門会社に分けてグループ経営を行う。持ち株会社復活することになった。サラリーマン出身の専門経営者が経営できる仕組みが必要になっている。

 「金で人を惹きつけることはできない。それをやっているところほど人の出入りが激しい」(ネクスト・ソサエティ)。年功賃金から業績給や能力給に変わると、上役の匙加減によって評価が決まるから、部下を生かすも殺すも上役次第ということになる。その結果部下は上役の言いなりにならざるを得ない。

 スターバックスの会長・ハワード・シュルツは、長く栄える会社は社員と共存共栄する会社だと気がついた。経済が発達するかどうかは、人間をやる気にさせられるか否かにかかっている。リーダーは夢を語ることが大切なのだ。何のために何をするのか、何をしてはいけないのか。分かり易く共感を覚える言葉で伝えることができれば士気が上がる。社員が「自分が会社を動かしている」と感じられる仕組みを作ることが、リーダーに課せられた課題である。

 供給力が需要を上回ると、生産性を上げれば上げるほど人間が要らなくなり、価格競争が激しくなった。製造業の就業人口が減るのは、TQCやカンバン方式(リーン生産方式)などのマネジメントの知識が仕事に使われて生産性が上がるからである。

 ピーター・ドラッカーは、「企業の目的はお客を作ることだ」(現代の経営)を強調します。潰れる会社の幹部は、外部で起きている変化に無関心で社内に座っていたり、お供を連れてお客を回る.患部は自ら末端の小売店を回って話を聞いたり、お客と話をする以外に、売れ行き不振の本当の原因は分らない。

 価格はコストを合計して決まるものではなく、市場で決まるものである。市場には「適正価格」も「適正利潤」も存在しない。「社内にあるものは、コストセンターである。プロフィットは外からしかやってこない」(ネクスト・ソサエティ)。

 「顧客は、満足を買っている。しかし、誰も、満足そのものを生産したり供給したりはできない。満足を得るための手段を作って、引き渡せるにすぎない」(想像する経営者)。社内を管理してコストを抑えれば利益が上がる、と勘違いするとお客様に見放されて手遅れになる。お客が喜ぶサービスとは、売り手にとって「不便で手間がかかって面倒なこと」である。

 不況ではなく、転換が起っているのだ。

 経済成長とは、GDP(国内総生産)が増えることをいう。全体のパイを増やしている訳では無く、誰かが勝って誰かが負けるゼロサムゲームは国民を豊かにしない。

 破綻した経営能力の低い企業に、マネジメントいう高度の知識を加工して新しい価値を作り出す。日本の金融機関は病んだ企業を再生して健康体に戻す知識を持っていない。

 売れるものを開発して、買ってもらう仕組みを作る。経済を発展させるのは、新しい事業を起こす起業家のエネルギーである。

 市場経済理論には均衡を前提とするという欠点がある。イノベーション(創造的破壊)どころか変化さえ扱えない。シュンペーターが明らかにしたように、経済活動の現実は創造的破壊による動的な不均衡である。

 政府は景気をコントロールできる、というケインズの理論は、政府が税金を使う権限を持てるから、政治家にとっても、官僚にとっても、経済学者にとっても、都合の良い理論だった。

 マーケティングは、お客様に買ってもらえる仕組みを作る。

*生禿の学生の頃から言っていた言葉では、「マーケティングとは、売る(買われる)可能性を作ること」です。

 販売活動を外部依存することほど危険なことはない。一つのお客の売上高が会社全体の1割を超えることも危険である。仕入先を1社に依存することも危険である。

 「業績をあげるのは、利益を生む製品や顧客に集中しなければならない」(創造する経営者)。この教えに従ったのが、GE会長ジャック・ウェルチの「選択と集中」。世界の市場で3位以下の事業から撤退して、人物金を集中した。「問題を解決しても成果は得られない。成果は機会を開拓することによって得ることができる」ジャック・ウェルチ。

 利益は固定客から得られる。固定客のニーズは知ることができ応えることができる。企業が売っていると思っているものを、お客様が買っていることは殆ど無い。「お客様は誰か」「お客様は何を買っているか」を考える。

 「最も重要な情報は非顧客についてのものである。変化が起こるのは非顧客の世界である」(ネクスト・ソサエティ)。非顧客をよく見て手を打っておけば、売上を伸ばす余地が潜んでいる。競争相手とみなしている製品が、本当の競争相手であることは稀である。お客様が何に満足して金を払っているかを知らなければ、利益を上げることはできない。重要なことは、お客様がカネと時間を何に使っているか、を調べることだ。

 アメリカのドラッグストア ウォルグリーンの三つのお客様を規程する。1)儲かるお客様(65歳以上のお年寄り)、2)女性のお客様、3)将来のお客様(ティーンエイジャーの女の子)。

 小売店では、新規客4人の内1人が1回の来店で終り、2人の内1人が3回の来店で終わっている。飲食店では、新規客の2人の内1人が1回の来店で終り、5人の内4人が3回の来店で終わっている。

 お客様を大事にするためには、お客様を好きになることである。こちらが好きになればお客様にも好かれる。

 社員は仕事より自分の昇進を気にして動き、その結果、会社中がお客様に無頓着になってしまう。縦割りの組織で働いていると、会社全体が見えず。内向きになってしまう。上役の顔色を窺うようになれば、お客様の声は上役に伝わらない。トップは裸の王様となり、現場の人間には不満が溜まる。

 国際企業は本国に利益を移転し、配当や税金を払うから、日本を本社とする国際企業が増えれば、日本国民は豊かになれる。

 一貫生産と大量生産は、現在では儲かる方法ではなくなった。少量多品種生産では、セル生産方式の方が生産性が高い。一貫生産よりも、専門会社とのネットワークを組んで必要な都度利用した方がコストが下がる。

 上手く機能している組織は、会議は無くても仕事は支障なく動いている。

 利益を上げることを目的にして作られた組織が独立採算組織である。事業部制は独立採算組織である。機能別組織で働いている人間は、自分の部門が会社全体にどういう貢献をしているのかが理解できない。機能別組織は、コストダウンだけがテーマになる。機能別組織は、調整が必要になり、会議が増えてコスト高になる。採算責任をはっきりさせるために、組織を独立採算型に再編成する

 スタッフとは責任抜きに権限を持つことを意味する。そのような者を持つことは、破戒的な害をもたらす。お客様のありがたさを知らない本社スタッフが役員に昇進して、現業部門の邪魔をしている。人事などの本社スタッフを減らすことが必要だ。

 「マネジメントの内部指向は、情報技術の発展によって増大している」(明日を支配するもの)。幹部が社内のデータに自己満足して、外部に目を向けなくなった。殆どの人間は、データを見ても情報を読む取ることができない。

 市場の論理では「競争に負けたものは退場する」。共同の論理は「弱いものに合わせてみんなで生き残る」。共同の論理には、お客様を尊重する姿勢は無い。日本の企業が重んじている愛社精神も、お客様を軽視している病原菌の一つである。暗黙のうちに行っている業界協調主義も猛毒である。

 儲からなくなった事業をやめる。撤退の判断ほど難しいものはない。膨張と成長を混同してはいけない。なすべきことをなした上での成長でなければ、成長とは言えない。「革新の基礎は、価値が無くなりつつあるものを、計画的にかつ体系的に捨てることである」(抄訳マネジメント)。「やめる会議」で、やめても差し支えないもの、儲からなくなったものについて見直しを行う。

 「政府には景気をコントロールする力がある」と言うのは幻想である。経済は一つ一つの企業が積み重ねた業績の結果である。

 「政官業の持たれ合い」「含み益経営」「銀行と系列企業の株の持ち合い」「官僚の無謬神話」は崩壊した。政官業のスクラムを粉砕したのは、会計システムの変更だった。これまで明るみに出なかったことが、明るみに晒されたのである。系列企業の株の持ち合いも、系列の要の銀行が合併したりして、様変わりした。年金資金を運用している生保・信託銀行・投資顧問会社は、年金基金の代弁者として、企業に意思表示をするようになった。