「サブスクリプション経営」 根岸弘光・亀割一徳 2020年 日経文庫

 SI系の今猿が書いた本。普通なら絶対に読まない類の著者の本なんですが、サブスクリプションがテーマなので手に取ってみました。やっぱりSI今猿の本でした … が、テーマがテーマだけにそれなりに納得できる示唆もありました。ありがとうございました。なんですけど、今猿だから、現場の現実の知恵は何も無いのだけれど …。 以下はこの本の要約と引用です。


《はじめに》

 定額サービスを始めとするサブスクリプション・ビジネス(継続課金事業)には、従来の事業から変革すべき事項が数多あります。

《1. サブスクリプションが注目される理由》

 ITプラットフォーマーに代表されるように、顧客体験を提供し、顧客情報に基づいた意思決定を行うことで、継続購買を維持します。顧客接点の再構築は、事業組織と業務過程と情報基盤の改革です。

 欧米企業のIT投資は、AIや顧客接点に7割以上が投資されています。日本企業のIT投資は、バックオフィスを支える基幹システムが中心で、顧客接点の向上に向けた投資は僅かです。日本企業で継続課金事業の成功事例はありません。

 サブスクライブ・ウィズ・グーグルは、会員登録作業をグーグル・アカウントの登録情報を使って効率化しています。フェイスブックも継続課金事業の支援サービスを提供しています。アマゾンでは、SaaS商品の比較・購入・管理をワンストップでできます。また、契約・与信・販売・決済・請求・入金管理やマーケティングまでを支援しています。あらゆるBtoB商材のクロスセルが進みます。

 継続課金には、定額制や従量課金や限定無料提供(無料体験)があります。

 ネットフリックスは、顧客の嗜好を分析し、顧客にあったサービスを提供して、継続利用を実現しています。

《2. 各業界への広がり》

 「事」事業では、顧客行動データの取得と分析とサービスの改善の輪を回します。製造業が事事業を検討するということは、顧客視点での企業変革を目指すということです。

 ギターを継続して利用する顧客は、生涯にわたって数台のギターを購入します。フェンダーは、オンラインでチューニング・ギターレッスンなどを含めてサポートするサービスを事業化しています。

 HPもインクの継続課金事業で収益を上げています。印刷状況を取得し、料金が計算されます。販売店にもインセンティブが入る仕組みです。

 継続課金事業は、加入の障壁は低く、かつ自由に退会できます。独自の価値を開発し提供し続けることが不可欠です。顧客経済価値の向上が継続課金事業の要点です。

 カーシェア事業の成功事例は世界にありません。日本国内では、AOKI・ゾゾタウンなどのアパレルでで、継続課金事業の低迷と撤退が続いています。

《3. 変革成功のためのポイント》

 最終的には、実施してみないと本当の課題は見えてきません。行動し実行する人材が大切です。

 サービス企画は、顧客体験に対応し続けなければなりません。マーケティングは、顧客との関係づくりに重きを置きます。経営管理部門は、精度の高い収益予想と適切な経営指標の確立が必要です。

 物を伴う事事業では、顧客と製品の二つの個別管理を統合しなければなりません。故障や修理や保守などの顧客接点と業務過程の設計も重要です。

 代理店や販売店を継続課金事業に巻き込む場合には、周到な準備が必要となります。その際、顧客情報を自社で収集できるよう、サービス開始の契約は自社のサイトに入力させるなどの工夫が必要です。

 製品販売事業は[価格*数量]で、継続課金事業は[価格*契約数*契約期間]で計算します。継続課金事業は、将来の売上を考慮して投資計画を立案する事業です。新規の契約と既存の解約の分析置から、収益を予想します。顧客の獲得と維持のための支出が計画されます。

《4. サブスクリプション・ビジネスを支えるIT基盤》

 従来の物流・販売管理システムには、契約期間という考え方がありません。統合された製品管理と契約管理が必要です。ECサイトやCRM(顧客情報管理)とも接続されます。ECサイトへの導線設計では、多数の経路の統合管理も必要です。決済プロバイダーとの接続も求められます。ERPやCRMのパッケージと連携するAPIを検討します。

《5. 変革プロジェクトの推進手順》

 継続課金の事業モデルは、顧客に対して価値を提供する「やり方」です。全体の整合性と実現可能性を検討します。検討されたサービス仕様を基にして、業務の過程と機構を設計します。サービス利用規約・契約書・販売指針・業務手引書も出力されます。

・サービス仕様
商品:製品とサービスの規格・提供方法・料金プラン・契約形態
顧客:顧客像・提供価値・顧客接点・顧客管理方法
利害関係者(ステークホルダー):提供主体・販売社・委託先

 顧客行動データとは、サイトの訪問・クリック・コンテンツの視聴・メールの開封やクリック・サービス利用などオンラインの行動の総称。

 コールセンターなどの顧客接点や物流などを含む運営費用や、事業全体を俯瞰した業務機構などを検討し、事業計画をまとめます。

 継続課金事業は発想の転換を要求します。従来とは異次元のカスタマージャーニーの設計、損益シュミレーション、オペレーション設計が求められます。また、短期では収益が減少し、これまでの常識や経験と反する事象計画の審議と投資判断を行わなければなりません。

《5. 日本企業が成功するために》

 ダイキンは2018年に導入した「エアアズアサービス」など、サブスクリプション事業を展開しています。

 ラクサスの高級ブランドのバッグのレンタルサービス。RFIDタグを活用して、紛失・破損しにくい個体管理の仕組みを構築。バッグ返却時は、状態を確認し、補修や保管の履歴も管理します。扱いが雑などの質の悪い顧客を退会させ、優良顧客を囲い込んで、料金を抑えています。ラクサスは、2019年にワールドが子会社化。成長資金を得て、業務を拡充しています。