「フィンテック」 柏木亮二 2016年 日経文庫
再読です ← また同じ本を買っちゃいました!なのですが、頭に入っていないことも多いので丁度いいかも ← 「いい」訳です! せっかくですから、SNSの書き込みや交友関係などのライフログの活用という観点から見つめ直してみました。以下はこの本の要約と引用です。*はウェブ検索の結果です。
《はじめに》
技術革新は、金融とは関係が無かった事業にも金融機能を組み込むことを可能にします。
《フィンテックが注目される理由》
既存の金融機関おサービスは使い易いものではありませんでした。ベンチャー企業が提供するサービスは、当初は限られた機能しかもっていません。機能が限られていても、利用者の不満を解消すれば、利用者に受け入れられます。
既存の金融機関の巨大で複雑なサービスを作りかえるには、その変更による他のシステムへの影響を検証しなければなりません。
フィンテックは金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)によっても注目されます。社会包摂は、孤立した人たちを社会の構成員として取り込む制度や環境を作ります。世界で生産年齢にあたる成人の半分が金融サービスから排除されていると推計されます。
リーマンショック後の金融機関の対応から、米国民は金融機関に不信感を持ちました。金融機関をリストラされた人々を大量に生み出しました。彼らの中から、フィンテックベンチャーに移っていきました。
1980〜90年代に生まれた米国のミレニアル世代は、就職難などを経験し、非正規雇用でしか職を得られない人も多く、コストに敏感。
現金は非常にコストのかかる決済手段です。PFM(個人資産管理)導入の障害は、現金支払いのデータ化です。レシートを撮影すると自動でデータ化する機能を提供しています。スウェーデンでは銀行の支店もキャッシュレス化しています。現金が全く無い支店が大半なのです。現金がデジタル化すれば、多くの装置と労役が不必要になります
《進化するフィンテック》
ATMの普及に伴い、磁気情報としてお金を扱うインフラが整備されました。
金融機関は情報システムのハードとソフトの全てを自ら設計し構築してきました。
セキュリティ面で、スマートフォンの方がPCよりも優れています。
APIは別のソフトウェアの機能を呼び出す手順。多様な参加者が強調するエコシステム。API、AI、ブロックチェーンは、分解された機能を統合し、新たなサービスを生み出します。
《今が何が起こっているかを抑えておこう》
デジタル化によって、時間や区間の制約が無くなり、コストが低下し、情報の扱いが容易になり高度になります。デジタル化されたお金は、少額の取引が可能になり、新しい事業が生れます。
ライフログの分析によって「借金をする能力」が判るようになります。情報のデジタル化はリスクのデジタル化でもあります。
人と人の、人と組織のつながりがデジタル化され、様々なシェアリングエコノミーが出現しました。P2Pレンディングやクラウドファンディングもその一つ。
金融取引では、本人確認が不可欠です。顔写真がついた本人確認書類などによる点検が要求されます。本人確認は金融機関にとっても大きな負担になっています。
*スマートフォンを用いたマイナンバーカードによる公的個人認証サービスは、2022年時点で「検討中」の状態のままです。
トークナイゼーションは、情報を別のデータに置き換えることで情報漏洩を防ぐ方法。トークンは言わば「引換券」。例えば、クレジット番号の一部を異なる番号に置き換えたものが「トークン」です。
生体認証を含めたパスワードに代わるより安全な認証技術。スマートフォンを通じて決済が可能です。メッセンジャーを通じた送金も実現しています(日本国以外)。
アグリゲーションは「集約」。様々な金融機関の口座情報を集約するアグリゲーションサービス。収入と支出の全体が正確に見えるようになり、消費-金融行動が変化します。PFMは、個人資産管理、家計簿、支出分析、税金計算などの機能が提供されます。
金融機関の口座情報では、「カード引き落とし」だけで「何に使ったのか」は把握できません。金融機関は機能の提供者に過ぎなくなってしまいます。
《金融ビジネス・実務への影響》
金融機関の機能は、資金の決済と保存と集散と移転。
以前は情報コストが高く、貸し借りのマッチングは困難でした。インターネットを使って情報を集約し、人工知能でリスクを判定して金利を設定すれば、P2Pの融資ができます。マッチングだけなので銀行ではありません。担保も取りません。貸倒引当金も必要ありません。
クレジットスコアは、返済能力を示し、このスコアが基準を満たさない人は融資の申込もできません。P2Pレンディングの利用者は優良な借り手なので借入金利は低く、低コストなので貸出金利は高くできます。P2Pレンディングの主な用途は借換です。日本には貸金業法のためにP2Pレンディングは存在しません。
クラウドファンディングには、寄付型や投資型や貸付型など多様な形態があります。プロジェクト実行者と出資者の間の「共感」、価値観の共有が基盤です。コミュニティの形成ができます。出資者と言う支持者を得ることができます。そのお金は「志金」です。
ロボットによるフィナンシャルアドバイスサービスは、数百ドルの資金規模から、低い手数料で利用することができます。
AWSはスタートアップ企業の参入障壁を大きく引き下げました。多くのフィンテック企業がクラウドコンピューティング上に構築しています。決済や預金事務などの銀行機能は、地方銀行に任せています。銀行免許を持たない銀行なのです。
スマートフォンのライフログを記録できるようになりました。友人関係や書き込みや閲覧記録や購買履歴を分析して、信用度や行動傾向の分析ができます。ライフログの利用には利用者の同意が必要です。
会計ソフトのクラウド化は、よりリアルな経営情報の共有を可能にします。経営の透明化が進みます。
IoTの進展により膨大なデータが利用できます。自動運転も可能になります。医療保険にも運動量に応じたボーナスを提供するサービスがあります。ユーザーが健康であれば、保険金の支払いを回避できます。
新たな顧客のニーズを満たす製品は、市場の核顧客のニーズを満たさないローエンドの性能で市場に参入します。
巨大企業が対応できないまま、市場がイノベーターによって席巻されてしまうのです(イノベーションのジレンマ)。経営陣が無能なのではなく、核となる顧客の要求にこたえ続けるのは当然のことです。無消費層は、低価格で簡潔な製品が参入する余地を生みます。
《フィンテックにどう向き合うか》
金融機関は自前主義が強く、失敗に厳しい組織です。
・イノベーションへの対抗策
革新に適したプロセスと価値基準を持つ組織の買収
既存の組織と切り離した新たな組織の設立
海外のある銀行は、買収した企業の社員にも9時出社とネクタイ着用を義務付けたら、大半のエンジニアが辞めたという話があります。
シリコンバレーなどにリサーチセンターを設置し、外部の研究機関などと共同研究も行います。金融大手は、ベンチャーキャピタルやインキュベーターも設立します。オープンイノベーションへの取組みも進むでしょう。
日本国内の金融業界では、1990年代以降は大規模な投資は行われていません。合併によるシステム統合が優先されました。制度変更や既存システムの更新に予算の大部分が割かれています。
海外ではユーザー企業が自社内にITエンジニアを抱えて自前で構築・運用行っています。日本ではIT技術者の過半がベンダーに所属しています。
金融の規制は、利用者保護、信用秩序の維持、国際的に一貫した規制で構成されています。信用秩序は経済活動の重要な基盤です。信用秩序を維持する方法が許認可です。金融機関が営むことができる業務の範囲は、法令で列挙されたものに限定されています。
今までの規制は、業法によって行われてきました。業界をまたいだ想定外のサービスが提供されています。規制の体系をサービスの内容に基づいたものに見直す必要があります。
《さらに進化するフィンテック》
APIエコシステムがどのように進展するのか? *金融庁のオープンAPIに関する取り組みは進んでいないようです。
機械学習の質は、元となるデータの質に左右されます。
ビットコインで用いられているブロックチェーンの仕組み。そのブロックと1つ前のブロックに関する情報、ノンスと呼ばれる次のブロックを作るための情報を含むヘッダ。ある時間に行われた全ての取引リストを記録したトランザクション。ノンスを探し出す行為はマイニングと呼ばれます。各ブロックはヘッダに記録されている情報によって繋がっています。
ブロックチェーンは、ダウンタイムの無いシステムが安価に構築でき、事務手続きや監査の削減、高いセキュリティが期待できます。広範囲の取引と契約の社会基盤となります。
APIにより標準・部品化された金融サービスは、人工知能による高度なデータ活用とブロックチェーンによる高効率なプラットフォームを得て、さらなる進化を遂げるでしょう。
フィンテックは金融サービスを小額化・短期化・細分化します。スマートフォンからいつでもオンオフでき、必要な時だけ利用するオンデマンド保険もその一つ。