「広告入門 5版」 梶山皓 2007年 日経文庫
後にも先にも唯一人の広告学会会長だった(形式上は違いますが、事実としてそうなんです)小林太三郎先生の教え子である生禿が、何を今更「広告入門」なのかと言えば、大学の講義で広告コミニュケーションの内容を少し一般向けの内容に易しくしようと思ったからです。生禿にとっては、「空気」化してしまった広告論の「当たり前」を他人に説明するのは意外に難しいことなのです。この本は生禿の考え方とは大きくかけ離れていますが、学生向けの教科書としては「こんなもん」かと思います。 以下は、この本の要約と引用です。*印は生禿の見解です。
1. 広告とは何か
ブランドの言葉の起源は、中世英語で「燃焼」「松明」など火にまつわるものです。16世紀になると、家畜や家具などの所有物につける「焼印」の意味になり、19世紀には商標やラベルの意味になりました。
消費者洞察に基づくクリエイティブ・ブリーフ=アカウント・プランニングは、人間の主観に依拠した広告アプローチです。米国には、クリエイティブ・プラットフォームという言葉が以前からあります。クリエイティブ・プラットフォームを作るのは制作者です。
*日本の広告の実務者や学者は科学を理解していないので、「較正」によって科学の事実とする技能を以てこその「洞察」であることを知りません。浅学にも程がありますね。
1990年代に、広告のビジネスのルールとなってきた手数料(コミッション)制度が欧米で崩れました。メディアのプラニングとバイイングの専門会社が成長し、広告プラニングにはコンサルティング会社が参入しました。
宣伝はプロパガンダ。語源は「伸ばす」「繁殖する」。17世紀のローマカトリック教会・布教聖省に由来します。
英語のアアドバーティズメントの語源は、ラテン語の「振り向かせる」「注意を引く」という意味です。広告は、広義のプロモーションの一部です。日本では、SPを広告に含めて考える風土があります。
製品の位置づけは変わります。コカコーラは、19世紀に精力剤として生まれ、20世紀に清涼飲料水に変わりました。アスコルビン酸(ビタミンC)は、風薬として開発され、その後は化粧品、制癌栄養剤、ストレス抑制剤、免疫活性剤、口臭予防材。健康食品などに姿を変えてきました。
アメリカでは、19世紀のグレンジャー運動(農業擁護運動)によって中間組織を排した通信販売が全国に広がります。
2. 広告主の活動
アカウントは、元来は「取引口座」の意味。広告ビジネスは、委託契約か請負契約(仕事の完成まで責任を負う)なのか?広告会社自身が媒体を購入し、広告主に再販売する「買切り」もあります。
広告会社に仕事を委託する場合には、広告主の基本方針を説明します。これを「オリエンテーション」「ブリーフィング」と呼びます。
大型小売店は、セールの関係で毎日のように広告を制作します。外注に馴染みません。米国では、小売店は広告会社を使わないのが通例です。
国土の広い米国では、全国規模の流通制作が難しく、マスメディア広告を用います。
3. 広告会社の役割
1980年代に、英国の広告会社が、米国の広告業界にM&Aを仕掛けました。米国の広告会社もM&Aで応じた結果、欧米の広告業界はメガ・エージェンシーによるグループ経営へと変身しました。巨大化した米英の広告会社(オムニコム(米)・WPP(英)・インターパブリック(米)・ビュブリシス(仏))は、世界各国に進出しています。
◇広告会社の業務
客先の製品を調べる
売る市場を調べる
流通経路と販売方法を調べる
コミニュケーション(広告)媒体を探す
広告計画を作る-客先に提示する
広告計画を実施する(広告を作る・媒体と契約する・広告を媒体へ届ける・広告出稿を確認する・広告料金を払う)
客先の販売を助ける
米国の広告会社はマスコミ広告だけを行います。メディア・レップは、特定媒体の広告取引を代理します。日本の広告会社は、総合サービスを提供するマーケティング・エージェンシーやコミニュケーション・エージェンシーへと動いています。米国は専門化する方向に動いています。
コミッション(手数料)制度では、広告会社が媒体社に広告料金を支払う義務を伴います。手形払いが多い日本では、広告会社が金融機能を果たします。フィーは、広告会社が広告主に提供したサービスに対する報酬です。日本の広告会社は、現在も手数料を中心とした取引を続けています。
米国の広告会社は、一業種一社制を原則とします。広告主が機密保持のために、競合の扱いを嫌うからです。巨大広告資本は、各社を独立したままグループ化する形態としました。米国の広告会社のアカウントの寿命は4〜5年と言われています。
4. 広告メディア
日本のテレビ放送のキー局は、有力新聞社に割り当てられたので、放送系列もニュース配信を柱としています。日本の民間放送は総務省の監督下にあり、他のマスコミと比べて規制が厳しいのが特徴です。
ユーザーがアドレスを登録して情報を受け取るサービスを「オプトイン・メール」と呼びます。オプトインは「参加することを選ぶ」という意味です。パーミッションは、顧客が許諾・同意することです。
◇インターネット広告の効果
ヒット:サイトが見られた総数
サーバーから読み出されたオブジェクトの総数
アクセスされたページだけをカウントしたのがページ・ビュー
広告の出ているページだけをカウントしてのがインプレッション
アクセスした人を(延べ)人数でカウントし直したのがビジット
本人確認を必要とするため、予め登録が必要
クリック(クリック・スルー):広告をクリックした件数
クリック・スルー・レイト=クリック回数/広告頁のアクセス数
クリック率の低下で、回数保証は下火になりました
レスポンス:目標行動の記録(ダウンロード・資料請求・売買契約)
成功報酬型をアフェリエイトと呼ぶこともあります
5. 企業戦略と広告
マーケティングとは、顧客に向けて価値を作り、伝え、届ける過程である。
人間が広告を見てから行動に至るまでのメカニズムは、今日もなおブラックボックスです。
意識の閾値下に刺激するとした1957年の実験結果は、今日ではデータを改竄したという見方が有力です。
1961年にR・H・コーリーが唱えたDAGMAR(広告効果を測定するための広告目標の設定)。広告効果が実現する過程を、知名・理解・確信・行動の4段階に分けました。製品を買った後でそれが好きになり、自分の選択が間違っていなかったことを確認する過程もあります。
6. 広告計画の策定と実行
米国では計画や検証のステップが、日本では実行、即ち現場の日常業務が重視されます。
目標と結果が異なった場合は、社内で理由を説明する責任が生まれます。そのため、広告効果の測定をためらう企業が多いようです。
ブランドにパーソナリティをつけて顧客に好みや親しみを抱かせます。顧客との長期関係を築くリレーションシップ・マーケティングの理念が広がりました。
「効果のあるコミュニケーションとは、相手の言葉で話すことである。巧みな伝達者は、相手の望み、恐怖、能力をつかむ勘を持ち、自分の言いたいことを、相手に関連のある言葉に翻訳することができる」M・マクルーハン。
・クリエイティブの考え方
USP:製品のユニークなポイントを発見して、その点を強く説得する
ブランド・イメージ:デイビット・オグルビーが提唱した、ブランドの個性の演出(ブランド・キャラクターと異なり、イメージソ訴求ではない)
ポジショニング:アル・ライズとジャック・トラウトが述べた、製品の認知上の位置
日本の広告界はタレントを使う習慣があるため、誰を起用するかが広告の重要な意思決定になります。米国の「スライス・オブ・ライフ」は、日常の問題を製品が解決するドラマです。米国では比較広告が多く見られますが、日本では商習慣に馴染みません。
特定の継続期間の[リーチ(到達率)×到達回数(フリクエンシー)=GRP(延べ視聴率)]。一般に期間は4週間を基準にします。最近は、GRPをメディアの共通尺度として用いる傾向があります。
広告には発火点があり、最適到達回数の指標として「有効フリクエンシー」が用いられます。H・クラグマンの「スリー・ヒット理論」。1975年にマイケル・ネイブルスは、有効フリクエンシーを4週間に3回としました。新着映画は、10日間に24回以上という研究もあります。
J・P・ジョーンズの「リーセンシー理論」は「点滴戦略」とも呼ばれます。ジョーンズは、ニールセンのシングルソースデータから広告と売上の関係を分析し、広告は消費者が購買の直前に露出すれば効果があるとした。広告日程は、集中するよりも購入間隔に合わせて継続した方が良いとしています。
広告の初期段階に効果の閾値があれば「有効フリクエンシー」。ブランド認知がいきわたっていれば「リーセンシー」になります。
CPMは、製品の見込客について計算することが原則です。最適なメディアプランを提示するオプティマイザーを用いれば、自動でコスト計算も行えます。
*既存のメディアに関しては、広告取引のプラットフォームが構築されていません。
日本でも近年は広告主のコスト意識が高まり、広告の説明責任が問われています。広告効果が数字に現れる(インテージの)シングルソースの消費者パネルやインターネット広告の登場により、効果測定ができる環境が整っています。新聞や雑誌の到達レベルは、ACRの閲読率で把握することができます。ピープルメーターは、個人視聴率を測る機械です。日本でも1997年から、関東と関西で測定が始まりました。
7. 広告規制
広告を制限すれば、民主主義を守るマスコミが打撃を受けることになります。広告規制は、その運用に絶対の価値基準はありません。日本には広告規制を直接目的とした法律は無く、150以上の関連法規が広告を規制しています。日本の広告規制の特徴は、自主規制が発達していることです。1974年にJAROが設立され、自主規制の役割の中心を担っています。
特に規制が厳しいのは、厚生省の行政指導下にある医薬品業界です。かつては弁護士や病院の広告も規制されていましたが、近年は規制緩和に向かっています。